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ギフトなしと呼ばれた男  作者: 近江 伊吹
第二章 《魔法学校一年生》

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第三十二話 上級生は、やっぱりすごい

# 第三十二話 上級生は、やっぱりすごい


 王立魔法学校へ入学して数日、アルトは早くもこの学校がかなり気に入っていた。授業を受ければ知らないことが増え、先生へ質問すればさらに分からないことが増える。普通なら困るところなのだろうが、アルトにとっては調べるものが増えるほど面白かった。


 その朝も、七人で借りている学生寮の食堂でパンを片手に昨日の訓練装置について考え込んでいると、向かいに座っていたルウが呆れたように口を開いた。


「アルト、先ほどからそのパンを持ったまま止まっておるぞ。研究は構わぬが、食事中くらいは食事に集中せぬか」


「昨日の装置さ、回転を速くすると抵抗が変わる場所も少しずれたんだよ。だったら魔力そのものより、歯車の組み方に何か――」


「その続きを聞いてやるから、まず口に入れてしまえ。お主は放っておくと本当に食べることまで忘れるからな」


「忘れないって」


「昨日も似たようなことを言ってたよっ」


 フィーネまで笑いながら加わり、ノエルもお茶を飲みながら頷いた。


「うちもルウに賛成。昨日は呼びに行かなかったら、たぶん夕食に遅れてた」


「ほら見ろ。二対一どころではなくなったぞ」


「俺の味方はいないのかよ」


「自分も、食事を終えてから考えるのがよいと思うであります」


「わしもじゃ。パンを食うのに研究は必要ないじゃろう?」


 レオンとガルドにまで言われ、アルトは仕方なくパンへかぶりついた。


「……分かったよ。食えばいいんだろ」


「最初からそうしておればよいのだ」


 七人で暮らし始めたことで、学校が分かれても朝と夜には自然と顔を合わせるようになった。レオンからは王立騎士学校の話が入り、ガルドからは普通高校や王都の職人の子供たちの話が入る。そして週末になれば《希望の夜明け》としてダンジョンへ向かう。以前とは環境が変わっても、七人の関係そのものは思ったほど変わっていなかった。


◇


 その日の王立魔法学校では、一年生全員が大演習場へ集められていた。


「今日は、皆さんに三年後の一つの目安を見てもらいます」


 そう言ったのは、実戦魔術を担当するマリア・アルヴェーンだった。明るい表情の女性だが、立っているだけで昨日までの教師とは違う圧を感じる。


 アルトが何気なく意識を向けると、いつものように数字と文字が浮かんだ。


 ――Lv920。


 ギフト《全属性適性》。


 その下には、火、水、風、土、雷をはじめとした数多くの適性と、《無詠唱》を示す能力まで並んでいる。


(……九百二十?)


 思わず二度見した。


 レベルという概念そのものを知る人間は、この国でも王族や宮廷魔法師などごく一部しかいないらしい。自分にはなぜか昔から見えるが、エレウスですら知らなかった以上、軽々しく口にするものではないとアルトも理解し始めていた。


「まず私がやります。魔術は威力だけではありません。同じ相手でも、状況が変われば最適な術も変わりますから、そこを見てください」


 マリアが片手を上げる。


 次の瞬間だった。


 火。


 水。


 風。


 土。


 雷。


 詠唱は一つもない。


 燃える標的を水が飲み込み、濡れた地面を土が隆起して封じ、その上を飛び越えようとした標的を風が押し戻す。直後には雷が走り、最後に火球が別の標的を撃ち抜いた。


 ほとんど間がなかった。


「……速っ」


 アルトが思わず声を漏らす。


「全部無詠唱ですね。それに、属性を切り替えるときにも魔力の乱れがほとんどありません」


 ストライクも真剣な顔で見ている。


 マリアは笑った。


「一属性だけなら、私より上手な魔術師はいくらでもいますよ。でも実戦では、相手が自分の得意属性に合わせてくれるとは限りません。だから私は、何が来ても対応できることを磨いてきました」


(全属性適性か。それに無詠唱……そりゃ強いよな)


 晴明としての膨大な知識を取り戻したアルトにも、目の前の技術は素直にすごいと思えた。それがまた嬉しかった。前世の知識を取り戻したからといって、この世界で学ぶものがなくなったわけではない。


 続いて三年生のラインハルト・ケインが前へ出た。


 アルトの目には、Lv230、《剣魔一体》と見える。


 合図と同時にラインハルトが走った。剣を振りながら火球を放ち、相手の攻撃を刃で受けるのとほぼ同時に防御魔法を展開し、その障壁が消えるより前に二つ目の術式が完成する。


「剣と魔法を別々に使っていないんですね」


 ストライクが感心したように言うと、ラインハルトは剣を肩へ担いで笑った。


「その通り。剣を使っている間に魔法を休ませる必要はないし、魔法を使っている間に剣を止める必要もない。三年もあるんだ、両方やりたいなら両方やればいい」


 ストライクの目が明らかに変わった。


 アルトはそれを見て、少し笑う。


「ストライク、やりたそうだな」


「もちろんです。あれほど綺麗に同時運用できるなら、わたくしも覚えてみたいですね」


 次に前へ出たのは、セラ・ノクティスという無口そうな三年生だった。


 Lv205。


 ギフト《術式装填》。


 そしてアルトが能力の詳細へ意識を向けた瞬間、目を疑った。


(装填数……二百?)


