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ギフトなしと呼ばれた男  作者: 近江 伊吹
第一章 《ギフトなしの少年》

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第九話 Lv13の中身

# 第九話 Lv13の中身


 翌朝、アルトは目を覚ました瞬間から、昨夜水面に一瞬だけ浮かんだ《剣術》という文字のことを考えていた。着替えを済ませて庭へ出ると、いつもならすぐ木剣を手に取るところを、今日はまず水桶の前へしゃがみ込み、自分の顔をじっと覗き込む。


「今日は俺より水桶と稽古するのか?」


 すでに木剣を持っていたマックスが呆れたように言った。


「ちょっと待って。昨日、《剣術》って出たんだよ」


「け、剣術!?マジか。ギフトなかったのに。どうなってるんだ?」


「分かったら教える」


「うわー、こりゃ俺の理解を超えすぎだわ」


 アルトは父の声を半分だけ聞きながら、水面に映る自分へ意識を集中した。


 《アルト Lv13》


 レベルは昨日と同じ十三。


「その十三の中で、剣はどれくらいなんだ?」


 小さく呟きながら、剣を振ってきた自分を思い浮かべる。三歳頃から毎朝繰り返してきた素振り、父との打ち合い、肩や腰や足を見る練習、昨日ようやく一度だけ見えた父の動き。


