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ギフトなしと呼ばれた男  作者: 近江 伊吹
第二章 《魔法学校一年生》

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第五十六話 綺麗な羽だな。一体どこから?

# 第五十六話 綺麗な羽だな。一体どこから?


 体育祭が終わってから数日が過ぎ、王立魔法学校にもようやく普段の落ち着きが戻ってきた。一年一組の総合優勝はいまだに生徒たちの話題となっていたが、特に第一王子マイルスまで胴上げされたことは、当分語り継がれることになりそうだった。もっとも、会場の裏側で魔族による大規模な工作が行われていたことを知る者は、今でもごく一部に限られている。


「それにしても、王子様まで胴上げするとは思わなかったぞい。アルトたちの学校は、ずいぶん景気がいいんじゃな。こっちの学校で同じことをしたら、先生が真っ先に飛んできそうじゃ」


 朝の訓練を終えたガルドが笑いながら言うと、レオンも頷いた。


「王立騎士学校でも、第一王子殿下を胴上げしたという話は広まっているであります。もっとも、それ以上に話題になっているのは、アルトたちが夏休みに中級ダンジョンの中層を攻略したことですな。しかも最年少記録と聞いて、教官たちまで驚いていたであります」


「ああ、それはわしの学校でも噂になっとったぞ。何百匹もの魔物を引き連れて攻略したって話になってるんだが、あながち間違いでもないのが困るのう。あのときは本当に、途中から軍隊を率いている気分じゃったぞ」


「みんな友達だからな。でも、上層にいた子たちは途中で引き返したし、中層では新しい友達も増えたから、最後まで同じ魔物がついてきたわけじゃないんだけどね。危険な場所まで無理についてきてもらうわけにはいかないからな」


 アルトは当然のように答えたが、ガルドは苦笑した。中級ダンジョンでは《神獣の友》の加護もあって、魔物たちは単に敵対しないだけでなく、自ら進んで情報を伝え、時にはアルトたちを守るために戦ってくれた。幽霊や妖怪まで加わった仲間の数は、増減を繰り返しながら三百以上を保っていた。ルウが「アルトの友達は、いったいどこまで増えるのだ?」と呆れたほどだったが、アルト本人には大したことだという自覚がないらしい。


「まあ、お前が楽しいならいいんだがな。週末のダンジョン攻略も続けるんじゃろ?わしも学校の方で習った新しい防御技術を試したいしのう、それに次はもう少しまともに前衛の役目を果たせるようにしておきたいのう」


「自分も王立騎士学校で学んだ集団戦の技術を試したいであります。オリヴィア殿が以前、我々の訓練を見学した際に指摘された問題点も、まだ改善の余地がありますからな」


「うん。俺も晴明だった頃の知識を思い出してから、試してみたい術が次々に増えてるんだ。みんなが工夫すれば、もっと強くなれると思う」


 夏休みの中層攻略を終えた時点で、アルトのレベルは百八十六に達していた。体育祭の後は百九十を超えている。通常の鍛錬だけでも成長は続くが、安倍晴明としての知識と経験を取り戻した今では、かつて理解できなかった術の仕組みまで次々と分かるようになっている。ただし、その成長速度が周囲の警戒を強めていることには、本人はまだ十分に気づいていなかった。


 そんなある日、王立魔法学校に武王祭の観戦についての案内が届いた。武王祭は王国最大級の武闘大会であり、各地から集まった冒険者や傭兵、在野の武術家たちが腕を競い合う。王国騎士団や宮廷魔法師団が優秀な人材を発掘する場でもあるため、現役の所属者には出場資格がない。


「武王祭か! 王国中から強い人たちが集まるんだろ? 俺、一度出てみたかったんだ。ストライク、君も出場してみたいと思わないか?」


「もちろんです。わたくしも以前から興味があったんですよ。学校の模擬戦とは違って、経験豊富な実力者たちと本気で戦える機会ですからね。アルト君と一緒に出場できるなら、きっといい経験になると思いますよ」


