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ギフトなしと呼ばれた男  作者: 近江 伊吹
第二章 《魔法学校一年生》

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第五十一話 動き出す影

# 第五十一話 動き出す影


 夏休みの終わり、《希望の夜明け》の寮へ戻ったアルトたちは、中級ダンジョンから持ち帰った荷物の整理をようやく終えた。上層では四、五百近くまで膨らんだ仲間も、中層が近づくにつれて危険を感じた弱い魔物たちが自分から引き返し、その一方で中層に棲む魔物や幽霊、妖怪が新たに加わった。動物や式神まで合わせれば、《和合》でアルトとつながった仲間は最終的に三百ほど。命令して従わせたわけではない。《神獣の友》の加護もあって、魔物たちは本当にアルトを友達だと思い、自分の意思で道を教え、危険を知らせ、必要なら共に戦ってくれた。


「しかし、改めて考えると凄まじい数でありますな。王立騎士学校へ戻って中層攻略の話をしたところ、教官から『それは七人の冒険者パーティーなのか、それとも一個大隊なのか』と真顔で尋ねられましたぞ」


 レオンが苦笑すると、ガルドも頷いた。


「俺んところはもっと雑だったぞ。普通高校だから冒険者のことなんて詳しくない奴も多いのに、『お前ら夏休みに軍隊作ってきたのか』って言われた。三百って数字だけが勝手に一人歩きしてるんだよな。学校が違うと反応も全然違って面白いけどさ」


「軍隊じゃないよ。みんな友達だって。途中で危ないと思った子は普通に帰ったし、中層で新しく仲良くなった子が加わっただけだから」


 アルトが当然のように答えると、ルウが深いため息をついた。


「アルト、お主はそう言うが、魔物に動物、式神、幽霊、妖怪まで合わせて三百なのだぞ。しかも命令しているわけでもないのに、お主が危なくなれば自分から助けに来る。外から見れば、支配しているよりそちらの方が余計に理解しづらいのだ。これ以上増えたら、我でも誰がどこにいるのか把握するのが面倒になるぞ」


「そこはトウも同意なんだな。うん。でも、アルトだから仕方ないんだな。昔から変なのに好かれるんだな」


「トウ、それ褒めてないだろ」


 笑いが起こる。学校は三つに分かれていても、朝練と寮での生活、そして週末のダンジョンアタックは今まで通り七人一緒だ。二学期になってもそこは変わらない。


 翌朝の訓練には、レオンと同じ王立騎士学校に通うオリヴィアも姿を見せた。夏休み前にも《希望の夜明け》の訓練を見学していたが、中層攻略を終えた七人がどう変わったのか、もう一度自分の目で確かめたかったらしい。


 フィーネは精霊へ呼びかけながら射線を作り、トウは探索魔法で全体を捉えつつ幻想魔法で視線をずらす。ノエルは負傷を想定した回復を担当し、ルウは攻撃、防御、補助と魔法を自在に切り替える。レオンとガルドも、それぞれ騎士学校と普通高校で積んだ訓練を持ち帰っていた。


「以前より合図が少ないな。アルトが一つ一つ指示していないのに、全員が先に動いている」


「《和合》で大まかな意思は伝わるようになったけど、何をするか決めるのは本人だよ。俺が全部命令してたら、七人どころか三百なんて絶対に動かせないし」


 アルトは答えながら、自分だけに見える情報へ意識を向けた。見えるのはLvだけではない。ギフト、能力、得意分野、そして弱点まで分かる。夏休みを終えた自分はLv186。安倍晴明としての記憶が戻ってからは、かつての膨大な知識を今の身体と霊術へ落とし込めるようになり、成長速度も明らかに上がっていた。それでも最初から変わらない項目が一つある。


【ギフト:なし】


「中層まで行っても、ここは相変わらずだな」


 アルトは少し笑って表示を閉じた。


◇


 二学期初日。王立魔法学校の門をくぐった瞬間から、一学期までとは違う視線がアルトへ集まった。一学期にも十分目立っていたが、今回は明確な実績が加わっている。


「一年生で中級ダンジョン中層まで行ったって本当なのか?」


「本当らしいぞ。しかも勇者ストライクを模擬戦で本気にさせたギフトなしがリーダーだろ?」


「それで中層のボスまで倒したって……一体どこまで強くなるんだ?」


 ほとんどは驚きや憧れだった。アルト自身も、努力して得た結果を褒められるのは素直に嬉しい。ただ、その中に以前とは少し違う種類の視線が混じり始めていることには、まだ気づいていなかった。


「アルト様~、おはようございます! 二学期も全力で推させていただきます!」


 そんな空気を吹き飛ばすように、教室の前にはアリシアが待ち構えていた。


「アリシア先輩、二年生の教室は反対側ですよね。始業前からここにいて大丈夫なんですか?」


「まだ時間はあるもの。それに転生者同士に慣れてきた今でも、あの安倍晴明様が同じ学校にいるという事実だけは何度考えても慣れないのよぅ」


 最後の部分だけは、周囲に聞こえないように声を落とす。


 横にいたマイルスが同じく小声で注意した。


「先輩、その名前は本当に周囲で言わないでくださいね。ボクたちの前世まで芋づる式に表へ出たら、とんでもない騒ぎになりますからね」


「分かってるわよぅ。だから普段はちゃんとアルト様で我慢してるでしょう?」


「その『我慢してる』という発言の時点で、かなり危ないと思うんだよね」


 アルトが笑うと、アリシアも機嫌よく笑った。結局、一時限目の直前まで教室前に居座り、昼休みにもまた現れた。すっかり推し活が日課になっている。


◇


 二学期最初の大きな学校行事は体育祭だった。始業時に競技概要と規則が説明され、その中には外部戦力についての決まりもあった。


【告示。体育祭では、競技参加者本人および正式に登録された班員以外の外部戦力による競技への介入を原則禁止とする。ただし、ギフト、種族特性、固有能力などの性質上、召喚獣、契約精霊、従魔その他の外部存在との協力が能力の一部を構成する場合、事前に許可申請を提出し、学校が認めた範囲に限って使用を許可する】