 すると、レベルの下へ淡い文字が浮かんだ。


 《剣術 熟練度4》


「出た!」


「出た?何が出た?」


「父さん、剣術四だって!」


「お前が?」


「うん。父さんも見るぞ」


 マックスへ意識を向ける。


 《マックス Lv23》


 さらに昨日と同じように、数字の中身を知りたいと考える。


 《剣術 熟練度6》


「父さん六!」


「何が嬉しいんだ?」


「俺四だから、二しか違わないぞ!」


「昨日一回も勝てなかったのにか?」


「……そうだった」


 数字だけを見ると、思ったほど離れていない。しかし昨日の十戦は十敗で、攻撃を当てることも、まともにかわすことも出来なかった。


「じゃあ本当に二しか違わないか試す!」


「ふふふ。いいだろう。二の差がとんでもないことを教えてやろう」


「おう!」


 木剣を構える。


 開始して数秒後、アルトの木剣は昨日と同じように地面を転がっていた。


「…………」


「どうした?二しか違わないんじゃなかったのか?」


「もう一回!」


 二度目も負ける。


 三度目には父の腰が動くところまでは見えたものの、気づいたときには木剣が手から離れていた。


「くっそー、全然近くないじゃないか!」


「その熟練度って数字、本当に剣の強さなのか?」


「うーん、剣術って出てるんだから、剣に関係あるとは思う。でも、これだけじゃないんだろうな」


「ほう」


「父さんの方が身体も大きいし、力もあるし、俺より長く戦ってるだろ?」


「ふむ。珍しく冷静だな。そうかもしれんな」


「昨日から数字見てるからな。レベルだって戦闘力そのものじゃなかったし」


 マックスは少し感心したように頷いた。


「なら、その四ってのが何なのか調べる必要があるな」


「父さんも研究っぽくなってきたな」


「こいつ、誰のせいだと思ってる」


◇


 朝食の席でも、アルトの観察は続いた。


「タクト、ちょっと見るぞ」


「また?」


 《タクト Lv3》


 さらに剣について意識すると、


 《剣術 熟練度1》


「タクト、剣術一」


「一って強い?」


「さあな。でも俺四、父さん六」


「じゃあ俺弱いじゃん」


「五歳で父さんと同じだったら怖いだろ」


「兄ちゃんだって七歳で四じゃん」


「まあ、俺は毎日やってるから」


「俺もやれば上がる?」


「たぶんな」


「たぶんかあ」


「まだみえるようになって二日目なんだから仕方ないだろ。そのうち詳しく分かるようになるかもよ」


 今度はアーニャを見る。


 《アーニャ Lv3》


 剣では何も出ない。


 そこで《魔法》のギフトを思い出し、魔力について知りたいと意識する。


 《魔力操作 熟練度1》


「アーニャ、魔力操作一って出た!」


「何それ?」


「さあ?」


「えー分かんないのにそんなに嬉しそうに言わないでよ」


 ハイネが笑いながら皿を並べる。


「でもアーニャには魔力系の表示が出るんだな……」


 アルトは自分へ意識を戻した。


 《アルト Lv13》


 剣術は出る。


 しかし魔力について知ろうとしても、何も浮かばない。


 少しだけ胸の奥が重くなる。


 アーニャが兄の顔を覗き込んだ。


「お兄ちゃんには魔法ないの?」


「……ああ、まだな」


「まだ?」


「うん。そのうち何か見つける」


「じゃあ見つけたら教えてね」


「もちろん」


 アルトはすぐに笑った。


 ないと言われて二年になる。


 それでも本人の中では、まだ「ない」ではなく「まだ」だった。


◇


 学校へ向かう途中、アルトは昨夜から分かったことをルウへ話した。


「なるほど。レベルがその者全体を表す数字で、熟練度というものが個別の技術を表す可能性があるということか」


「俺もそう思う」


「ならば同じことをしている者同士で比べれば、少し分かるのではないか?」


「レオンとか?」


「うむ。お主とレオンは二人とも剣を使っておる。父上では年齢も身体も違いすぎるからな」


「やっぱルウと話すと早いな」


「もっと褒めてもよいぞ」


「調子乗るな」


「褒めた直後にそれか」


「でも助かる」


「ならばよい」


 ルウは満足そうに少し笑った。


◇


「先生、増えた!」


 登校するなりそう言われたエレウスは、すぐに意味を察したらしい。


「見える情報が、ですか?」


「うん。《熟練度》ってのが出た」


「それは興味深いですね」


「先生、やっぱり嬉しそう」


「ええ。嬉しいですよ。とっても」


 放課後、七人はいつもの校庭へ集まり、本人たちの同意を得たうえで、それぞれが普段練習しているものをアルトが見ていくことになった。


 レオン。


 《Lv6》


 《剣術 熟練度2》


「レオン、剣二」


「アルト殿は?」


「四」


「倍でありますか……」


「でも昨日やったとき、倍も差ある感じしなかったぞ」


「自分には《剣技(小)》があるからでありましょうか」


「それも調べよう」


 ガルドは、


 《防御 熟練度2》


