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ギフトなしと呼ばれた男  作者: 近江 伊吹
第三章 《魔法学校二年生》

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第六十六話 中級ダンジョン完全攻略!

# 第六十六話 中級ダンジョン完全攻略!


 中級ダンジョンの最深部を目指す《希望の夜明け》の七人にとって、今最大の悩みは、魔物たちがあまりにも親切すぎることだった。


 春休みを迎えたアルトたちは、かねてから目標にしていた中級ダンジョンの完全攻略に挑んでいた。昨年の夏休みには中層攻略を果たし、その後も鍛錬を重ね、今では深層の魔物たちとも交流を広げている。アルトが《神獣の友》と《和合の加護》を得て以来、友達の輪は急速に広がり、魔物だけでなく動物、幽霊、妖怪、そして無数の紙式神による連絡網を合わせれば、協力してくれる存在は千を超えていた。


 もっとも、全員が一緒に歩くのは迷惑なのでやめてもらった。先行して安全を確かめてくれる者、危険な魔物を遠ざけてくれる者、離れた場所から情報を知らせてくれる者敵対する魔物を倒してくれる者など、それぞれが自分の意思で協力してくれている。


 おかげで、一行が通る頃には、危険な魔物の姿などほとんど残っていなかったし、罠も全て解除されていた。


「アルトよ、もう完全に散歩になっておるぞ。わしは暇でしょうがない」


 ガルドが大きな盾を担ぎ直しながらぼやくと、レオンも苦笑しながら頷いた。


「確かに、実戦の機会がないのは少々残念でありますな。せっかく春休みまで鍛錬を続けてきたのですから、少しは成果を試したいところです」


「そう言われてもなあ。みんなが俺たちのために頑張ってくれてるんだから、文句を言うわけにもいかないだろ? あ、でも今日は少し事情が違うみたいだぞ」


 アルトがそう言うと、道案内をしていたリザードマンが振り返り、楽しそうに腕を振った。その意思が《和合の加護》を通じてアルトへ伝わってくる。


「どうやら、俺たちが戦えなくて困ってるのを覚えてくれてたらしい。普通の魔物は先に片付けてくれるけど、フロアボスだけは手を出さずに残しておいてくれるそうだ」


「なんじゃと!? ボスだけ残しておいてくれるじゃと!? 普通は雑魚を倒しながらボスを目指すもんじゃろうが! わしら、魔物からおこぼれをもらっとるんか!」


「ははは。でも、ありがたいじゃないか。気を利かせてくれたんだから、ちゃんと礼を言わないとな」


 アルトがリザードマンに礼を伝えると、相手は誇らしげに胸を張った。


「ふふっ、アルト君らしいね。魔物さんたちが、私たちのためにボスを残してくれるなんて、普通じゃ考えられないよ。それに、これなら私も弓の練習ができるし、ちょうどいいんじゃないかな」


 フィーネが笑いながらアルトの隣に寄り添う。学校での騒動を乗り越え、ようやく恋人同士になった二人にとって、こうして敵もおらず一緒にピクニックできる時間は何より嬉しいものだった。


「フィーネは本当にピックニックに来たと思ってるんだな。うん。でも、今度こそ自分のこともちゃんと守るんだな。トウはそっちも心配なんだな」


「もう、トウったら。大丈夫だよ。ちゃんと気を緩めないようにしてるからね。サクラとも無理をしないように約束してるから。それより、今日のボス戦では私だって活躍するんだからね!」


「それなら安心なんだな。うん。トウも頑張るんだな」


 二人のやり取りを聞きながら、アルトは嬉しそうに笑った。ルウも穏やかな表情で歩いている。その隣には、黒い鎧をまとった大柄な騎士がいた。


 かつて中層で激しい戦いを繰り広げたデュラハンである。


 今ではすっかりアルトの友達となり、今回も最深部への案内役を買って出てくれていた。


「デュラハンもありがとうな。お前が一緒に来てくれて助かるよ。でも、ボスと戦うときは無理しなくてもいいんだぞ?」


「全然心配ない。もともと自分の能力には中層用に制限がかかってたんだ。友達になった今、その制限も外れた」


 デュラハンは大きな手を振り、そんな心配は無用だと言わんばかりに剣を掲げた。


「ははは、わかったよ。じゃあ、今日もよろしく頼むな!」


 その後、上層のボスであるオーガ・チャンピオンLv185をあっさり撃破した一行は、中層を通過して深層へ進んだ。中層ボスだったデュラハンはすでに友達なので、もちろん戦う必要はない。深層ボスのブラックドレイク・アルファLv315も、黒炎のブレスと飛翔突撃を警戒していたアルトたちの連携に翻弄され、さほど時間をかけずに倒されてしまった。