 二人が盛り上がっていると、背後から低い声が響いた。


「その意欲は結構だが、今年の君たちは観戦に専念した方がいいだろうな」


 振り返ると、教務主任のアウグスト・フォン・グライフェンベルク教授が立っていた。


「どうしてですか、先生? 確かに優勝するのは難しいかもしれませんけど、出場するだけでも勉強になると思うんです」


「それはわたくしも同じ考えです。自分より強い相手と戦えば、今の実力でどこまで通用するのか確かめられますし、負けたとしても得られるものは多いのではないでしょうか」


 アウグストは二人の顔を見比べ、少し考えてから口を開いた。


「君たちの考え方は間違っていない。しかし、武王祭を学校の実技試験と同じように考えてはいけない。あそこには何十年も実戦を経験し、数え切れないほどの死線を越えてきた者がいる。仮に君たちが予選を突破して本戦に進めたとしても、せいぜい一回戦あたりで敗退する可能性が高いだろう。ろくに戦えず、戦いの準備に多くの時間を割かれる。だとするならば、今は勝負を急ぐより、数多くの試合を観察し、彼らが何を考え、どのように戦っているのかをじっくり学ぶ方が有益だと私は思う」


「本戦一回戦ですか……。俺たちでも、それくらいで負ける可能性が高いんですね」


「わたくしも少し意外です。でも、先生がそこまでおっしゃるなら、今年は観戦して学ぶことにしましょう。アルト君、せっかくだから一緒に出場選手たちの戦い方を研究しようじゃありませんか」


「そうだな。どれくらい強い人たちなのか、楽しみだな」


 落胆するどころか、かえって目を輝かせる二人を見て、アウグストは小さく息をついた。勇者ストライクの将来には、歴代勇者という膨大な前例がある。しかし、ギフトなしでありながら勇者に迫る実力を持ち、最年少で中級ダンジョン中層を攻略したアルトには、比較できる前例が存在しない。


 そのことは、一年二組のユリウス・フォン・エーレンフェルトも問題視していた。


「先生、アルト君が優秀な生徒であることは疑っていませんし、体育祭では我々も彼に助けられました。しかし、ギフトなしの少年が勇者と肩を並べ、何百もの魔物と連携して行動できるとなれば、王国としても今後の成長を注意深く見守る必要があると思います」


「その通りだ、ユリウス。だが、優秀であることを理由に不利益を与えるのは間違っている。彼が規則を守り、仲間のために力を使っている以上、我々教師はその努力を正当に評価しなければならん。ただし、それと安全管理上の問題は別だ。引き続き、冷静に事実を見ていく必要があるだろう」


 二人の視線の先では、アルトとストライクが武王祭の案内を広げ、出場選手について楽しそうに話し合っていた。


◇


 やがて武王祭の当日が訪れた。まずは予選が都内各地で4日間行われる。本戦を兼ねる巨大な競技場には王国各地から集まった観客が詰めかけ、試合場を取り囲む客席からは、開会前だというのに大きな歓声が上がっている。王立魔法学校の生徒たちも教師に引率されて会場へ入り、別の学校から来たレオンや、休日を利用して観戦に来たガルドとも合流した。


「アルト、今日は私も一緒に観戦させてもらう。以前、君たちのことは、訓練を見学したときから、その後どれほど成長したのか気になっていた。武王祭には剣術だけでなく、さまざまな戦術に優れた選手が集まるから、私にとっても勉強になるだろう」


 オリヴィア・シュタインベルクが微笑むと、アルトも嬉しそうに頷いた。前世で陸上自衛隊の一等陸佐だった彼女は、戦闘を単なる個人の技量ではなく、位置取りや連携を含めて観察することに長けている。もっとも、安倍晴明の転生者であるアルトを前にすると、時折熱心なファンの顔がのぞくのは相変わらずだった。


