≪五章≫破滅への序章 ①
立ちのぼる粉塵の中から憤怒に支配されたカエデが躍りでる。
「クソがぁ!」
息つくヒマもなく、司がそれを迎え撃とうと次なる詠を紡ぐ。
「明日へ飛ぶ光――邪なる者を討て」
たんに魔力を収束して撃つだけの直線的な魔術はカエデに当たらない。
それで充分。
ようは一瞬でも冬弥が接近する隙を作れればいい。
そう……楽観していた。
「ラァ!」
強化した肉体は猛獣のごとき素早さを発揮し、間合いへと容易に踏みこんだ。
それが間違い。
歴戦の戦闘狂たるカエデがそう簡単に、戦闘経験の浅い二人に主導権を握らせるわけがなかったのだ。
「退いていろ!」
「ごっ!?」
完全に虚をついたつもりだった冬弥の腹部にとてつもない衝撃がはしる。
カエデにはいま右腕がない。
死角から踏みいった冬弥を妨害した物は、カエデの周囲に乱舞していた木の葉だった。
「明日へ飛ぶ光――邪なる者を討て」
幾筋もの光が夜気を焦がすが、少年の姿をした悪魔には一発たりとも通らない。
「バカ! 動け!」
冬弥が酸欠を耐えて叫ぶが、遅い。
「ッ! 明日へ――」
光弾を撃つのに必死な司は、移動するという戦略を度外視してしまっている。
ゆえに……カエデは造作もなく間合いに踏みこみ、司の細い首を左手で鷲掴みにした。
「ァッ!」
「貴様の“魂”、今度こそもらうぞ」
カエデの左手を中心に白い淡色が発生する。
“魂”を蒐集する呪式が高速展開し、
「やめろおおおおおおおおぉぉぉぉ!!」
「出来損ないはひれ伏せ」
這いながら猛進した冬弥を上空から呪弾が撃ちぬいた。
都合十六の風穴が空き、順路を失った血液が穴から噴出する。
「ガハッ!」
そして白けた光が世界に充満した。
わずかに残っていた色彩が完全に色を落す。
最後に理解した光景を目の当たりにして、冬弥の意識は暗黒に墜ちてゆく。
守ると誓ったはずの幼いユメは、いともたやすく、砕けて散る。
司の身体から力が抜けた。
冗談のように脆く崩れ落ちる。
路面に伏した司からは、生気が失われていた。
外傷はない。
けれど死んでいた。
内包する『神』の“魂”を略奪され、御影司という精神までもが引きずり出された代償に、司はあまりにもあっけなく――無風の湖面を思わせる静けさで――純真な生命を散らしていた。
肉体的に死亡していた冬弥は最後の最後に見せつけられた残酷な現実に、今度こそ、精神を崩壊させた。
そうして……“カレ”は狂った。
次回は12/21
22:00投稿予定です。




