第五十話 デュラハンは友達
第五十話 デュラハンは友達
デュラハン攻略を数日後に控えた朝、《希望の夜明け》として学生寮の訓練場で連携訓練をしようとしているところに、見慣れない少女が一人、レオンと一緒に現れた。
「今日は見学をお願いしたくて来た。騎士学校でも《希望の夜明け》の噂は聞いているし、レオンが毎週末一緒に行動しているパーティーでもある。一度どんな訓練をしているのか見せてもらいたいと思っていたんだ。邪魔はしないので、見学させてもらっても構わないだろうか?」
オリヴィア・シュタインベルクだった。先日レオンが贈ったネックレスが胸元に下がっていることに気づいたレオンは、頬が緩みっぱなしである。
「もちろん。ちょうど今、中級ダンジョンの中層ボスを想定した訓練をしてたところなんだ」
アルトたちが警戒しているのは、デュラハンの《首なし突撃》だった。前衛を無視して後方へ突っ込む可能性があるため、ガルドを抜かれた後にどう陣形を維持するかを繰り返し試している。オリヴィアはしばらく黙って見ていたが、三度目の訓練が終わったところで口を開いた。
「一つ意見を言ってもいいだろうか。前衛を抜かれた時に全員が後ろへ戻ろうとしているが、それでは敵に陣形そのものを動かされることになる。追う者、正面を維持する者、後衛を逃がす者を最初から分けた方がいい。相手が後衛へ向かったからといって、全員が同じ方向へ動く必要はないと思う」
「なるほど。ガルドまで戻すから対応が後手になっていたのか。次はガルドを残して、レオンだけ追ってみよう」
「承知であります。相手が抜けた場合も、自分は追撃役として動けばいいのでありますな」
再び訓練すると、先ほどまでより明らかに陣形が崩れにくくなった。
「すごいな、オリヴィア。こういう訓練に慣れてるの?」
「騎士学校でも集団戦はやるからな。状況が変わった時ほど、全員で一つの問題へ殺到しないように気をつけているだけだ」
「ありがとう。さっきよりよくなったよ」
「気にするな。大したことはしていない」
本人は何でもないように答えたが、アルトには十五歳の少女とは思えないほど判断が早く感じられた。
訓練が一段落すると、今度はアルトたちの興味がオリヴィアへ向いた。
「せっかく剣聖が来てくれたんだから、オリヴィアの練習も見せてもらっていい?」
「構わない。実戦ではないから多少は加減するが、それでも参考になるならやってみよう」
オリヴィアが訓練用の剣を構える。
アルトの目には《剣聖》の文字が見えている。
次の瞬間、姿が消えたように感じた。
踏み込んだと思った時には標的との距離を詰め、最小限の動きで一撃。そのまま身体を反転させると、次の標的へ迷いなく斬り込んでいく。一撃一撃がただ速いだけではなく、足運びから剣を戻す動作までほとんど無駄がなかった。
「は、速い! これが剣聖。ストライクとはまた違う強さだ」
「ストライクより速いんだな。うん」
「レオン、お主毎日オリヴィアと練習しておるのか? 体がもたんのではないか?」
ルウが尋ねると、レオンは遠い目をした。
「いや、毎回ギリギリで。ホント死にそう。であります。」
ちょうど訓練を終えたオリヴィアがこちらへ戻ってくる。
「レオン、さあ、いつもの練習を一緒にやろう!」
「へ? いや、自分は今パーティーでの練習を終えたばかりで、あ、やる、やるけど、ちょっと休ませ、~~~~~」
オリヴィアは当然のようにレオンを連れて行った。
「連れて行かれたな」
「そうなんだな。うん」
「将来尻に敷かれるんじゃろうな」
「うむ。我にも将来の姿が見えたぞ」
その声は、もちろん二人には届かなかった。
訓練の後、アルトはふと気になることをオリヴィアに聞いてみる。
「オリヴィア、一つ聞きたいんだが、剣聖ってことはいわゆるちーと?、とかいうギフトなんだろ?ってことは、オリヴィアも転生者なのか?」
「ああ、そうだ。私は陸上自衛隊に所属していた。災害救助をしていたはずなんだが、不眠不休で頑張りすぎたらしい。気がつけばこちらの世界に転生していた。そういうアルトこそ、転生者なのにギフトなしなんだろう?どういうことなんだ?」
「いや、それは俺の方が聞きたい。但し、同じ転生者でも、俺だけかなり時代が異なるみたいだ。」
「というと?」
「俺は1000年くらい前に亡くなり、こちらに転生している。他のものはだいたい死んですぐか、せいぜい数年程度でこちらに転生しているようだ」
「1000年前というと、平安時代くらいか?」
「ああ、京の都で陰陽師をしていた。」
「ん?平安時代の陰陽師というと、安倍晴明様か、賀茂家か、それとも芦屋・・」
「それ。安倍晴明だ。まだ記憶が戻ったばかりだが、前世は安倍晴明だった」
「・・・晴明様???・・・!!!。※△●□♂#@」