 これまでの鍛錬と、仲間たちとの経験の積み重ねが、確かな成果になっていた。


「それにしても、深層のボスまでこんなに簡単に倒せるとはな。去年は中層へ進むだけでも大変だったのに、わしらもずいぶん強くなったもんじゃ」


「そうだな。でも、上級ダンジョンに行けばまだまだ強い魔物がいる。今の実力でどこまで通用するかは分からないし、今日の勝利だけで満足してちゃいけないと思う」


「もう上級ダンジョンのことを考えているでありますか?少々気が早い気がするで有ります。朝の鍛錬を続けてから挑戦しようではありませんか!」


「おいおい、レオン。お主こそもう朝の鍛錬のことを考えとるんかい!」


 ガルドの抗議に笑い声が上がる。その頃には、一行は中級ダンジョンの最深部へと到達していた。


 重厚な扉の向こうには、これまでとは明らかに異なる、冷たく重い気配が漂っている。


「いよいよラスボスか。みんな、準備はいいな?」


 アルトの問いに、七人とデュラハンがそれぞれ頷いた。リクは一応見学である。


 扉がゆっくりと開かれ、暗い広間の奥に巨大な黒い鎧の騎士が姿を現した。


 中級ダンジョン最深部の支配者、デスナイト。


 そのレベルは350だった。


 アルトの目には、そのレベルだけでなく、能力や弱点までがはっきりと映っていた。《死者統率》《黒刃》《死戦》。どれも厄介な能力であり、特に《死者統率》は、倒されたアンデッドを一度だけ再び動かす力を持っている。さらにHPが三割を切ると攻撃速度が上昇するため、普通なら勝利を確信したところで逆転されかねない相手だった。


「みんな、あの黒い剣には気をつけてくれ。普通の防御では防ぎきれない可能性がある。それと、倒したアンデッドがもう一度動き出すかもしれないから、油断しないように。最後まで一気に攻めるより、相手の動きを見ながら連携していこう」


「なるほど。ならば、わしが前に出て攻撃を引きつける。ただし剣はまともに受けず、横へ流すようにするぞ。レオンは反対側から攻めてくれ」


「承知! デュラハン殿にも協力してもらえば、三方向から攻撃できる。あの巨体でも、すべての攻撃には対処できまい」


 レオンが剣を抜くと、デュラハンも力強く頷いた。かつては敵として戦った相手が、今では当たり前のように肩を並べている。その姿にアルトは思わず笑みを浮かべたが、デスナイトが巨大な黒剣を振り上げたのを見て、すぐに意識を戦闘へ戻した。


 戦いが始まった。


 デスナイトの剣が地面を叩き、凄まじい衝撃が広間を走る。ガルドは盾を斜めに構えて衝撃を受け流し、その隙にレオンが側面へ回り込む。デュラハンも反対側から斬り込み、二人の剣が立て続けに黒い鎧を打った。デスナイトは巨体に似合わぬ速さで応戦したが、そこへアルトの紙式神が無数に飛び込み、霊術と結界と呪術を浴びせる。


 さらにデスナイトが広間のアンデッドを操り、倒された個体まで次々に起き上がらせた。


「おいおい、ホントに倒したやつがまた動いとるぞ! アルト、これではいつまでたっても片付かんのと違うか?どうする?(と一瞬で伝わる)」


「大丈夫だよ、ガルド。一度再起動した個体はもう復活しないはずだ。トウ、右側の連中をお願いできるか? 俺は左側を分断するから、その間にレオンたちはデスナイトへ集中してくれ(と一瞬で伝わる)」