「アルト君~、こちらの席なら試合場がよく見えますよぉ。それに、何か知らない情報があれば教えられるかもしれませんから~」


 すかさず隣の席を確保したアリシアに、フィーネが苦笑する。アルトが安倍晴明の転生者だと知って以来、アリシアは学校にいる間、ほとんどいつも近くにいる。晴明への憧れは相変わらずだが、最近ではアルト本人の考え方や研究にも強い興味を持つようになっていた。


「アリシアさん、あいかわらずアルト君推しなんですねっ。それじゃ今日は、出場する人たちの解説おねがいしますねっ。私も精霊魔法を使うときの立ち位置とか、射線の取り方とか、何か役に立たないかなと思ってるの」


「まっかせて~フィーネちゃん。私これでも結構出場選手のこと知ってるんですよ~」


 そんな会話を交わしていると、貴賓席に並んだ二人の人物が紹介された。宮廷魔法師団長と王国騎士団副団長である。


 アルトは二人へ目を向け、その途端に表情を変えた。自分の目には相手のレベルだけでなく、ギフトや能力、弱点まで見える。しかし、そこに示された二人の実力は、今の自分とは比較にならないほど高い。たとえ弱点が分かっても、それを突くまでに何度倒されるか見当もつかない。


「凄いな……。あの二人、今まで会った人たちの中でも、とんでもなく強いと思う。俺、いつかあんな人たちとも戦ってみたいな」


 アルトの呟きを聞いたストライクが、嬉しそうに笑った。


「わたくしも同じことを考えていましたよ。あそこまで強くなるには、きっとまだ何年も努力が必要なんでしょうね。でも、だからこそ目標にする価値があると思うんです」


 開会の宣言が行われ、いよいよ予選が始まった。


 なお、戦闘はHPシステムで行われる。対戦者の頭の上に緑色のHPがバー表示され、対戦者には動きを阻害しない防護障壁が張られる。HPが0になると1度だけ攻撃をはじき返し、障壁が壊れる。HP10%以下になると赤色表示になり、決着である。


 最初にアルトたちの注目を集めたのは、ガラン・メイスという身体強化を得意とする戦士だった。対戦相手は大きな盾を構えた重装戦士で、ガランの突進を正面から受け止めると、盾の陰から鋭い反撃を繰り出した。しかしガランは無理に力で押し切ろうとはせず、一度距離を取って相手の足運びを観察する。そして再び踏み込んだ瞬間、盾の端へ圧力をかけ、相手が重心を移したところで素早く横へ回り込み、足を払って姿勢を崩した。


 倒れた相手の喉元へ本来致命傷となる一撃を入れると、HPが10%を下回り、審判が勝負を止めた。


「今のは凄いな! 盾を真正面から突破しようとしたんじゃなくて、相手が力を入れる方向を利用して倒したんだ。身体強化の力も強いけど、それ以上に使い方が上手いな」


「ええ。わたくしも最初は力押しで勝つつもりなのかと思っていましたよ。でも、二度目に踏み込んだときには、もう相手の重心を崩す準備ができていたんでしょうね。あの動きを初めて見る状態で防げるかと言われたら、正直、自信はありません」


「さすがだな。二人とも、よく見ているな。ただし、今の戦士はまだ自分の持つ技術をすべて見せたわけではないだろう。相手が倒れなかった場合の次の動きまで用意していたように見えた」


 オリヴィアの指摘に、アルトとストライクは改めて試合場を見つめた。


 その後も予選は続き、選手たちは多彩な技術を披露していった。槍の間合いを巧みに維持する者、魔法を発動するタイミングをずらして相手の行動を誘導する者、防御の姿勢を崩さずに一瞬の隙だけを狙う者。いずれも単純な能力の高さだけでは説明できない戦い方だった。


◇


 4日後、予選を勝ち抜いた六十四人による本戦が始まった。


 「あ、次の試合はバルドさんですよ~。去年も出てましたね~。剣の扱いが結構上手いんですよね~」


 最初の試合では、巨大な斧を振るうコード・ダインに対し、バルド・クライスが剣を構えた。コードの一撃は凄まじく、斧が振り下ろされるたびに試合場の床が大きく揺れる。しかしバルドは力で受け止めず、刃の軌道からわずかに身体を外すと、相手が次の一撃を準備する間に距離を詰め、剣を鋭く突き出した。