 トウは、


 《探知 熟練度2》


 フィーネは、


 《弓術 熟練度1》


「一……」


 フィーネの声が急に小さくなった。


「やっぱり《微》だからかなあ」


「何が?」


「わたし、《弓力(微)》でしょ? 熟練度も一だし、やっぱり才能ないのかなって」


「始めたばっかだろ」


「でもアルト君四じゃん」


「俺は何年もやってるぞ」


「そっか……」


「一なら次は二にすればいいじゃん」


 フィーネが顔を上げる。


「そんな簡単に言う?」


「だって一の次は二だろ?」


「そういう意味じゃないよぉ」


「昨日より一本多く当てるとか、今日は構えを一回ちゃんとするとか、そういうの続けたらそのうち二になるかもしれないだろ。ならなかったら別のやり方試せばいいし」


「……アルト君って、落ち込まないね」


「落ち込むことはあるぞ。父さんに十回全部負けたとき、めちゃくちゃ悔しかったし」


「でも次の日またやったんでしょ?」


「うん」


「すごい。じゃあ、わたしもやる」


「おう」


 フィーネは少し笑って弓を抱き直した。


 ノエルを見る。


 《Lv5》


 《回復 熟練度1》


 さらに薬草の知識について意識すると、


 《薬草 熟練度3》


「ノエル、薬草三だぞ!」


「そう」


「高くない?」


「毎日やってるから」


「俺と同じじゃん」


「家の手伝い」


「でも毎日だろ?」


「うん」


 アルトが勢いよくエレウスを見る。


「先生!」


「先生も同じことを考えていました」


「毎日やってるやつが高い?」


「その可能性が少し高くなりましたね。ただし、まだ人数が少なすぎます」


「でもノエルって、レベル五なのに薬草三なんだな」


「そこも重要ですね」


 エレウスが帳面へ書き込む。


「レベルが低いから、すべての熟練度も低いわけではない。特定のことを長く繰り返していれば、その部分だけ高くなる可能性があります」


「じゃあレベルと熟練度は別なんだ」


「完全に別かどうかは分かりませんが、少なくとも同じ数字ではなさそうですね」


 最後にルウ。


 《Lv5》


 《魔力操作 熟練度2》


「ルウ二」


「一月ほど続けた成果が出ておるのなら嬉しいな」


「でもアーニャは一だった」


「我はアーニャより二歳上であるし、最近は毎日練習しておるからな」


「じゃあやっぱり続けた分?」


「ますますその可能性はありそうであるな」


 今日はルウの表示も、トウの表示も乱れなかった。


 アルトは前日のことなどすっかり忘れ、目の前の数字に夢中になっていた。


◇


「では、ギフトがどのように関係するかも試してみましょう」


 エレウスの提案で、アルトとレオンが同じ新しい型を教わることになった。


 熟練度はアルトが四。


 レオンが二。


 ところが、エレウスが足運びと剣の振りを一度見せただけで、先に形を再現したのはレオンだった。


「こうでありますか?」


「かなり近いですね」


「え?」


 アルトも真似する。


 しかし足と手の動きが噛み合わない。


「もう一回見せて」


 二度目。


 三度目。


 ようやくそれらしい形になる。


「レオンの方が早いじゃん」


「自分でも少し驚いたであります」


 エレウスが頷く。


「《剣技(小)》が、剣技を覚えること自体を助けている可能性がありますね」


「じゃあギフトやっぱすごいな」


「そうでありますか?」


「だって俺より熟練度低いのに、俺より早く覚えただろ」


 レオンは嬉しそうに木剣を見る。


「自分の《剣技(小)》も、ちゃんと意味があるのでありますな」


「当たり前だろ」


「小でありますから、大したものではないと思っていたであります」


「小でもあるだけいいじゃん。俺なんかなしだぞ」


「それを言われると返す言葉がないであります」


 二人は顔を見合わせて笑った。


 エレウスはその様子を見ながら、帳面へさらに一行加える。


「今のところ、ギフトは熟練度そのものではなく、習得や発揮を助けている可能性がありそうですね」


「じゃあギフトある奴が毎日やったら強い?」


「おそらく」


「じゃあレオン、毎日やろうぜ」


「もちろんであります!」


「アルト君、敵を強くしてない?」


 フィーネが聞く。


「仲間だろ?」


「あ、そっか」


◇


 七人の練習が始まる。


 アルトは何度も自分を見る。


 《剣術 熟練度4》


 十回振る。


 四。


 二十回。


 四。


 先ほど教わった新しい型を繰り返す。


 四。


「全然上がらん」


「今日見えるようになった数字が、今日すぐ上がると思う方がおかしいのではないか?」


 横で魔力を集めていたルウが笑う。


「でも試したかった」


「それは分かる」


「いつ上がるんだろ」


「ならば今日の数字を書いておけばよかろう。変わった日が分かる」


「それだ!」


「お主は本当に、答えを聞いた瞬間だけ目が輝くな」


「ルウも記録するぞ」


「構わぬ」


