第八話 レベル?
# 第八話 レベル?
昨日と変わらない朝だった。
まだ町の大半が眠っている時間に起き、顔を洗って庭へ出ると、父マックスがすでに木剣を持って待っている。アルトもいつもの木剣を手に取ったのだが、今日は構えるより先に、どうしても確かめたいことがあった。
「アルト、やらないのか?」
「ちょっと待って」
「何を待つんだ?」
「父さん見てる」
「毎朝見てるだろ」
「そうじゃなくて、昨日なんか見えたんだよ」
「俺の顔に?」
「父さんの近く」
「朝から怖いこと言うなよ」
昨日、稽古を始めようとした瞬間、確かに何かが見えた。
文字なのか数字なのか分からないほど一瞬だったが、普段そこにないものが父の身体の近くへ浮かび、瞬きをした途端に消えたことだけは覚えている。
アルトは木剣を持ったまま、改めてマックスをじっと見た。
何もない。
もう少し集中する。
やはり何もない。
「だから何をしてるんだ?」
「静かにして。今調べてる」
「俺を?」
「うん」
「本人の許可くらい取れよ」
「じゃあ見ていい?」
「今さらかよ。好きにしろ」
「よし」
アルトは昨日の夜、自分が何を考えていたのかを思い出した。
人の強さを一つの数字で見られたら便利なのに。
父はどれくらい強いのだろう。
自分はどれくらいまで来ているのだろう。
それを知りたいと思った。
ならば、同じように考えながら見ればいいのかもしれない。
(父さんは、今どれくらいなんだ?)
そう強く意識した瞬間、マックスの身体の近くへ淡い文字が滲むように浮かび上がった。
《マックス Lv23》
「出た!」
「うわっ! 何が!?」
「二十三!」
「だから何が二十三なんだ!」
「父さんが」
「俺の何が二十三なんだよ!」
アルト自身にも分からなかった。
ただ、さっきまで何もなかった場所に、
《マックス Lv23》
と確かに見えている。
「ここ」
アルトが父の胸のあたりを指差す。
「名前と二十三って出てる」
「どこだ?」
「父さんのところ」
「見えないぞ」
「俺には見える」
「昨日まで馬と話してたと思ったら、今日は親父の周りに数字が出るのか。お前、毎日忙しいな」
「俺だって好きで増やしてるわけじゃないぞ」
もう一度意識する。
表示は消えない。
むしろ先ほどより少しはっきり見えた。
「えるぶい……二十三?」
「えるぶい?」
「こう書いてある」
「それ何だ?」
「知らん」
「知らんのかよ」
アルトは《Lv》という部分だけをじっと見た。
すると不思議なことに、その文字が何を意味しているのかだけは、知らないはずなのに頭の中へ自然に入ってくる。
「……レベル」
「何だ、それ」
「分からないけど、これ、レベルって読むみたいだ」
「だからレベルって何なんだ?」
「それを今から調べる」
マックスが盛大にため息をついた。
「剣の稽古は?」
「それもやる」
「またやること増えたのか」
「分からないことが増えたんだから仕方ないだろ」
「その考え方で生きてたら、お前一生忙しいぞ」
「いいじゃん。面白そうだし」
アルトにとってはそれで済む話だった。
父の数字が見えるなら、次に気になるのは当然自分である。
ところが、自分の腕や胸を見ても何も浮かばない。目を閉じて自分を意識してみても、表示らしきものは出なかった。
「俺は見えないな」
「自分は自分から見えないからじゃないか?」
「顔がいるの?」
「俺に聞くな」
そこでアルトは庭の隅に置いてある水桶へ近づき、水面を覗き込んだ。朝の薄い光の中に、自分の顔がぼんやり映っている。
(俺は、今どれくらいなんだ?)
