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ギフトなしと呼ばれた男  作者: 近江 伊吹
第一章 《ギフトなしの少年》

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第三十話 希望の夜明け再び

# 第三十話 希望の夜明け再び


 最終結果発表の朝、アルトはいつもより少し早く目を覚ました。


 昨日までなら試験内容を考えればよかった。だが今日はもう、自分に出来ることは何もない。ただ結果を見に行くだけなのに、その方が妙に落ち着かない。


「アルト君、絶対一組入ってるよね? 昨日ストライク君にも勝ったし、その前だって三十六位だったんだから大丈夫だよね?」


 宿を出る前から、フィーネはアルト以上にそわそわしている。


「たぶん大丈夫だと思うけど、総合点だからな。最初の魔力量とギフトで思いっきり点落としてるし」


「今さら何を心配しておる。八百十二位から三十六位まで上がり、最後には《勇者》まで破ったのであろう」


 ルウが呆れた顔をする。


「アルトは入ってるな。うん」


 トウは今日も当然のようにアルトのすぐ横にいる。


「トウちゃんはもう結果見てきたみたいに言うよね!」


「見なくても分かることはあるな。うん」


「その自信どこから来るの!?」


「アルトだからじゃないかな。うん」


 ノエルが静かに立ち上がった。


「行けば分かる」


「……それが一番正しいな」


 五人は揃って王立魔法学校へ向かった。


◇


 全国から千人。


 合格者、四百四十人。


 校門近くの巨大な掲示板には、最終順位と所属クラスがずらりと並んでいた。


 まず目に入る、一番上。


 **第一位 マイルス・ミッドガルド 一組**


「マイルス、主席じゃん!」


 少し離れた場所にいた本人が、いつものように笑う。


「一番だったみたいだね」


「みたいだね、じゃないだろ。全国から千人来て一位だぞ」


「試験はけっこう得意なんだよね」


「その言い方で済ませる点数じゃないと思う」


 周囲では第一王子の主席合格にざわめきが広がっていたが、マイルス本人には大げさに喜ぶ様子もない。


 そして、そのすぐ下。


 **第二位 ストライク・ローゼンベルク 一組**


「次席か」


「はい。昨日はアルトさんに負けましたが、総合点ではわたくしの方が上だったようですね」


 ストライクが少し嬉しそうに言う。


「言うようになったな」


「事実を申し上げただけです。もちろん次は、試合でも勝つつもりですが」


「じゃあ俺も次は別の勝ち方考えないとな」


「望むところです」


 昨日までところどころピンクだった二人とは思えないほど、今日は爽やかだった。


◇


「それよりアルト君! 自分の順位探さないと!」


「下から見た方が早いかな」


「なんで八百十二位だったときの探し方なの!」


 フィーネに腕を引かれ、上へ上へと名前を追っていく。


 四十位。


 三十五位。


 三十位。


 そして――。


 **第二十四位 アルト 一組**


「……二十四位か」


「二十四位だよっ!」


 フィーネがアルトの肩を揺らす。


「最初八百十二位だったんだよ!? 七百八十八人も抜いてるんだよ!?」


「そんな抜いたのか」


「自分でやったんでしょ!」


 ルウも掲示を見る。


「魔力零、ギフトなし。それで二十四位なら十分異常であろう」


「いや、嬉しいぞ。ただ、上にまだ二十三人いるんだなって思って」


「お主、もう次を見ておるのか」


「主席で卒業するなら、マイルス抜かないと駄目なんだろ?」


 マイルスが聞きつけて笑う。


「ボクを抜くつもりなんだ?」


「目標にするだけならいいだろ」


「いいね。楽しみにしてるよ」


◇


 そして、《希望の夜明け》の仲間たち。


 ルウ。


 トウ。


 フィーネ。


 ノエル。


 順位に差はあったが、全員の名前の横に同じ文字があった。


 **一組。**


「一緒だぁぁぁ!」


 フィーネがとうとう我慢出来ず、アルトとノエルへまとめて抱きつく。


「ちょっと苦しいって!」


「でも五人一緒だよ! 王立魔法学校でも同じクラスなんだよ!」


「五人一緒」


 ノエルも小さく笑った。


