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ギフトなしと呼ばれた男  作者: 近江 伊吹
第一章 《ギフトなしの少年》

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第二十六話 使えるものは全部使う

# 第二十六話 使えるものは全部使う


 第三試験の朝になっても、トウとアルトの距離は元へ戻らなかった。


 宿の食堂へ入ったフィーネがアルトの隣の椅子へ向かおうとしたときには、すでにトウが当然のように座っている。


「トウちゃん、そこ、わたしが座ろうと思ってたんだけど!」


「まだ座ってなかったな。うん」


「そういう問題じゃないよっ!」


 向かいに座ったルウが呆れたように二人を見る。


「トウ、お主は昨日から遠慮というものをどこへ置いてきたのだ?」


「千年くらい前じゃないかな。うん」


 アルトが飲んでいた水を噴きそうになった。


「千年!?」


 フィーネとルウの声が重なる。


 トウはパンを一口食べてから、いつもの涼しい顔で首を傾げた。


「言い間違えたな。うん」


「千年をどう間違えたら出てくるのだ!」


「朝だからじゃないかな。うん」


「絶対何か隠してるよぉ!」


 ノエルだけは黙々と朝食を食べながら、「仲いいのは悪いことじゃないと思う」と呟いていた。


◇


 試験会場へ向かう前、アルトは宿の裏庭で軽く術を確認した。


 小さな火を出す。


 それだけで違和感があった。


「……やっぱり違う」


「何がだな?」


 すぐ横にいたトウが尋ねる。


「火行術が昨日までより楽なんだよ。同じくらいの霊力しか使ってないのに、炎が全然ぶれない。それに――」


 アルトは自分の姿を少し離れた場所へ投影してみた。


 もう一人のアルトが現れる。


「幻想術なんて、俺ほとんど練習してないんだけど」


「トウが使えるからじゃないかな。うん」


「やっぱりお前のせい?」


「一心同体だからな。昔も似たようなことはあったな。うん。ただ、今のアルトがトウの力をそのまま使えるわけじゃないから、感覚が分かりやすくなるくらいだと思うな」


「それでも十分すごいぞ。式神も結界も昨日より分かりやすいし」


「アルトが強くなるならいいことだな。うん」


 トウは当然のように言う。


 少し離れたところで聞いていたルウが眉を寄せた。


「一心同体?」


「……そういう言い方もあるってこと」


「ますます一昨日の晩何があったのか気になるのだが」


「試験行こうぜ!」


「逃げたな」


◇


 王立魔法学校の第三試験は、広大な模擬迷宮を使って行われた。


「第三試験は応用・複合課題です。制限時間内に迷宮内部へ配置された三つの魔導核を回収し、入口まで持ち帰ってください。内部には罠、魔法人形、偽の魔導核、幻惑魔法などが設置されています。攻略方法は自由。ただし、他の受験者への故意の妨害は禁止します」


 制限時間は三十分。


 複数の同型迷宮を使い、受験者が次々挑戦する。


「これ、ほとんどダンジョンじゃん」


 アルトが嬉しそうに言うと、ルウが頷いた。


「三年間ダンジョンへ潜ってきたお主らには、かなり有利な試験であろうな」


 先に挑戦したセドリックは正統派だった。罠を一つずつ見抜き、魔法人形を魔法で撃破しながら三つの魔導核を回収する。十四分五〇秒。派手さはないが失敗もなく、かなりの好記録を出した。