意識する。
最初は何もない。
もう少し強く考える。
《アルト Lv13》
「……十三」
父を見る。
《マックス Lv23》
自分を見る。
《アルト Lv13》
「十も違う」
「だから?」
「父さん二十三。俺十三」
「昨日十回やって一回も勝てなかったのと関係あるのか?」
「それは俺も今思った」
「じゃあ、そのレベルってのは強さか?」
「たぶん」
「たぶんなのか」
「二人しか見てないんだから分かるわけないだろ」
「そういうところだけ慎重なんだな」
「研究だからな」
アルトは少し嬉しくなった。
父に何も出来なかった理由が、数字として見えたような気がする。
ただし、それだけで決めるのは早い。
「母さん見てくる」
「朝飯前に変な実験するなよ」
「すぐ戻る!」
「人の話聞け!」
家へ入ると、ハイネが朝食の支度をしていた。
「母さん、ちょっとこっち見て」
「何よ、朝から」
「そのまま」
「アルト、今度は何を始めたの?」
「いいから」
ハイネへ意識を向ける。
《ハイネ Lv14》
「十四」
「何が?」
「母さんのレベル」
「……ご飯いらないの?」
「いる!」
「なら手を洗って座りなさい」
「でも母さん十四なんだよ。俺十三だから一個上」
「何の話をしてるか全然分からないんだけど」
「母さん、俺より強いの?」
「何を基準に?」
「剣とか」
「使えないわよ」
「じゃあ戦ってみる?」
「朝からお母さんに木剣を持たせる気?」
「……やめとく」
「賢明ね」
アルトは考え込んだ。
母は自分よりレベルが一つ高い。
しかし剣なら、自分の方が強いはずである。
「母さんって、店どれくらいやってる?」
「何年ってこと? 結婚する前から家の仕事を手伝っていたから、かなり長いけど」
「家事は毎日?」
「しなかったら誰がやるのよ」
「タクトとアーニャの世話も?」
「あなたもよ」
「俺も?」
「あなたが一番手がかかるわ」
「なんでだよ」
「研究を始めるとご飯忘れるから」
「それとレベル関係あるかな」
「知らないわよ!」
そこへタクトとアーニャが起きてきた。
「兄ちゃん、何してるの?」
「ちょうどいい。二人ともそこ立って」
「なんで?」
「見る」
「何を?」
「レベル」
「なにそれ?」
「俺も今調べてる」
タクトを見る。
《タクト Lv3》
アーニャを見る。
《アーニャ Lv3》
「二人とも三だ」
「何が三?」
「レベル」
「俺、《剣士》なのに三なの?」
「アーニャも《魔法》だけど三」
「じゃあ兄ちゃんは?」
「十三」
「ずるい!」
「何がずるいんだよ!」
「兄ちゃんだけ高い!」
「俺だってなんで高いか知らん!」
アーニャは兄の顔をじっと見る。
「お兄ちゃん、すごいの?」
「たぶん」
「またたぶんだ」
「まだ調べてる途中だから仕方ないだろ」
ハイネが朝食を並べながら笑った。
「朝ご飯食べてから調べなさい」
「分かった」
「本当に?」
「たぶん」
「アルト」
「はい」
◇
学校へ向かう道でも、アルトは我慢できなかった。
人を見る。
昨日までならただの町の人だったのに、今日は意識すると数字が浮かぶ。
同じくらいの年齢の子供。
《Lv3》
店の前で荷物を運ぶ商人。
《Lv12》
畑仕事へ向かう男。
《Lv16》
門の近くへ立っている衛兵。
《Lv20》
杖をついて歩く老人。
《Lv24》
「……年齢じゃないな」
横を歩いているルウが、不審そうにアルトを見る。
「朝から人を見るたびに何をぶつぶつ言っておるのだ?」
「数字」
「数字?」
「人を見ると、名前と数字が見えるようになった」
「ほう」
ルウは少し目を見開いた。
「驚かないの?」
「驚いてはおる。ただ、お主が蟻や鳥と話し、馬の気持ちまで分かるようになった後ではな。数字が一つ増えたくらいで騒いでいては身がもたぬ」
「ひどいな」
「それで、何の数字なのだ?」
「レベルっていうらしい」
「レベル?」
「父さん二十三。俺十三。母さん十四。タクトとアーニャ三」
「ますます意味が分からぬな」
「だろ?」
「なぜ嬉しそうなのだ」
「分からないからだよ」
「そうであったな」
ルウは少し笑った。
「では、学校で先生に見せてみるか?」
「俺もそう思ってた」
「エレウス先生なら、面白がって一緒に考えてくれそうであるな」
「だろ?」
「我もそう思う」
二人は少し足を速めた。
◇
学校へ着くと、アルトは教室へ入るより先にエレウスを探した。