「わかったんだな。うん。でもアルト、あの大きな剣は本当に危ないんだな。近づきすぎないように気をつけるんだな(と一瞬で伝わる)」


「ありがとう、トウ。俺も無茶はしないよ(と一瞬で伝わる)」


 トウが幻想術で敵の進路を惑わせ、アルトは結界と紙式神で復活したアンデッドを分断する。ノエルも周囲の状態を見極め、負傷者が出る前に危険を知らせた。デスナイトがガルドを狙って剣を振り下ろした瞬間には、フィーネが放った矢が鎧の継ぎ目へ命中し、その動きをわずかに逸らした。


「今のうちだよ! アルト君、デスナイトが剣を振り切った直後に、右側の防御が薄くなるみたい。次は私がそこを狙うから、みんなは反対側から攻撃してくれる?(と一瞬で伝わる)」


「いいところに気づいたな、フィーネ。じゃあ、俺の分身で正面から注意を引くよ。レオンとデュラハンは左から、ガルドは退路を塞いでくれ(と一瞬で伝わる)」


 フィーネとサクラの息が合い、放たれた矢が桜色の光を帯びて飛んでいく。黒い鎧の隙間へ正確に突き刺さった一撃に、デスナイトの巨体が大きく揺らいだ。


 それでも最深部の支配者は倒れなかった。HPが三割を切ったところで《死戦》が発動し、黒剣の速度が一段と上がる。レオンの剣を弾き、デュラハンの斬撃をかわすと、今度はアルトめがけて猛烈な勢いで突進してきた。


「アルト君、危ない!(と一瞬で伝わる)」


 フィーネの声が響くより早く、黒剣がアルトの身体を貫いた。しかし、手応えのあったはずの身体は一枚の紙へと戻り、ひらひらと床に落ちる。


「残念、そっちは分身だよ。攻撃が速くなることは分かっていたから、今のうちに準備させてもらったんだ(と一瞬で伝わる)」


 別の場所に現れたアルトが笑う。デスナイトがそちらへ向き直った瞬間、背後からレオンとデュラハンが同時に斬り込み、ガルドの盾が退路を塞いだ。


「よし、今だ! フィーネ、頼む!(と一瞬で伝わる)」


「うん! サクラ、あそこを狙うよ。今度は絶対に外さないからね!(と一瞬で伝わる)」


 桜色の光をまとった矢が放たれ、デスナイトの胸元を正確に射抜いた。続けざまにレオンの剣とデュラハンの斬撃が決まり、最後にアルトの霊術が黒い鎧を打ち砕く。


 巨大なデスナイトは、そのまま床へ崩れ落ちた。


「……やったか!?」


 ガルドが盾を下ろすと、アルトは倒れたデスナイトを確認してから大きく頷いた。


「ガルド、変なフラグ立てないでくれ。ちゃんと完全に倒せたみたいだ。みんな、お疲れさま! これで中級ダンジョンは完全攻略だ!」


「やったぁ! アルト君、私たち本当に最深部まで攻略しちゃったね! 去年の夏には中層のボスを倒すだけでも大変だったのに、こんなに早く完全攻略できるなんて、ちょっと信じられないよ」


「いやいや、信じられんのはわしの方じゃ。中層を攻略しただけで王国中が大騒ぎになったというのに、今度は最深部まで来てしまった。これが知られたら、また最年少記録だと言って大変な騒ぎになるんじゃないか?」


「そうだな。でも、騒がれるのはある程度しかたない。それより、みんなが努力してきた成果なんだから、素直に喜ぼうじゃないか」


 アルトがそう答えると、レオンも満足そうに頷いた。


「確かに、これほど連携がうまくいった戦いも珍しいでありますな。とはいえ、上級ダンジョンには今回のデスナイトをはるかに上回る敵が待っているはず。今日の勝利を喜びつつ、明日からも鍛錬に励むとしようであります!」


「じゃから、なんでお主はすぐに鍛錬の話へ戻るんじゃ! せめて今夜くらいは祝勝会でもせんか!」


 再び笑い声が上がった。


 ノエルも無事に戦闘が終わったことにほっとした様子で、フィーネとサクラの状態を確かめていた。デュラハンは自分の剣を掲げ、仲間たちと一緒に勝利を喜んでいる。


 その光景を少し離れた場所から眺めていたルウに、トウがそっと近づいた。


「アルトたち、ずいぶん強くなったんだな。うん。これなら、もっと難しいダンジョンにも挑戦できるようになるんだな」


「そうだな。しかし、強くなればなるほど目立つようにもなる。昨年の中層攻略だけでも、あれほど周囲の目が変わったのだ。今回の完全攻略を知れば、さらに警戒する者も出てくるであろうな」