 斧の威力ではコードが上回っていても、間合いと攻撃の切り替えではバルドが勝っていた。最後は大きく振りかぶったコードの内側へバルドが踏み込み、剣で首元を強く切りつけ、勝負が決まった。


 アルトには二人のレベルもギフトも、能力の特徴や弱点も見えていた。それでも、その情報を持った状態で自分が同じ試合場へ立ったところで、勝てる道筋が浮かんでこない。


「先生の言っていたことが、ようやく分かった気がするよ。あの二人とも俺よりずっと強いし、攻撃の威力だけじゃなくて、相手の動きを読んで次の攻撃を組み立てる技術も凄い。今の俺が出場していたら、本戦一回戦で勝つのはかなり難しかっただろうな」


「わたくしも同感ですね。出場選手の中から今の自分でも勝てそうな相手を探していましたけど、正直、まだ一人も見つかりません。それに、相手の戦い方を見ていると、負けた理由を理解できることと、実際に勝てることはまったく違うんだと実感しますね」


 二人は顔を見合わせ、思わず笑った。先生に止められたときは残念だったが、今では観戦に来て本当によかったと思っている。まだ知らない技術が山ほどあり、目標にすべき強者たちがこれほど大勢いるのだから、二人にとっては嬉しくて仕方がなかった。


◇


 しかし、その楽しい時間の裏側では、まったく別の戦いが続いていた。


 体育祭以降、アルト、ストライク、マイルスを狙う暗殺攻撃は途絶えるどころか、ますます激しくなっていた。特にアルトに対する攻撃は目に見えて増えており、手段も巧妙になっている。魔族にとって、ギフトなしでありながら勇者に匹敵する力を持ち、何百もの魔物と連携する少年は、もはや放置できない存在となっていた。


 しかし、これまでの攻撃は、そのほとんどが標的に届く前に処理されていた。近距離での異変はトウが探索魔法や幻想魔法を駆使して防ぎ、遠方からの攻撃はルウが人知れず消し去っている。アルトはもちろん、他の転生者達でさえ、その動きには全く気づいていなかった。


 そして、次の試合が始まろうとした、その瞬間だった。


 ルウの目が大きく見開かれた。


 一瞬だけ、その髪が金色に染まりかける。


 競技場からおよそ十キロ離れた場所で、凄まじい魔力反応が発生した。遙か遠くで巨大な魔力が一点に凝縮され、アルトへ向けて凄まじい勢いと速さで放たれたが、あと十キロの地点で何かとぶつかり、その反応が跡形もなく消滅する。


 競技場では何事もなかったように試合が始まり、観客たちが歓声を上げていた。


 しかし、貴賓席の宮廷魔法師団長と王国騎士団副団長は、ほぼ同時に顔を上げた。二人とも、遠方から飛来した異常な魔力と、それが瞬時に消えたことを感知したのだ。


 そして、もう一人。


 トウもまた、その方向へ一瞬だけ視線を向けると、すぐに隣のルウへ顔を寄せた。


「今のは危なかったんだな。トウでも防げなかったかも知れないんだな。有り難うなんだな」


「ふ、礼などいらん」


 ルウが小さく胸を張った、そのときだった。


 ふわり。


 どこからともなく、一枚の白い羽が舞い降りてきた。


 アルトは目の前に落ちてきた羽を手に取ると、不思議そうに眺めた。


「うわあ、綺麗な羽だな。なんの羽だろう?一体どこから?」


 ルウの額に、冷や汗が浮かんだ。


 アルトはしばらく羽を眺めていたが、やがて次の試合に気を取られ、楽しそうにストライクと話し始めた。


「ふう」


 ルウは素知らぬ顔のまま、そっと息を吐いた。



次回更新は明日の12時の予定です。


皆様に大切なお願いがございます。

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執筆を続ける励みとなりますので是非ともお願いいたします。m(_ _)m

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