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ギフトなしと呼ばれた男  作者: 近江 伊吹
第二章 《魔法学校一年生》

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第五十五話 おのれぇ、ギフトなしめぇぇぇぇぇぇ!

# 第五十五話 おのれぇぇぇぇ、ギフトなしめぇぇぇぇぇぇ!


 三年生最後の競技が始まり、観客の視線が一斉にグラウンドへ集まった瞬間、アルトたちのもう一つの競技も始まった。


 《希望の夜明け》の仲間たちには《和合》を通じて、アルトが不視化した式神から得ている情報が全く遅れなく伝わっている。しかし、ストライクやマイルス、アリシア、オリヴィアたち転生者まで同じようにつながっているわけではない。


「だったら、こっちは式神でつなげばいいか」


 アルトがそう呟くと、小さな紙の式神が次々と飛び、ストライクやマイルスたちの肩や襟元へそっと張り付いた。式神の姿は消えていて、外からは何も見えない。


「アルト君、今あなたの声が聞こえます。これは、離れた場所でも互いに話せるということでしょうか?」


「そうだ。完全に感覚まで全部分かるわけじゃないけど、見つけたものや簡単な情報なら式神を通して送れる。ストライクが返した内容も、別の式神を付けた人たちへそのまま回せるから」


 マイルスがすぐに意味を理解した。「なるほどね。アルトを中心にした通信網みたいなものだね。僕が東側の状況を知らせたら、アルトだけじゃなく、必要な人全員へ共有できるわけだね」


「そういうこと。俺が全部指示するより、その方が早いだろ?」


 そのやり取りを聞いていたリクが感心したように目を細める。「正式な《和合》ではありませんが、式神を中継点にして似た状態を作ったのですね。無理に皆を加護へ結びつけず、それぞれの意思を残したまま情報だけをつなぐ……アルト様、また使い方を増やしましたね」


「リクにそう言われると、勝手に改造してるみたいだな」


「だいたい合ってるんだな。うん」


「加護を与えた本人があきれているではないか」とルウ。


◇


【北側誘導装置――起動兆候】


 最初の情報が式神網を流れる。


「アリシア先輩、北側の表示板です。通常魔法の術式が追加されています」


「見えたわ。これなら解除できる。アルト様は次を見てて」


 アリシアが装置へ近づき、点検しているような顔で術式へ触れる。表示板は一度も誤作動することなく沈黙した。


【南側安全結界――起動部確認】


「見つけたっ!うんっ!」とフィーネ。


 フィーネの放った矢が観客の視線の届かない設備裏へ吸い込まれ、仕掛けられていた小さな魔石だけを正確に砕いた。


【東側通路――閉鎖機構作動】


「来た!」「おう!」「承知!」


 レオンが閉じ始めた大型扉を支えている間に、ガルドが金具へ仕込まれた細工を外す。


 少し離れた場所ではオリヴィアが観客を止めることなく別の通路へ流し、「立ち止まらせるな。半分を右へ回せば混雑しない」と係員へ指示していた。


 観客は、通路で何かが起きたことにすら気づかない。


 さらに式神から情報が流れ続ける。セオドアは《思考加速》で異常の発生間隔を整理し、「次は中央設備だ。これまでの起動間隔なら四十秒以内に来る」と予測。ベアトリスは「その術式は昨日まではなかったわ」と記憶から追加箇所を特定。マイルスは運営本部で人員を自然に組み替える。そしてそれらの情報が瞬時に式神の張り付いた者達全員に共有されていく。


「マイルス、北西の通路。人を増やせる?」


「できるが急に増員は不自然だ。通常の交代に見せる」


「それでいい。」


「了解」


 リクは式神網を通じて全体を見ながら、アルトが意識を向け切れていない場所を補う。「西側倉庫裏。まだ誰も未確認です」


「ありがとう、リク。式神を回そう」


「自分ですべて処理しなくていいですよ。《和合》は、皆さんの情報を皆さんで共有し皆さんで考えて動けますからね」


「分かった。もっと頼るよ」


 その答えに、リクは嬉しそうに微笑んだ。


◇


 残った仕掛けが次々と無力化されていることに、工作員たちもようやく気づいたらしい。


 それまで一定の間隔で動いていた魔力が、突然いくつもの場所で同時に膨らんだ。


「アルト、まとめて来たんだな!」


「一斉起動か。なるほど、最後は力ずくで混乱させるつもりらしいな」


 トウとルウがほぼ同時に声を上げる。


 アルトの不視化式神も、一斉に異常を伝えてきた。


【中央結界】

【東側誘導装置】

【南門閉鎖】

【備品庫発火術式】

【観客席裏・魔力異常】


 《希望の夜明け》には、その全てが《和合》を通して瞬時に伝わる。同時に、ストライクやマイルスたちへ張り付いた式神も、それぞれ必要な情報を送り始めた。


「みんな、今だ!」


 とアルトが言う前に、既にフィーネの矢が術式の核を射抜き、トウが探索魔法で隠された起動点を暴き、幻想魔法で工作員の判断を狂わせる。ルウは複数の魔法を使い分け、表に出る寸前だった魔力を静かに消した。ガルドとレオンは通路を確保し、ノエルは救護所で万一に備える。そして、かけ声と同時にストライク、マイルス、アリシア、オリヴィアまでもが動く。