職員室から出てきた先生を見つけ、すぐに意識する。
《エレウス Lv26》
「先生、二十六!」
「おはようございます、アルト君。朝の挨拶より先に数字を言われたのは初めてですね」
「先生、昨日の話覚えてる?」
「人の強さを一つの数字で見られないか、という話ですね」
「それ! 見えるようになった!」
さすがのエレウスも、今度は少し目を見開いた。
「見えるようになった?」
「うん。先生二十六」
「私が?」
「父さん二十三だから先生の方が三高い」
「なるほど。それは興味深いですね」
やはりエレウスは笑わなかった。
それどころか、眼鏡の奥の目が明らかに輝いた。
「どのように見えるのか、順番に教えてもらえますか?」
「名前と、《Lv》って文字と数字」
「その《Lv》という文字は以前から知っていましたか?」
「知らない。でも見るとレベルって意味だって分かる」
「文字そのものと意味が同時に伝わる?」
「たぶん」
「なるほど」
「先生、楽しそうだな」
「アルト君ほどではありません」
「俺そんな顔してる?」
「していますよ」
エレウスはすぐに紙を取り出した。
「では、分かっていることを整理しましょう。誰にでも見えますか?」
「朝から何人か見た。たぶん誰でも」
「自分自身は?」
「水に映したら見えた」
「人によって数字は違いますか?」
「違う」
「年齢との関係は?」
「たぶんない。おじいちゃん二十四だったし、衛兵二十だった」
「では、戦闘の強さでしょうか?」
「最初そう思った。でも母さん十四で俺十三。母さん剣使えないから違うと思う」
エレウスが嬉しそうに頷いた。
「もう一つ仮説を自分で消したんですね」
「仮説?」
「こうかもしれない、と考えたものを確かめて、違ったら外すことです」
「それ俺いつもやってる」
「そうですね。ちゃんと研究していますよ」
「じゃあ次、みんな見る!」
「本人に一言断ってからですよ」
「分かった!」
◇
放課後、いつもの七人が校庭へ集まった。
アルトが事情を説明すると、最初に身を乗り出したのはフィーネだった。
「えっ、数字見えるの? わたしも?」
「見るぞ」
「高いといいなあ」
「高いから強いとは限らないぞ」
「でも高い方がいいじゃん」
「それはそうかも」
レオンは背筋を伸ばす。
「自分も興味があるであります。よろしく頼むであります」
「じゃあレオンから」
意識する。
《レオン Lv6》
「六」
「六でありますか」
「ガルドも六」
《ガルド Lv6》
「レオンと同じじゃな」
トウを見る。
《トウ Lv5》
「トウ五」
「そうか。うん」
フィーネ。
《フィーネ Lv4》
「フィーネ四」
「ええっ!」
「声でかい」
「わたし一番低いじゃん!」
「まだ全員見てないって」
「でも四でしょ?」
「レベルが低いから弱いって決まってないぞ」
「ほんと?」
「母さん十四だけど剣なら俺の方が強いと思う」
「それならいいかなあ」
ノエルを見る。
《ノエル Lv5》
「ノエル五」
「承知」
最後にルウへ視線を向ける。
《ルウ Lv5》
「ルウも五」
「そうか。我も普通のようであるな」
「普通かどうかまだ分かんないけど」
そして自分。
《アルト Lv13》
七人分を並べてみる。
アルト十三。
レオン六。
ガルド六。
トウ五。
フィーネ四。
ノエル五。
ルウ五。
「…………」
「アルト君、どうしたの?」
フィーネが首を傾げた。
「俺、高くない?」
全員がアルトを見る。
「倍以上であります」
「ワシらよりかなり高いのう」
「トウの二倍よりもっとあるな。うん」
「なんでアルト君だけ?」
「知らん」
「またそれか」
ルウが笑う。
エレウスは少し考えた後、前からつけていた七人の記録帳を開いた。
「アルト君。毎日剣を振り始めたのは、いつ頃でした?」
「いつだろ。三歳くらい?」
「三歳?」
「父さんの真似。最初は木剣重くて持てなかったけど」
「それからずっと?」
「うん」
「一日も休まず?」
「熱が出たときは振れなかった。でも布団で動きを考えてた」
「つまり、身体を動かせない日でも何かしら続けていた」
「うん」
「皆さんが毎日の自主練を始めたのは、一月ほど前ですね」
レオンが頷く。
「はいであります」
「その差が数字へ影響している可能性はありそうです」
「やっぱり毎日やってたから?」
「まだ分かりません」
エレウスはすぐに釘を刺した。