「あ、やっぱりこうなるんだ」
「こんなオリヴィア殿は初めて見るであります」
「やっぱり晴明様は偉大なんだな。うん」
「もう慣れたわ。しかし、今回は正気に戻るのに手間取りそうであるな。完全に固まっておるぞ」
「オリヴィア殿!オリヴィア殿!戻ってきてください!オリヴィア殿!」
「ダメか。これはこれでアリシアより始末が悪いかも知れぬな」
それから10分後、ようやく正気に戻るオリヴィアであった。
◇
そして数日後、《希望の夜明け》は再び中級ダンジョンへ入った。入口付近では今回もウォーウルフやリザードマン、その友達となった魔物たちが次々と合流してくるが、中層へ近づけば力の足りない者が引き返し、代わって中層で知り合った魔物が加わっていく。式神や鼠、鳥、虫まで合わせれば、今回も最終的には三百ほどで落ち着いていた。
「三百で落ち着いていることに安心し始めた自分が少し嫌になってきたぞ」
「ルウも慣れてきたんだな。うん」
「慣れたくて慣れたわけではないのだがな」
中層の魔物たちは道を教え、敵対する魔物が近づけば知らせ、ときにはアルトたちと肩を並べて戦ってくれた。《神獣の友達》という加護の名前どおり、もはや一方的に利用している仲間ではない。本当に友達として助けに来てくれている。
やがて、前回引き返した大扉へ到着する。
『ここからは俺たち七人でやってみるよ。もし戻ってきた時に追われていたら、その時だけ助けてくれる?』
『わかった。強敵だぞ。頑張れ』
ウォーウルフが低く鳴き、リザードマンたちも武器を掲げて応える。
『ありがとう。じゃあ、行ってくる』
扉を開くと、黒い鎧をまとった首のない騎士がゆっくりと巨大な剣を持ち上げた。
《デュラハン Lv245》
《能力 首なし突撃》
《能力 死騎士の斬撃》
《能力 恐怖》
《弱点 ――》
弱点は、やはり見えない。
直後、全員の身体を冷たいものが走った。理屈とは関係なく身体が逃げろと訴えてくる。《恐怖》だ。
「怖いの、私だけじゃないよね?」
フィーネが弓を握り直す。
「ああ。でもみんなも動こうとしてるのが分かる。なら大丈夫だ」
《和合の加護》を通して伝わるのは勇気だけではない。恐怖も緊張も伝わってくる。それでも互いが踏みとどまっていることまで感じられるから、一人なら止まっていた足が前へ出た。
デュラハンが動く。
「来た!」
黒い騎士はガルドの横を抜け、真っ直ぐフィーネとノエルへ向かった。
だが誰も慌てなかった。
オリヴィアとの訓練どおり、ガルドは追わずに中央を維持し、レオンだけが横から走る。フィーネは後退しながら弓を構え、ノエルは反対側へ移動。トウの幻想魔法がデュラハンの距離感をわずかに狂わせ、その進路へルウの魔法が先回りした。
「シッ!」
レオンの剣が突撃の軌道をわずかに外す。
「よし、対応できてる!」
しかし、対応できることと勝てることとは別だった。
デュラハンの《死騎士の斬撃》を受けたガルドが数歩押し戻され、レオンの斬撃も黒い鎧に浅い傷を残すだけ。フィーネの精霊魔法をまとった矢も、致命傷には程遠い。ノエルの回復魔法で細かな負傷を消しながら、七人は何度も攻防を繰り返した。
アルトは戦いながら観察を続ける。
前世の晴明なら、何を見るかを知っている。力の流れ、構えが変わる瞬間、攻撃の前後に生まれるわずかな停滞。見えている情報だけに頼らず、その情報を何と組み合わせれば答えに近づけるかも知っている。
《弱点 ――》
デュラハンが剣を振り上げる。
見る。
避ける。
もう一度見る。
《弱点 死騎士の斬撃直後――》
「見えた!」
それだけで、仲間たちにも意味が伝わった。
デュラハンが再び大剣を振り上げる。
ガルドが構え、レオンが走り、フィーネの弓に精霊魔法が集まる。ルウの周囲にも魔力が満ち、トウは幻想魔法を重ね、ノエルは仲間全員を見渡した。
《死騎士の斬撃》。
ガルドが正面から受けるのではなく、盾の角度を変えて斬撃を流す。その瞬間、デュラハンの体勢がわずかに開いた。
アルトは細かな指示を出さなかった。
「今だ!」
七人が、一斉に動いた。
ルウの魔法がガルドの盾すれすれを抜ける。その軌道を知っていたかのようにレオンが身体を沈め、デュラハンの側面へ入り込む。トウの幻想魔法が黒い騎士の認識を一瞬だけずらし、レオンへ反撃が向くより早くノエルの回復魔法が走った。
フィーネが矢を放つ。
精霊魔法をまとった矢はレオンの頬のすぐ横を通過し、ガルドの肩をかすめるほどの距離を抜けていく。それでも二人は避けない。フィーネが当てないことを知っている。そしてフィーネも、二人が避けないことを知っていた。
矢が鎧の継ぎ目へ突き刺さる。
同じ場所へルウの魔法。
レオンの剣。
最後にアルトの符が重なる。