「当然だな。うん」


「トウちゃんは何でも当然って言いすぎ!」


「実際そうなったな。うん」


 ルウも口元をわずかに緩める。


「まあ、我だけ別の組へ行くことにならず良かった」


「ルウちゃんも嬉しいんじゃん!」


「別に隠してはおらぬ」


 地方の中等部で出会い、三年間ダンジョンへ潜り続けた五人が、全国から集まった上位四十人の中へ揃って入った。


 アルトは掲示板に並ぶ五人の名前を、しばらく眺めていた。


◇


 セドリックも無事合格していた。


「一組には届かなかったけど、王立魔法学校には入れたよ。君たちとはまた学校で会えるね」


「うん。また一緒に何かやろうぜ」


「次は僕も、もう少し近くまで追いつきたいな」


 悔しさはあるだろう。それでもセドリックは笑っていた。


 さらにその日の午後、別の学校を受験していた二人からも連絡が届いた。


「アルト! 合格したであります!」


 レオンは王立騎士学校。


「おめでとう!」


「王都でも鍛錬を続けるであります。週末には《希望の夜明け》へ合流するであります!」


 ガルドも王都の高等学校へ進学が決まった。


「わしは魔法学校でも騎士学校でもないが、王都にいることには変わらんからな。週末ならダンジョン行けるぞい」


「じゃあパーティーはそのままだな」


「学校始まる前から次のダンジョンを考えておるのか」


「せっかく王都行くんだから、今までより大きいところあるだろ?」


 ルウがため息をつく。


「お主は本当に休むという発想がないな」


 七人の学校は分かれる。


 だが、《希望の夜明け》は分かれない。


 週末になれば、また七人でダンジョンへ潜る。


◇


 数日後。


 故郷へ戻る馬車が街の門へ近づくと、アルトは見慣れた人影を見つけた。


 マックス。


 ハイネ。


 タクト。


 アーニャ。


 さらにその後ろには、近所の人たちまで集まっている。


「ただいま」


「おかえり」


 マックスはいつも通りだった。


「どうだった?」


「受かったよ。一組」


「そうか」


「父さん、もうちょっと驚いてもいいんじゃない?」


「驚いてる」


「全然見えないんだけど」


 横からハイネが飛び出してくる。


「一組!? 本当に一組なの!? 何位だったの?」


「二十四位」


「二十四位!?」


 こちらは分かりやすかった。


「兄ちゃん、すげえ!」


 タクトが目を輝かせる。


「王立魔法学校の一組って、一番上のクラスでしょ!?」


 アーニャまで興奮している。


「まあ、四十人いるけどな」


「最初八百何位だったんでしょ!?」


「八百十二位」


「そこから二十四位!?」


 家族が騒いでいる横で、マックスだけが静かにアルトの頭へ手を置いた。


「よく帰ってきたな」


「うん」


 出発の日にも言われた。


 受かっても落ちても、ちゃんと帰ってこい。


 試験中には本物の魔獣まで出てきた。


 だからアルトには、その言葉の方が合格祝いより少し重く聞こえた。


◇


 翌日には、もう街中へ話が広がっていた。


「アルト! 王立魔法学校なんだってな!」


「しかも一組だって?」


「昔ギフトなしだったあの坊主がなあ!」


「今もギフトなしだよ」


 アルトが笑って答える。


「そうだったな!」


 昔なら、その言葉を聞くだけで胸の奥が少し痛んだ。


 今は違う。


「ギフトなしのアルト!」


 子供の一人が呼ぶ。


「いや、普通にアルトでいいって」


 周囲に笑いが起きる。


 何も変わっていない。


 ギフトはない。


 それでも、その言葉の意味だけは十年前とはずいぶん変わっていた。


◇


 ルウの家では、ゼノとミレイアも合格を祝っていた。


「王立魔法学校一組への合格、見事である」


 ゼノは相変わらず硬い口調だ。


「ありがとう」


「アルトもよくやったな。幼い頃から見てきたが、まさか全国上位まで行くとは思わなかった」


「俺も八百十二位見たときは、そこまで行くと思ってなかったよ」


 ミレイアが笑う。


「それでも最後には二十四位でしょう。十分すぎますよ」


「ルウの方が上だったけどな」


「それはそれ、これはこれである」


 ルウが即座に返す。


「そこ張り合うの?」


「事実を述べただけだ」