「年齢、仕事、経験、勉強、訓練、ギフト、成功した回数、失敗した回数、そのどれがどの程度関係するか分からない以上、今は仮説です」
「じゃあ調べればいいじゃん」
「そうですね」
「先生も手伝って」
「もちろん」
「よし!」
「ですが、その前にもう一つ確かめたいことがあります」
「何?」
「レベルが高ければ必ず強いのかどうかです」
「母さんで違うと思ったぞ」
「では、もう少し条件が近い相手でも試してみましょう」
アルトがレオンを見る。
「やる?」
「望むところであります」
二人は木剣を持った。
アルト、Lv13。
レオン、Lv6。
数字だけなら倍以上の差である。
「始め」
エレウスの合図と同時に、レオンが踏み込んだ。
アルトは最初の一撃をかわす。
しかし二撃目は思っていたより鋭く、木剣で受けた瞬間に腕へかなりの重さが伝わった。
「おっ」
「行くであります!」
レオンの動きは、一月前より明らかに良くなっている。
型はまだ少し硬い。
けれど、《剣技(小)》の助けもあるのか、一つ一つの動きが素直で無駄が少ない。
アルトは何度か受けた後、踏み込みの癖を読んで一本を取った。
「一本。アルト君ですね」
「負けたであります」
「でもレオン強いぞ」
「自分は六でありますが」
「俺十三なのに、数字ほど差ないじゃん」
エレウスが頷く。
「そのようですね。ならば、レベルそのものは戦闘力ではないのでしょう」
「じゃあ何?」
「それをこれから調べます」
「先生も言うようになったな」
「アルト君の影響かもしれません」
七人が笑った。
◇
その後も、アルトは何度か仲間たちを見た。
レオン、六。
ガルド、六。
フィーネ、四。
ノエル、五。
そしてトウ。
《トウ Lv5》
普通だった。
アルトは一度視線を外してから、もう一度見る。
《トウ Lv――》
「ん?」
「どうしたな。うん」
瞬きをする。
《トウ Lv5》
「今、トウの数字消えた」
「そうなのか。うん」
「もう一回見るぞ」
「好きにするといいな。うん」
じっと見る。
《トウ Lv5》
「……五だ」
「なら問題ないな。うん」
「見間違いかな」
アルトは少し首を傾げた。
今日初めて見えるようになったものなのだから、使い方が安定していないことくらいあっても不思議ではない。
次にルウを見る。
《ルウ Lv5》
「やっぱ五」
「朝から何度人を見るつもりだ」
「もう一回だけ」
「仕方あるまい。好きにせよ」
《ルウ Lv5》
さらに意識を集中する。
表示の輪郭が、ごく一瞬だけ揺れた。
《ルウ Lv――》
すぐ戻る。
《ルウ Lv5》
「……ルウも変だ」
「我の何が変なのだ?」
「今、一瞬数字消えた」
「トウもそうなったのであろう?」
「うん」
「ならば、お主の見方がまだ安定しておらぬだけではないか?」
「そうかな」
「今日見えるようになったばかりなのであろう?」
「それもそうか」
「いちいち我を怪しいものを見るように見るでない」
「怪しいなんて言ってないぞ」
「顔が言っておる」
「ゼノおじさんみたいなこと言うな」
「父上なら同じことを言うであろう」
「やっぱ似てるな」
「何がだ」
アルトは笑い、すぐに表示の乱れを忘れた。
エレウスだけは、記録帳の端へ小さく、
トウ、表示一時消失。
ルウ、表示一時消失。
と書き残した。
それ以上の意味は、まだ誰にも分からなかった。
◇
その日の最後に、分かっていることを整理した。
「人によってレベルが違う」
アルトが指を折る。
「年齢だけでは決まらない」
「レベルが高ければ必ず戦闘で強いわけでもないであります」
「長く何かやっとる奴が高くなる可能性があるんじゃな」
「まだ可能性だけです」
エレウスが訂正する。
「アルトだけ同い年より高いな。うん」
「それは確か」
「なんか悔しい」
フィーネが頬を膨らませる。
「じゃあ上げれば?」
「上げられるの?」
「知らん」
「またそれ!」
「でも上がる数字なら、何かしたら上がるんじゃない?」
アルトは自分でも言いながら目を輝かせていた。
「先生、この数字、変わると思う?」
「今のところ誰も変化していないので分かりません。ただ、今日の数字を記録しておけば、今後変化したときに気づけます」
「じゃあ毎日見る!」
「全員を毎日じろじろ見ると嫌われますよ」
「わたしはいいよっ」
フィーネが真っ先に答える。
「自分も研究に必要なら協力するであります」
「ワシも構わんぞ」
「トウもいいな。うん」
「うちも」
「我も仕方あるまい」