 ストライク・ローゼンベルクは正反対だった。


 罠を防御魔法で受け、魔法人形は正面から倒し、行き止まりになれば壁そのものを破壊する。


「……あれ、いいの?」


「遺跡を壊すなとは書いておらぬからな」


 ルウが答える。


 ストライクは凄まじい速さで三つを回収して戻ってきた。九分五十一秒。


「少々乱暴な方法になってしまいましたが、規則には違反していないと思うのですが、よろしかったでしょうか?」


「……認めます」


 試験官が少し疲れた顔で答えた。


「やっぱ強いな、ストライク」


 一方のマイルスは、ほとんど戦わなかった。


 罠の魔力を読み、魔法人形の巡回を避け、偽物には触れず、最短に近い経路だけを通って戻ってくる。八分三十秒。


「全部倒す必要なんてないんだよね。三つ持って帰ればいい試験なんだから」


 戻ってきたマイルスが言う。


「それ、俺も同じこと考えてた」


「君ならそうだと思ったよ」


 フィーネは精霊に道を尋ね、トウは探索魔法と幻想魔法で敵をかわし、ノエルは薬草や魔法薬を利用した罠に強さを見せた。ルウは相変わらず何をさせても安定しており、全員が高得点を取っていく。


 そしてアルトの番になった。


◇


「始め!」


 合図。


 アルトは迷宮へ一歩入った。


 そこで座った。


 試験官が目を瞬く。


「……何をしている?」


「探してます」


 アルトは鞄から大量の紙を取り出した。


 晴明の記憶が戻る前なら、一体をまともに歩かせるだけでも苦労した。


 だが今は違う。


 紙が一枚。


 二枚。


 五枚。


 十枚。


 次々と形を取り始める。


 最終的に、


 三十体。


「行ってきて。三つの魔導核を探して、見つけたら場所を教えてくれ。危なかったら無理しなくていいから戻ってこい」


 三十体の式神が、一斉に飛んで迷宮へ散っていった。


「三十体……?」


 試験官の声が裏返る。


 さらにアルトは周囲へ意識を広げた。


 迷宮の壁際。


 床下。


 餌を探していたネズミたち。


「ちょっと手伝ってくれない?」


《食べ物?》


《何くれる?》


《お腹すいた》


「終わったらちゃんと食べ物あげる。三つ、変な丸いものがあるから探してほしい」


《行く》


《食べ物》


《探す》


 数十匹のネズミまで迷宮へ消えていった。


 アルトだけが入口に座っている。


 試験官はしばらく何も言えなかった。


◇


 式神から次々と情報が返ってくる。


 晴明の記憶と騰蛇からの加護《騰蛇と一心同体》の補正で式神術が急速に伸びた結果、アルトは式神が見ているものを以前よりはっきり感じられるようになっていた。


 一体目。


 罠。


「そこ右へ」


 二体目。


 魔法人形。


「戦わなくていい。迂回して」


 三体目。


 光る魔導核。


「それ偽物。触らないで」


 別の式神が魔法人形に発見された。


「止まって」


 アルトは目を閉じる。


 式神を通じて幻想術を発動。


 通路の反対側へ小さな人影が現れ、魔法人形がそちらへ向きを変えた。


「……遠隔で魔術を?」


「魔術じゃなくて陰陽術です」


「いや、どっちでもいいけど。いや、そういう問題ではない!」


 さらに別の式神が蔓に覆われた通路へ到達する。


「そこは火だな」


 式神を介して霊力を流す。


 火行術。


 小さな炎が生まれ、必要な蔓だけを焼き切った。


 アルト自身が少し驚く。


「遠くても出来るんだ」


「試験中に新しいことを発見しないでください!」


「すみません。でも昨日より出来ること増えてるんで」


 試験官は頭を抱えた。


◇


《見つけた》


 ネズミから感覚が届く。


 一つ目。


 ネズミ数匹では運べない。


「じゃあ近くの式神、そっち行って」


 五体の式神が集まり、協力して魔導核を運び始める。


 二つ目。


 魔法人形に守られている。


 アルトは十体を回した。


 正面から戦わせない。


 三体が幻想を作り、魔法人形の注意を引く。


 二体が結界を張って動きを制限。


 残りが魔導核を運び出す。


「結界まで式神越しに……?」


 試験官の呟きに、アルト自身も少し笑う。