「セラは少し特殊です。驚いてもいいですが、真似しようとはしないでくださいね」


 マリアの言葉が終わる。


 セラが片手を前へ出した。


 ドドドドドドドドドッ――!


 火球、風刃、氷槍、雷弾、土塊が、ほとんど途切れることなく標的へ降り注いだ。


 魔法というより、弾丸だった。


 十発。


 二十発。


 まだ止まらない。


 五十発を越えても速度が落ちず、次々と出現する標的が片端から吹き飛んでいく。


「……何発入ってるんだよ」


 アルトが呟く。


「今は二百発です」


 セラが攻撃を止めずに答えた。


「二百!?」


「以前は百五十ほどでした。まだ増やせると思っています」


 言っている間にも魔法が飛び続ける。


 マイルスが苦笑した。


「これは魔法というよりマシンガンだね……いや、この世界じゃ通じないか」


「マシンガン?」


「こっちの話だよ。とにかく、とんでもなく速いってことさ」


 やがて二百発目が標的を粉砕し、ようやく静寂が戻った。


 アルトは呆然と演習場を見る。


「マリア先生もすごかったけど、これはまた別の意味ですごいな」


「私は切り替えて撃つ速さなら得意だけど、純粋な連射速度ではセラには勝てないわ」


 マリアがあっさり認める。


「ただし、装填した分を撃ち切った後は再び準備が必要。どんなギフトにも得意な使い方と不得意な使い方があります」


 最後に二年生のアリシア・フェーンが紹介された。


 Lv135。ギフト《魔法複製》。


 アリシアは先ほどマリアが放った魔法をじっと思い出すように目を閉じると、その中から理解できた術を次々と再現してみせた。当然マリアほどの威力はないが、一度見ただけの術を同じ形で発動するだけでも十分異常だった。


「一回見ただけだよな?」


「そうだね。ボクたちの学校、本当に変なのが多いみたいだ」


「マイルスが言うなよ」


「ボクは普通の一年生だよ?」


「絶対違うと思う」


 そこへマリアがアルトを見る。


「そういえば、選抜試験で魔法とは違う術を使った一年生がいましたね。アルト君、危険のないものを一つ見せてもらえる?」


「俺?」


「他にギフトなしで式神を使う一年生がいるなら、その子でもいいですよ」


「じゃあ俺だな」


 アルトは小さな符を一枚取り出し、離れた木製標的へ向ける。晴明の記憶が戻ってから、火、風、水、土、雷の五系統も霊術として再構成できるようになり始めていたが、今ここで大げさなものを見せる必要はない。


 符へ霊力を流す。


 小さな風が生まれ、標的を押し倒した。


 アリシアが目を細める。


「もう一度お願いします」


「いいぞ」


 二度目。


 アリシアがすぐに真似る。


 何も起こらない。


 もう一度。


 やはり発動しない。


「……できません」


 初めて、アリシアの表情がはっきり変わった。


「アルト君、それは何ですか?」


「霊術だよ。魔法に見えるかもしれないけど、俺が使ってる力はたぶん魔力とは違う。こっちの魔術と何が違うのかは、俺もまだちゃんと整理できてないけどな」


「もう一度見せてもらっても?」


「もちろん。俺も、なんでアリシア先輩には真似できないのか知りたい」


 悔しそうだったアリシアの顔に、今度は好奇心が浮かんだ。


 その横でマイルスが言う。


「同じように風を起こしても、そこへ至る仕組みが別なら複製できないのかもしれないね。通常魔術で同じ程度の風を作って、二つを比べてみるのはどうかな?」


 アルトの目が輝く。


「それ、やってみようぜ」


「やっぱり君とは話が早いね」


◇


 放課後、寮へ戻る前にフィーネが射場で少し練習しているのを見つけ、アルトは何となく足を止めた。


 ヒュッ。


 矢は中心から少し右へ外れる。


 二本目。


 また右。


 三本目も、四本目も、ほとんど同じ場所だった。


「フィーネ」


「なに、アルト君?」


「全部、真ん中狙ってるんだよな?」


「そうだよっ。でも、やっぱりちょっと右にいっちゃうんだよね」


 フィーネは失敗したと思っているらしいが、アルトには別のものが見えた。


「でも、外れる場所が毎回ほとんど同じだぞ」


「え?」


「狙い方か弓の癖を少し直せば、全部真ん中に集まるかもしれない。これ、かなりすごいと思う」


「ほんとに?」


「たぶん。明日も見せてくれない?」


 フィーネの顔がぱっと明るくなった。


「うんっ! じゃあ明日も一緒にやろうねっ」


「おう。俺も調べたいこと増えたしな」


 その日のアルトのノートには、魔術と霊術の違い、アリシアには複製できなかったこと、そしてフィーネの矢がほぼ同じ位置へ集まっていたことが書き加えられた。


 王立魔法学校へ来て、まだほんの数日。


 それなのに、知りたいことはもう山ほどある。


 前世で安倍晴明として積み上げた知識が戻った今だからこそ、その先にまだ分からないものがあることが、アルトにはたまらなく面白かった。


 そして、その答えのいくつかを自分一人ではなく、仲間や教師と一緒に探せるということも、少しずつ分かり始めていた。


次回更新は明日の12時の予定です。


皆様に大切なお願いがございます。

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執筆を続ける励みとなりますので是非ともお願いいたします。m(_ _)m

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