 アルトは笑った。


 王都へ行けば、この街での生活は終わる。


 けれど、帰る場所までなくなるわけではない。


◇


 進学準備の合間、アルトは久しぶりに自分の能力を確認した。


 《アルト Lv100》


 《剣術 熟練度8》


 《体術 熟練度8》


 《意思疎通 熟練度9》


 《霊力操作 熟練度9》


 《火行術 熟練度9》


 《風行術 熟練度9》


 《水行術 熟練度8》


 《土行術 熟練度8》


 《雷術 熟練度8》


 《結界術 熟練度9》


 《呪術 熟練度8》


 《式神術 熟練度6》


 《幻想術 熟練度5》


 《加護 神獣の友》


 《加護 騰蛇と一心同体》


「増えたなあ……」


 五歳の頃には、一つの火球すら撃てなかった。


 今は三十体の式神を同時に操り、その式神を通して術まで使える。


 晴明の記憶が戻った。


 騰蛇とも再びつながった。


 だから成長は、これからさらに速くなる。


 それでもレベルは百。


 晴明がかつて到達した高さを考えれば、まだ入口にも近い。


「アルト」


 いつの間にか隣へ来ていたトウが覗き込む。


「まだまだ強くなれるな。うん」


「うん。俺もそう思う」


「なら問題ないな」


「何が?」


「これからも一緒にいられる時間が長いってことだな。うん」


 アルトは少し笑った。


「そうだな」


◇


 そして、入学の日。


 王都。


 巨大な王立魔法学校の門を前に、フィーネが見上げる。


「今度は受験じゃなくて、本当にここの生徒なんだね」


「そうだな」


「ちょっと変な感じ」


 トウは今日もアルトの隣。


 ルウとノエルもいる。


 少し離れた分かれ道では、レオンとガルドがそれぞれ別の学校へ向かおうとしていた。


「週末には合流するであります!」


「ダンジョン行くなら連絡しろよ!」


「もちろん!」


 七人はいったん別れる。


 それでも、《希望の夜明け》は続いていく。


◇


 一組。


 全国上位四十名だけが集まる教室。


 扉を開けると、すでにマイルスがいた。


「やあ。今日から同じクラスだね。よろしくね」


「主席と同じクラスなんだよなあ。追いつくの大変そうだな」


「やっぱり追いつくつもりなんだね」


「そのうちな」


 その近くにはストライクもいる。


「アルトさん。入試での一勝は、ここでは一度忘れていただきたいですね。次はわたくしが勝ちますので」


「それ全然忘れてないだろ」


「確かにそうですね」


 フィーネが笑い、ルウが呆れ、ノエルが静かに席を探す。


 アルトも自分の席へ座った。


 王都。


 王立魔法学校。


 一組。


 新しい授業。


 新しい仲間。


 そして、今までより遥かに大きなダンジョン。


「さて、何から覚えようかな」


「全部でいいんじゃないかな。うん」


「トウ、お主にそれを言われるとアルトは本当に全部やるぞ」


「わたしも一緒にやるよっ!」


「うちも」


 アルトは笑った。


◇


 その頃。


 王立魔法学校の地下深く。


 立入禁止となった古い区画で、数人の教師が第五試験で採取された黒い術式を調べていた。


「学校側の術式ではありません」


「外部から侵入した形跡もない。では、あの魔物はどこから現れた?」


 古い石床。


 誰も触れていないはずの場所。


 一瞬だけ。


 見慣れない術式が淡く光った。


 五歳で《ギフトなし》と呼ばれた少年は、十五歳になった。


 ギフトは、ない。


 魔力も、ない。


 それでも――。


 **王立魔法学校、最上位一組。**


 そしてアルトの物語は、ここからようやく、世界の中心へ向かって動き始める。


 その足元で、誰にも知られない古い術式が、もう一度だけ静かに光った。


 **第一章 完**


次回更新は明日の12時の予定です。


皆様に大切なお願いがございます。

読んでみて少しでもいいと思っていただけましたら、、ブックマークと評価を★★★★★にしていただけるととっっっっても嬉しいです。(*´ω`*)

執筆を続ける励みとなりますので是非ともお願いいたします。m(_ _)m

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