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幕間13 墓前にたむけし雪の花と、勇者が繋ぐ縁

 モルダナ共和国の冬は、雪に覆われ厳しい。

 一面の銀世界になるこの地。今、目の前には墓標が立っていた。幼い頃に亡くなった姉のものだ。

 姉が好きなスノークラウンを供える。


「また冬が終わるな」


 声を落として語りかけた。白い花が風に揺らめく。

 1人分の足音が背後から近づいて来た。オレは立ち、振り向く。


「悪りぃ、邪魔した」

「いい。用は済んだ」


 無駄な会話は好きじゃない。

 目の前にいるコリーは、いろいろな点において楽だった。


(こいつはこいつで、何か抱えているっぽいけどな)


 しかし、そんなものは誰にでもあることだ。

 コリーは気だるそうに後ろ頭を掻き、微苦笑を浮かべ「行くか」と言う。返事の代わりに頷き、歩き出す。


「でさ、次どこ行く?」

「そうだな」


 問いかけに答えながら思案した。

 家々が連なる中を進んでいる時、どこからか老人の呼び声が響く。


「坊ちゃま!」


 遠くから駆け寄って来る姿も、声も知らないものだ。

 だが問題ない。答えはすぐ横にあった。


「バルフェロ、どうしてここに!?」


 驚いている様子から、待ち合わせではないとわかる。

 眼前まで来た老人は、一目で只者とは思えなかった。立ち振る舞いに隙がない。


「探しましたよ、坊ちゃま」

「ちょっ、今はもうそう呼ばなくていいんだよ」

(どうやら関係性は主従のようだ。実家絡みか)


 彼らの会話からおおよその察しはつく。

 チームを組んでいる以上、最低限の情報は頭に入れている。コリーの反応をみるに、実家より生家のほうが可能性としては高いか。

 となれば、ローデリム合衆国絡みの問題が舞い込んで来たか、と疑ってしまう。


「少し前にランカディア王国で、グランゼーレ家の馬車を見かけました」

「げっ、あの人達、また何か……」

「不穏なものを感じ、尾行しましたところ、何やら揉めておいででした」

「尾行って、何もされてないよな」

「はい、私めは大丈夫で御座います」


 あのコリーが身内に優しさを見せるとは……。

 余程彼は大事な人といえる。心配に礼を告げたバルフェロが、こちらへ目を向けた。


「そちらは坊ちゃまのお友達ですかな」

「ああ、紹介するよ。彼は今一緒に旅してるヴァルツ」

「ヴァルツ・ホプキンスです」


 挨拶と共に会釈をする。

 皺が刻まれた顔で微笑み返された。


「ようやく見つけましたよ」


 唐突に頭上から降ってきた声。皆が空を仰ぐ。

 逆光を浴び、鳥影が人の形となって降り立つ。オレンジ色の髪がいやに目立っていた。まっすぐこちらへ向かって来る。


 彼はやって来るなり、コリーをまじまじと見つめる。

 凝視されたほうは困惑していた。


「なんすか」

「貴方、コリー・サンダリア・フォルツァネーラ君ですよね」

「そうすけど、貴方こそ誰なんですか」

「これは失礼しました。私はインクリッドと申します」


 芝居がかった所作で男は一礼する。

 どこかの劇団員なのか、個人の気性か。少し警戒したほうがいいかもしれない。

 横に目をやれば、また顔を引き攣らせている。本当、大変な奴だ。


「実はコリー君に、勇者様からお手紙を預かってまして」


 そう言って彼は手紙を差し出す。

 怪訝な面持ちで手紙を受け取り、読むのを傍らで見守った。

 文面を追うごとに表情が曇っていく。どんな内容か知らないが、あまりいい報せではないようだ。


「ほほう、勇者殿ですか。既にご帰還された方から文とは、なかなか……」

「いえいえ、違います。今の勇者様からですよ」

「そうでしたか、失礼致しました」


 こちらが沈黙している間も会話は続く。

 お喋りな連中だがちょうどいい。このまま聞いていよう。


「なんと、勇者カイル様と会ったことがあったんですね」

「はい。以前少しだけ、助力したことがありましてな」

「そうだよ。バルフェロ、どうしてあの時っ」


 手紙をしまったコリーが、2人の会話に割り込んだ。

 バルフェロが指で顎を撫でる。


「亡き友の願いに応えたまで。彼はカイル殿と旅を共にし、親しかったですから……」

「共に旅をというと、もしやオルフェンですか?」

「ご存じでしたか。ええ、私の親友です」

「もちろん知ってますとも。彼は最初の仲間でしたからね。何度か会ったことがありますよ」


 勇者カイルとそれはもう親しかった、とインクリッドは言う。

 思わぬ出発点から始まった会話は、次第に「管理者」という方向へ発展した。


「しかしまあ、管理者殿まで代替わりしてたとは……」

「おや、先代ともお知り合いだったんですか」


 バルフェロは頷いて続ける。


「ええ、あの時も確か、勇者殿とお会いした後でした」

「先代の頃となるといつだろう。邪龍ベルモンドか、それとも」

「ジルビリット国内の戦地だったかと」

「なるほど〜わかりませんね」

「話聞いてると、やっぱ勇者って碌なもんじゃねーな」


 あっけらかんとしたインクリッドに反し、コリーは苦虫を噛み潰した風に吐き捨てた。

 確かに同情くらいはできる。だが、所詮は蚊帳の外にいる人の感覚だ。彼らとは熱量が違う。


(とはいえ、勇者絡みの情報は捨ておけないな)


 危険の高さを示すものだといえる。

 考えを巡らせ、ちらと傍らのコリーを見た。


(まあ、どう扱うかは追々でいいか)


 一歩前に出て、インクリッドに対し声を掛ける。


「お話し中に悪いが、1つ要望を出していいだろうか」

「構いませんよ。私にできることなら」

「ならば今後、定期的に勇者側の情報をくれ」


 望むなら情報料を支払う、と加えておく。

 しかし彼は首を振り、あっさりと快諾した。散々話した後、また飛び去って行く。

 情報もだが、こんな所で神祖族と接点を持てるとは幸運だ。


「ヴァルツ」


 コリーが呟くような抜けた声を出した。


「勘違いするなよ。有益だと判断したまでだ」

「ああ、そうだよな」

「ぼさっとするな。行くぞ」

「お2人とも、しばしご一緒して宜しいですか」

「別に構わない」


 言いながら再び気の抜けている相棒を見る。

 彼はやっと決心がついたのか。パッと表情を明るくして言う。


「うん。バルフェロが一緒だと心強いよ」


 その返答を認め、オレは背を向けて歩き出した。

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