「出来るみたいですね」


 三つ目は壁の向こうだった。


 ネズミは小さな穴から入れるが、魔導核は通らない。


「じゃあ土行術で広げよう」


 式神を通して土へ霊力を流し、壁を崩さないよう穴の周囲だけを少しずつ広げる。


 魔導核が通る。


「よし」


 アルトはまだ入口から動いていなかった。


◇


 三方向から、式神とネズミの集団が戻ってくる。


 一つ。


 二つ。


 三つ。


 アルトは立ち上がり、目の前へ並べられた魔導核を見る。


「これでいいですか?」


 試験官が時計を見る。


 もう一度見る。


 さらに魔導核を見る。


「……三分四十一秒」


 周囲が静まり返った。


 それまでの最高記録を、大幅に更新していた。


「試験終了です」


「ありがとうございました」


 アルトが頭を下げると、式神たちも真似するように頭を下げた。


「お前らもありがとう」


 ネズミたちが足元へ集まる。


《食べ物》


《約束》


《お腹すいた》


「分かってるって。はい、どうぞ。おにぎり、お餅、煎餅もあるよ」


 見ていた受験者の中から笑いが起きた。


 マイルスだけは、迷宮の入口から一歩も動かなかったアルトを面白そうに見ている。


「君いいね。ボクは最短経路を探したけど、君は自分が行く必要があるかどうかから考えたんだね」


「三つ持って帰ればいいんだろ? 俺が取りに行けとは言われなかったから」


「その発想はなかったよ」


 ストライクも感心したように頷く。


「素晴らしいと思います。わたくしはすべて自分で突破してしまいましたが、協力してくださる存在がいるのであれば、お願いすることも立派な方法なのですね」


「ネズミにまで敬語使いそうだな、ストライク」


「協力してくださったのであれば、当然ではないでしょうか?」


「……やっぱいい奴なんだよな」


◇


「アルト!」


 トウが真っ先に近づいてきた。


「一位だな。うん」


「まだこの科目だけだけどな」


「それでも一位は一位だな。うん」


 そのままアルトの腕へ絡みつく。


「だからトウちゃん、試験会場でもそれやるの!?」


 フィーネがすぐ割り込んできた。


「試験は終わったな。うん」


「昨日もそれ言ってたよっ!」


 ルウは三十体の式神を見る。


「しかし、数日前まで一体を動かして喜んでおった者と同一人物とは思えぬな」


「俺もそう思う。晴明の記憶だけでもかなり違うけど、トウと一心同体になってから式神と結界と幻想術、それに火行術まで急に分かりやすくなった」


「一心同体?」


 フィーネが止まる。


「アルト君、今なんて言ったの?」


「あ」


 トウが涼しい顔で言う。


「仲がいいって意味だな。うん」


「絶対それだけじゃないよね!?」


◇


 夕方。


 第三試験までを反映した順位が掲示された。


 アルトは自分の名前を下から探そうとしたが、途中でフィーネに腕を引っ張られた。


「アルト君、もっと上!」


「どこ?」


「百九十二位!」


「……一気に上がったな」


「一気に上がったな、じゃないよ! 昨日五百三位だったんだよ!?」


 第三試験、第一位。


 その得点が大きく加算され、アルトは一日で三百十一人を抜いていた。


 千人中、


 **百九十二位。**


 合格予定の四百四十人には十分入っている。


 だがアルトが見ていたのは、さらに上だった。


「一組は四十位までなんだよな」


 ルウが横を見る。


「昨日まで八百十二位だった者が、もう四十位を見ておるのか?」


「だって主席で卒業しようと思ったら、一組に入っといた方がいいんだろ? だったら最初から四十位以内狙った方がいいじゃん」


「お主は合格しただけでは満足せぬのだな」


「せっかく行くなら、一番上まで狙いたいだろ。そっちの方がいっぱい学べそうだし」


 フィーネが順位表を見る。


「じゃあ、あと百五十二人だね」


「うん」


「わたしたちも一組に入るよっ。みんなで同じクラスがいいもん」


 ノエルも静かに頷く。


「うちも入る」


「トウも入るな。うん」


「我だけ別の組へ行く理由もないな」


 五人の目標が決まった。


 **全員、四十位以内。**


◇


 その夜。