攻撃、防御、回避、回復。そのすべてが互いの邪魔をせず、まるで最初から一つの動きとして決まっていたかのようにつながった。
黒い巨体が大きく揺れる。
そして、倒れた。
しばらく誰も動かなかった。
「よかった。死んでない。」
やがてリクが、小さく息を吐いて微笑む。
「私の加護をこのように発展させるとは。アルト様、お見事です」
「いや、俺だけじゃないよ。みんながずっと一緒に戦ってきたからだと思う」
アルトがそう言うと、リクは静かに頷いた。
中層の奥へ続く扉が、ゆっくりと開いていく。
「やった……中層攻略だ!」
フィーネの声に、ようやく全員から歓声が上がった。
「攻略できたな。この先はまた今度にしよう。」『デュラハン、今度は通してくれる?』
『かまわぬ。』
『次来たときは友達になってくれる?』
『ああ、かまわぬぞ』
◇
学生寮へ戻った夜、レオンとガルドは談話室の端で今日の装備を手入れしていた。
「そういえばレオン、先日オリヴィア嬢が、わしの作ったネックレスをつけてくれとったのう。ちゃんと渡せたんじゃな」
「はいであります。とても喜んでいただけたであります。まさか身につけて見学に来てくれるとは思っていなかったので、少し驚いたであります」
「少し、のう。訓練中ずっと嬉しそうな顔しとったぞ?」
「そ、それはガルド殿の見間違いであります。それより、オリヴィア殿の助言がなければ今日の《首なし突撃》への対応はもっと苦労したはずであります。本当に頼りになる方であります」
「はいはい。まあ、お前さんたちは似た者同士じゃからのう。二人とも暇さえあれば鍛錬しとるし、そういうところも気が合うんじゃろ」
「そうでありますな。自分もオリヴィア殿と練習するのは楽しいであります。毎回、本当に死にそうではありますが」
ガルドは声を上げて笑った。
その頃、アルトは今日最後に開いた扉の向こうを思い出していた。
夏休みの目標だった中層攻略は達成した。
次は、深層。
けれど急ぐ必要はない。
晴明の知識が戻ったからこそ、アルトには分かる。知識があることと、今の身体で実行できることは同じではない。だから鍛え、学び、仲間と一緒に少しずつ着実に進めばいい。
冬休みには、もっと強くなった七人で。
そう思いながら、アルトは静かに拳を握った。
===========================
【第50話終了時点 《希望の夜明け》ステータス】
《アルト Lv186》
《ギフト なし》
《剣術 熟練度11》
《体術 熟練度11》
《意思疎通 熟練度14》
《霊力操作 熟練度14》
《霊視 熟練度12》
《魂視 熟練度11》
《符術 熟練度12》
《火行術 熟練度13》
《風行術 熟練度12》
《水行術 熟練度11》
《土行術 熟練度11》
《雷術 熟練度11》
《結界術 熟練度13》
《呪術 熟練度10》
《式神術 熟練度12》
《幻想術 熟練度9》
《加護 神獣の友》
《加護 騰蛇と一心同体》
《加護 精霊の加護》
《加護 和合の加護》
《フィーネ Lv154》
《ギフト 弓力(微)》
《弓術 熟練度12》
《精密射撃 熟練度13》
《精霊魔法 熟練度11》
《精霊感応 熟練度12》
《射線判断 熟練度12》
《加護 精霊の加護》
《レオン Lv148》
《ギフト 剣技(小)》
《剣術 熟練度12》
《体術 熟練度11》
《対人戦闘 熟練度11》
《集団戦闘 熟練度10》
《追撃 熟練度10》
《竜力操作 熟練度9》
《ガルド Lv147》
《ギフト 盾(小)》
《盾術 熟練度13》
《体術 熟練度10》
《防御術 熟練度12》
《受け流し 熟練度11》
《鍛冶 熟練度12》
《武具加工 熟練度11》
《トウ Lv146or■■■■■》
《ギフト 探知(小)》
《探知 熟練度13》
《探索魔法 熟練度14》
《幻想魔法 熟練度13》
《情報伝達 熟練度12》
《変身 熟練度12》
《ノエル Lv150》
《ギフト 回復(小)》
《回復魔法 熟練度17》
《治療術 熟練度16》
《状態把握 熟練度15》
《薬学 熟練度14》
《加護 大精霊の加護》
《ルウ Lv144or ■■■■■■》
《ギフト 魔力(小)》
《魔力操作 熟練度13》
《火属性魔法 熟練度12》
《水属性魔法 熟練度12》
《風属性魔法 熟練度12》
《土属性魔法 熟練度12》
《雷属性魔法 熟練度12》
《防御魔法 熟練度13》
《広域魔法 熟練度12》
《加護 ■■■■■の加護》
次回更新は明日の12時の予定です。
皆様に大切なお願いがございます。
読んでみて少しでもいいと思っていただけましたら、、ブックマークと評価を★★★★★にしていただけるととっっっっても嬉しいです。(*´ω`*)
執筆を続ける励みとなりますので是非ともお願いいたします。m(_ _)m