「ユリウスたちのことなんだな? アルトは何も悪いことをしていないのに、どうしてそんなに心配するんだな?」


「我らはアルトのことをよく知っておる。だが、あの者たちは違う。自分たちの理解できぬ力が大きくなっていくことに、不安を感じる者がいても不思議ではない。それに、王国を守ろうとしているだけの者まで敵扱いするわけにはいかぬだろう」


「なるほどなんだな。それならアルトのことをもっと知ってもらえたらいいんだな。うん。でも、アルトを傷つけようとする者まで放っておく必要はないんだな」


「もちろんだ。いつもどおり近くはそなたに任せる。遠くは我だ。我らが完璧に守って、アルトにはできる限り自分の望む道を歩ませてやりたい」


「それならトウも一緒なんだな。アルトが好きなように生きて、毎日笑ってくれていたら、それが一番嬉しいんだな。うん」


 ルウは小さく頷き、仲間たちに囲まれて笑っているアルトへ目を向けた。


「さて、そろそろ帰るとするか。ここにはもう用もあるまい」


 一行は最深部の宝箱を確認し、帰還の準備を整えた。帰り道では、待っていてくれた魔物の友達たちが次々に顔を見せ、完全攻略を祝福してくれた。アルトも一人ひとりに礼を伝え、デュラハンとともに出口へ向かう。


◇


 ところが、ダンジョンの入口へ戻ってきたところで、思わぬ問題が発生した。


「それじゃあ、みんな帰ろうか。デュラハンも一緒に外へ出よう。せっかくだし、今日はみんなで祝勝会をしようと思ってるんだ」


 デュラハンは嬉しそうに剣を掲げ、アルトの後について出口へ進もうとした。


 しかし、突然その足が止まった。


「……ん? どうしたんだ、デュラハン。何か忘れ物でもしたのか?」


「いや、自分はダンジョンから出られない制限がかかっている」


 デュラハンは首を横に振るような仕草をすると、もう一度出口へ進もうとした。だが、何か見えない壁に阻まれるように、身体が前へ進まない。


 アルトが外へ出てみると、何の問題もない。ほかの仲間たちも普通に通ることができる。それなのに、デュラハンだけはどうしても境界を越えられなかった。


「これはおかしいな。友達になった魔物たちは、みんな自分の意思で俺たちと行動してくれてるのに、どうしてデュラハンは出られないんだろう?」


 アルトは首を傾げながら、もう一度デュラハンへ話しかけた。


「お前、外へ出てみたいんだよな? それとも、ここから離れたくない理由があるのか?」


「もちろん外に出てみたいぞ」


 デュラハンは勢いよく頷き、出口の向こうを指さした。


「そうか。それなら何とかしてやりたいな。ここまで一緒に頑張ってきたんだし、外を見たがってるし」


「アルト君、何か特別な条件があるのかもしれないね。デュラハンはもともと中層のボスだったわけだし、普通の魔物とは違う決まりがあるのかも」


「うん、俺もそう思う。友達になっただけでは駄目なのかな。ちょっと調べてみる必要がありそうだ」


 デュラハンは申し訳なさそうに肩を落としたが、アルトは笑顔でその大きな鎧の腕を叩いた。


「大丈夫だよ。お前が外へ出たいと思ってるなら、俺たちも諦めない。せっかく友達になったんだから、一緒に方法を探そう」


「ああ、ありがとう」


 デュラハンはその言葉に大きく頷いた。


 こうして《希望の夜明け》は、中級ダンジョンの完全攻略という偉業を成し遂げた。


 しかし、最深部のラスボスをあっさり倒してしまったアルトたちは、最後の最後で思わぬ難題に直面することになった。


 どうやら、友達になっただけでは、ダンジョンの外へ連れ出すことはできないらしい。


 第3章最初の冒険は、ラスボスを倒すよりも、友達一人を外へ連れ出す方が難しいという、何とも奇妙な結末を迎えようとしていた。


次回更新は明日の12時の予定です。


皆様に大切なお願いがございます。

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