 説明が終わる前から、教室の何人かがアルトを見ていた。


「……なんか俺が聞いておいた方がよさそうな規則だな」


 アルトが苦笑すると、マイルスも笑った。


「少なくとも、申請用紙に三百体と書く可能性がある一年生を、ボクは君以外に知らないね。ただ、これは君だけを禁止する規則じゃないよね。召喚系のギフトを持つ生徒まで全面禁止にしたら、その生徒だけ能力を使えなくなるからね」


「ああ、それなら分かる。でも俺の場合、外部戦力って言われると少し違和感があるな。みんな道具でも所有物でもないし、自分で考えて協力してくれてるだけだからな」


「そこが、学校側にとって一番説明しにくいところかもしれないね」


 同じ頃、一年二組ではユリウス・フォン・エーレンフェルトが静かにその説明を聞いていた。軍務系の名門伯爵家の嫡男で、《統率者》のギフトを持つ彼の耳にも、夏休み中から何度もアルトの名が入っている。


 ギフトなし。勇者ストライクに迫る力。《希望の夜明け》のリーダー。そして一年生として前例のない中級ダンジョン中層攻略。


 休み時間、廊下の向こうを歩くアルトを見かけても、ユリウスは声をかけなかった。ただ隣にいる生徒へ、静かに尋ねた。


「中層では多数の魔物が協力したという話だが、あれは使役や契約ではないのか?」


「少なくとも、無理やり従わせているという話は聞かないな。自分からついて来た魔物がかなりいたらしいぜ」


「命令されていないのに、自分から協力するのか……」


 ユリウスは遠ざかっていくアルトを見つめた。凄い。同じ一年生として、その実績は素直に認めている。悪事を働いたわけでもない。それでも、役割も上限も分からない巨大な力を前にすると、胸の奥に残る違和感だけがどうしても消えなかった。


◇


 その夜、寮の屋上ではトウとルウが王都の灯りを眺めていた。


「アルトを見る目が変わったんだな。うん。一学期までは、珍しいとか凄いとか、そんな目が多かったんだな」


「うむ。我も感じている。敵意だけなら対処は簡単なのだ。今は称賛や憧れの中へ、少しずつ恐れが混じっている。アルトが何かしたからではない。何ができるのか分からないほど強くなったこと自体を恐れている者がいるのだろう」


「アルトは何も悪いことしてないんだな。うん」


「分かっておる。だからこそ面倒なのだ。明確な敵なら倒せばいいが、アルトを心配している者や、王国のためだと思って警戒している者まで敵として扱うわけにはいかぬ」


 トウは少し考えてから、ルウへ視線を向けた。


「近くはトウが見るんだな。遠くは任せるんだな。うん」


「なんのことだ?」


「ルウも、ずっとアルトを守ってるんだな。うん」


「……何を言っているのか、よく分からんな」


「ふーん。まあ、そういうことにしておくんだな。うん」


 ルウは横目でトウを睨んだが、それ以上は何も言わなかった。


◇


 同じ頃、エーレンフェルト伯爵家では、ユリウスが父の書斎へ呼ばれていた。父は王立魔法学校の理事の一人であり、王家への忠誠を重んじる王党派の有力貴族でもある。


「父上。学校に、少し気になる生徒がいます」


「アルトだろう。一年生が中級ダンジョンの中層を攻略したのだ。理事の耳に入らない方がおかしい。しかも中心人物はギフトを持たないという」


 先に名前を出され、ユリウスは僅かに目を見開いた。


「危険人物だと決めつけるのは早いと思います。実績だけを見れば、むしろ王国にとって非常に有望な人材です。ただ、あの力がどこまで伸びるのか、何に使われるのか、私には予測できません」


 伯爵はしばらく息子を見つめたあと、静かに頷いた。


「それでいい。お前は余計な接触をするな。敵対も挑発も必要ない。ただ事実を見て、気づいたことだけを私へ伝えなさい。憶測で人を罪人にするのは、王国のためにもならん」


「分かりました」


 ユリウスが退室すると、伯爵は机に残された書類をもう一度開いた。表紙には、一人の少年の名が記されている。


 アルト。


「こちらは理事会へ回しますか?」


 控えていた使用人の問いに、伯爵は少しだけ考えてから首を横に振った。


「いや。この一件は、王城へ回しておけ」


 夏休みにアルトが得たのは、力と、新しい仲間だけではなかった。


 本人の知らないところで、その名は、より大きな力を持つ者たちの目に留まり始めていた。


次回更新は明日の12時の予定です。


皆様に大切なお願いがございます。

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執筆を続ける励みとなりますので是非ともお願いいたします。m(_ _)m

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