 中央では大型の魔道具が突然傾いた。


「ストライク、中央!」


「承知しました!」


 ストライクが一気に距離を詰め、倒れかけた設備を両腕で受け止める。観客席から「勇者すげえ!」と歓声が上がったが、何が危険だったのかを理解している者はほとんどいない。


「アルト君、こちらは問題ありません。他をお願いします!」


 その声も式神を通じて全員へ流れる。


 マイルスが人を動かし、アリシアたちが術式を解除し、アウグストが教師陣を統率する。


 マリアはいつでも大規模魔法を撃てる状態で待っていたが、とうとう肩をすくめた。


「……私の出番がないわね、この子たちったら」


 敵が用意していた仕掛けは確かに一斉に作動した。


 しかし、表示板は正常なまま。


 結界も破れない。


 扉も閉まらない。


 火も上がらない。


 観客は、ただ三年生の最終競技へ歓声を送っていた。


 魔族が用意した大混乱は、ほとんど何一つ起こらなかった。


◇


「アルト、二人動いたんだな。うん」


 トウの探索魔法が、会場から離れようとする二人を捉えた。ルウも即座に同じ方向へ目を向ける。


「一斉起動の直後に逃げ出した。あれで間違いなさそうだ」


 アルトの式神が追いつき、二人へ張り付いた。視界に浮かぶ二人の情報を確認すると、一般の係員にしては術式操作の能力が高すぎた。式神を通じて眠らせることもできたが、手の内を見せたくないアルトはストライク達に頼ることにした。


「ストライク、マリア先生。裏門へ向かってる二人です」


 二人はほどなく拘束された。


 だが事情を聞き出す前に、彼らへあらかじめ仕込まれていた術式が発動した。ノエルと教師たちが救命を試みたものの間に合わず、二人は何も話さないまま息絶えた。


 アウグストが険しい表情で呟く。


「捕縛されることまで想定した仕掛けか。……どうやら、想像以上に組織立った相手らしいな」


◇


 体育祭は支障なく無事に進行した。


 そして三年生最後の競技が終了し、予定通り閉会式が始まる。大半の生徒や観客にとって今日起きたことは、表示板の不具合や設備点検が少し多かった程度でしかない。


 集計が終わり、学年別の総合結果が発表された。


【一年生総合優勝――一年一組!】


 大歓声が上がった。


「まずストライクだ! 一番稼いだのはこいつだろ!」


「えっ、わたくしですか!? ちょっと待ってください!」


 ストライクの身体が宙へ舞う。何度か胴上げされたところで、今度は別の声が上がった。


「次はアルトだ! 逃がすな!」


「俺までやるのか!?」


 アルトも問答無用で持ち上げられた。


 そして最後。


「マイルスもだ!」


「僕も!? 待って、第一王子を普通に投げて大丈夫なの!?」


 誰も止めなかった。


 一年一組の歓声の中、第一王子まで空を飛んだ。


◇


 騒ぎが落ち着いたあと、事情を知る者たちだけが少し離れた場所に残った。


「ですが、本当の意味で今日一番働いたのはアルト君でしょう」


 ストライクが穏やかに言った。「あなたが最初に気づかなければ、わたくしたちは何か起きてから動くしかありませんでした。大勢が巻き込まれていた可能性もあります」


 マイルスも頷く。「ああ。君がいなかったら、体育祭は途中で中止になっていたと思うよ。それだけで済んだかどうかも分からないよね」


 離れて観察していたユリウスも少し間を置いてから口を開いた。「今日はほんとに感謝している。私が異常な配置に気づいた時には、君はすでに会場全体へ式神を広げていた。しかも、最後には先生方や1組の皆で完封してしまった」


「ユリウスか。いや、俺だけじゃ無理だったよ。みんなが助けてくれたから、何も起こさずにすんだんだよ」


「本当に何も起きなかったことにしたんだな。うん」


 トウが満足そうに笑う。


 ルウは小さく息を吐いた。「まったく、ほんとに大した奴だ。しかし、随分忙しい『何も起きなかった』だったがな。まあ……お主たちが楽しそうなら、悪くはない」


「やっぱりルウもアルトが大事なんだな。うん」


「う。最後まで余計なことを言うのだな、お主は」


◇


 その夜。


 魔族の拠点では、重苦しい沈黙が流れていた。


「……それで、結局体育祭の混乱はどうなったのだ?」


「失敗しました」


「勇者に阻止されたのか?」


「勇者も動きました。しかし、中心となったのは別の者です」


「誰だ?」


 報告役は一度だけ息を呑んだ。


「アルトです。例の……ギフトなしです。我々の仕掛けは本格作動する前から次々に発見され、一斉起動もほぼ完全に封じられました。観客の大半は、事件があったことすら気づいていません」


「くっ、またあいつか……。ええい、奴はいったいなんなのだ?」


「……今回の結果を見れば、もはや勇者と同等の存在と考えるべきかと」


 男の顔が引きつった。


「勇者と同等だと!?まさか。それ以上ではないか!」


 そして、怒声が部屋中へ響き渡った。


「おのれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……ギフトなしめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


次回更新は明日の12時の予定です。


皆様に大切なお願いがございます。

読んでみて少しでもいいと思っていただけましたら、、ブックマークと評価を★★★★★にしていただけるととっっっっても嬉しいです。(*´ω`*)

執筆を続ける励みとなりますので是非ともお願いいたします。m(_ _)m

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