 アルトは自分に見える数字を確認した。


 《アルト Lv100》


「おお……百になった」


 誰にも聞こえない声で呟く。


 レベルというものの存在自体、この国ではごく一部の人間しか知らない。アルトもそれを理解している以上、試験会場で数字を口にするつもりはなかった。


 能力も確認する。


 火行術。


 結界術。


 式神術。


 幻想術。


 どれも明らかに伸び方が速くなっている。


 その下には、


 《加護 神獣の友》


 そして、


 《加護 騰蛇と一心同体》


 が並んでいた。


「やっぱりこれ、かなりすごいな」


 隣からトウが覗き込む。


「アルトが強くなるなら、いいことだな。うん」


「いつからそこにいたんだよ」


「さっきからだな。うん」


「もう普通に俺の部屋にいるな……」


「嫌か?」


「……嫌じゃないけど」


「なら問題ないな。うん」


 昨日と同じ答えだった。


 そのとき、翌日の試験内容が書かれた紙へ、アルトの視線が止まった。


 《第四試験――集団実戦》


「集団実戦?」


 アルトが紙を手に取ると、トウもすぐ隣から覗き込む。


「明日は複数人で組むみたいだな。うん」


 説明によれば、受験者は試験当日に五人一組の小隊へ振り分けられ、模擬戦闘区域で共同課題へ挑戦することになっている。個人の戦闘力だけでなく、役割分担、状況判断、仲間との連携、指揮能力まで評価対象になるらしい。


 さらに、その下に注意書きがあった。


 《編成は試験本部が無作為に決定する。所属学校、既存パーティー等への配慮は行わない》


「ランダムか」


「《希望の夜明け》で組めない可能性が高そうだな。うん」


「まあ、そりゃそうだろ。いつもの仲間でやったら、三年間一緒にやってる俺たちが有利すぎるし」


 アルトは少し考えてから笑った。


「でも、これなら面白そうだな。誰と組むか分からないんだろ?」


「アルトは誰とでもすぐ話すから、あまり問題なさそうだな。うん」


「戦い方分からない奴と組むのは難しそうだけど、最初に出来ること聞けば何とかなるんじゃない?」


 そこへ扉が開いた。


「やっぱりトウちゃんここにいた!」


 フィーネが顔を出し、その後ろからルウとノエルも入ってくる。


「何の話をしておる?」


「明日の試験。五人一組の集団実戦だって」


 フィーネの顔が曇った。


「五人って、わたしたち五人じゃ駄目なの?」


「ランダム編成らしい」


「ええーっ! せっかくみんなでここまで来たのに!」


 ルウは説明書を受け取って読み、納得したように頷いた。


「当然であろうな。《希望の夜明け》で組ませれば、連携を見る試験として公平ではない。お主らは互いの考えていることまである程度分かっておるからな」


「でもアルト君と別チームになるかもしれないんだよぉ」


「別に試験だけだろ。終わったらまた一緒だって」


 ノエルが小さく頷く。


「誰と組んでも治すことは同じ」


「トウも探すことは同じだな。うん」


「我も必要なことをするだけだ」


 フィーネは三人を見回し、最後にため息をついた。


「みんな平気なんだね……」


「フィーネだって大丈夫だろ。精霊魔法も弓もあるし、知らない奴と組んでも十分強いじゃん」


 アルトに言われると、フィーネは少しだけ嬉しそうに笑った。


「……じゃあ頑張る。絶対一組入るもん」


「うん。五人とも四十位以内な」


 アルトはもう一度紙を見る。


 《第四試験――集団実戦》


 三年間。


 《希望の夜明け》で、何度も仲間と相談し、役割を決め、失敗し、また考え直してきた。


 だからこそ、今度は知らない相手とどこまで出来るのか試してみたかった。


「パーティー戦か」


 アルトは楽しそうに笑った。


「それなら三年やってきた」



次回更新は明日の12時の予定です。


皆様に大切なお願いがございます。

読んでみて少しでもいいと思っていただけましたら、、ブックマークと評価を★★★★★にしていただけるととっっっっても嬉しいです。(*´ω`*)

執筆を続ける励みとなりますので是非ともお願いいたします。m(_ _)m

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