 エレウスの帳面には、その日から新しい数字が加えられた。


 アルト、剣術四。


 レオン、剣術二。


 ガルド、防御二。


 トウ、探知二。


 フィーネ、弓術一。


 ノエル、薬草三、回復一。


 ルウ、魔力操作二。


「数年後に見返したら、面白いでしょうね」


 エレウスが言った。


「数年後?」


「皆さん、明日も続けるのでしょう?」


「もちろん」


「なら、記録も残しておきましょう」


 アルトは素直に頷いた。


◇


 練習が終わる前、アルトはもう一度自分の中身を探してみた。


 《アルト Lv13》


 《剣術 熟練度4》


 剣以外はどうなのだろう。


 父と走り、身体を鍛えてきたことを考える。


 《体術 熟練度3》


「おお……」


「また何か見えたのか?」


 ルウが隣へ来る。


「体術三」


「やはり複数あるのだな」


「じゃあ蟻さんとか鳥は?」


 虫や鳥と話してきた時間を思い出す。


 火事。


 迷子。


 暴れ馬。


 何度も話しかけ、反応を確かめてきた日々。


 新しい文字が浮かんだ。


 《意思疎通 熟練度3》


「ルウ!」


「今度は何だ?」


「蟻さんのもあった!」


「蟻だけなのか?」


「たぶん鳥とか馬も一緒。意思疎通って出てる」


「そうか」


「俺、ちゃんと上手くなってたんだな」


 アルトの声には、数字を見つけたときとは少し違う喜びがあった。


 神殿では何もないと言われた。


 ギフトにも存在しない。


 それでも、自分が何度も試し、失敗し、少しずつ分かるようになってきたものは、ちゃんと自分の中へ積み重なっていた。


「よかったではないか」


 ルウは素直に微笑んだ。


「うん」


「ならば、これからも続ければよい」


「もちろん」


 アルトは嬉しそうに頷いた。


 そして当然、次に考える。


「じゃあ魔力は?」


「やはりそこへ行くか」


「毎日一番調べてるんだからな」


 集中する。


 何も出ない。


 もう一度。


 何もない。


 アーニャには《魔力操作1》があった。


 ルウには《魔力操作2》。


 自分にはない。


「やっぱないか……」


 そう呟きながら、さらに強く意識した瞬間だった。


 《魔力操作 熟練度――》


「……え?」


 文字は一瞬で消えた。


「どうした?」


「今、出た」


「何が?」


「魔力操作」


「数値は?」


「なかった。横線みたいだった」


「お主には魔力がないのであろう?」


「うん」


 二人は少しだけ黙った。


 やがて、ルウがアルトを見る。


「どう思う?」


 アルトの口元がゆっくり上がった。


「面白くなってきた」


「やはりそうなるか」


「だって本当に何もないなら、文字すら出なくていいだろ?」


「一理あるな」


「明日も調べる」


「我も付き合おう」


「ありがとな」


「その代わり、我の魔力操作も見るのだぞ」


「もちろん」


◇


 帰り道、七人で歩いていると、いつもの小鳥が飛んできた。


 チチッ。


 《アルト》


「おう」


 鳥はアルトの肩へ止まらず、そのまま空へ上がった。


 高く飛ぶ。


 旋回する。


 そして戻ってくる。


 《上》


「上?」


 アルトが空を見る。


 鳥はまた飛び上がる。


 《見る》


「見てるぞ」


 《違う》


「何が?」


 再び鳥が旋回する。


 《アルトも。見る》


「俺も?」


 隣を歩くルウが首を傾げた。


「何を言っておる?」


「分かんない。俺も見ろって……」


 鳥がもう一度鳴いた。


 今までよりも、少しだけはっきりした感覚が伝わってくる。


 《我の目。見る》


「…………」


 アルトは足を止めた。


「どうした?」


「ルウ」


「なんだ?」


 アルトは空を飛ぶ鳥を指差した。


「こいつ、自分の目で見ろって言ってる気がする」


「鳥の目で?」


「たぶん」


 ルウは少し驚いた顔をしたが、すぐにアルトと同じように空を見上げた。


「ならば、明日試してみるか?」


「うん」


 アルトの顔には、もういつもの笑みが浮かんでいた。


「絶対やる」


 鳥は高い空から、もう一度だけ鳴いた。


 《見る》


 その日、アルトはまだ知らなかった。


 言葉を交わすことと、相手の見ている世界を見ることの間には、大きな違いがあるということを。


 そしてその違いが、七人にとって初めて「遠くにいる誰かの目」を手に入れることになるということも。


次回更新は明日の12時の予定です。


皆様に大切なお願いがございます。

読んでみて少しでもいいと思っていただけましたら、、ブックマークと評価を★★★★★にしていただけるととっっっっても嬉しいです。(*´ω`*)

執筆を続ける励みとなりますので是非ともお願いいたします。m(_ _)m

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