「じゃあ毎日見る」
「先生の注意が意味を成しませんでしたね」
エレウスが苦笑した。
「ですが、これは面白い記録になるかもしれません。今後レベルが上がった日が分かれば、その前に何をしていたかを調べられます」
「上げる方法分かるかも?」
「可能性はあります」
「よし!」
アルトが拳を握る。
「じゃあ上げてみようぜ!」
「そんな簡単に言うのう」
「どうせ毎日やるんだから、そのうち分かるだろ」
「それはそうであるな」
ルウが小さく笑った。
◇
夕方、家へ戻ったアルトは、さっそく父と木剣を持って向かい合った。
マックスを見る。
《マックス Lv23》
水桶へ映る自分を見る。
《アルト Lv13》
「やっぱ変わってない」
「何が?」
「レベル」
「朝見たばっかだろ」
「稽古したら上がるかもしれないじゃん」
「そんな簡単に上がるのか?」
「知らないからやるんだよ」
「分かった分かった。じゃあ来い」
一回目。
弾かれる。
二回目。
避けられない。
三回目。
父の腰がわずかに沈む。
(来る)
分かった。
それでも木剣は飛んだ。
「今のまた見えた!」
「昨日より少し早かったな」
「もう一回!」
「はいはい」
十回。
やはり一度も勝てない。
稽古が終わった後、水桶を見る。
《アルト Lv13》
「変わってない」
「一日練習したくらいで変わるなら、父さんも毎日見てほしいくらいだな」
「父さんレベル上げたいの?」
「強くなれるならな」
「じゃあ毎日やれば?」
「お前に言われるようになったか」
「昨日休んでたじゃん」
「大人には休みも必要なんだよ」
「俺も大人になったら休むのかな」
「お前は休まない気がする」
「俺もそんな気がする」
二人で笑った。
◇
その夜。
アルトは机に向かい、今日見えた数字を紙へ書き並べた。
父さん 二十三。
母さん 十四。
タクト 三。
アーニャ 三。
エレウス先生 二十六。
レオン 六。
ガルド 六。
トウ 五。
フィーネ 四。
ノエル 五。
ルウ 五。
自分、十三。
「俺だけ高いな」
嬉しい。
もちろん嬉しい。
何年も毎日続けてきたものが、この数字と関係しているのなら、やってきたことが見える形になったような気がする。
けれど、同時に新しい疑問が次々と出てくる。
「十三の中身って、何なんだ?」
剣を振ったこと。
走ったこと。
身体を鍛えたこと。
父と打ち合ったこと。
存在しないと言われた魔力を毎日探したこと。
蟻と話せるようになったこと。
鳥と話せるようになったこと。
馬の痛みが分かったこと。
どれがレベルへ入っているのだろう。
全部なのか。
それとも、まったく違うものなのか。
アルトは小さな器へ水を入れ、机の上へ置いた。
水面へ自分の顔を映す。
《アルト Lv13》
「これだけじゃ分かんないんだよな」
もっと詳しく見られないのだろうか。
自分が十三になった理由。
何をどれだけ積み上げたのか。
何が得意で、何がまだ足りないのか。
(この十三の中身は?)
アルトが強く意識する。
その瞬間。
いつもの表示の下へ、今までなかった文字がほんの一瞬だけ滲んだ。
《アルト Lv13》
《剣術 ――》
「…………」
消えた。
アルトは水面へ顔を近づける。
「今、もう一個出たよな?」
もう一度集中する。
出ない。
「剣術って書いてあった」
さらにもう一度。
やはり何も出ない。
普通なら、見えなくなったことにがっかりするところなのかもしれない。
しかしアルトの顔には、失望ではなく、いつもの笑みが浮かんでいた。
「まだ何か見えるのか?」
今日の朝まで存在さえ知らなかった数字には、どうやらまだ続きがあるらしい。
分からない。
だから調べる。
そして、すぐには分からないからこそ面白い。
アルトは今日の記録の一番下へ、新しい一行を書き加えた。
《剣術》らしきもの、一瞬だけ見えた。
明日、もう一度試す。
それから少し考えて、もう一行。
レベル十三。
たぶん、まだ中身がある。
アルトは満足そうに紙を眺め、それから布団へ入った。
眠りにつく直前まで考えていたのは、当然一つだけだった。
明日になれば、もう少し見えるだろうか。
七歳のアルトにとって、それは明日の朝が来るのを待ち遠しく思うには、十分すぎる理由だった。
次回更新は明日の12時の予定です。
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