美容商会の立ち上げ! ポーション大爆売れと、最強の番犬(スパダリ)の暗躍
美容商会の立ち上げ! ポーション大爆売れと、最強の番犬の暗躍
「よし! ブルーオーシャン戦略の第一歩、ポポロ村での新規事業立ち上げよ!」
ポポロ村の宿屋の一室。
私は机の上にズラリと並べた小瓶を前に、前世の限界社畜OL(R&D部門)としての血を滾らせていた。
私が【至高のコスメ錬金】で生み出したのは、ただの美容液ではない。
ポポロ村の『陽薬草』の超回復力、『月見大根』の鎮静保湿力、そして『太陽芋』のビタミンを完璧な黄金比でブレンドした、その名も『オールインワン・ヒールポーション(SPF50+ PA++++)』である。
「この世界、紫外線対策の概念が遅れてるのよね。冒険者や自警団の人たちは常に野外で活動してるから、肌へのダメージが深刻なはず。怪我も治せて、日焼けも防げて、おまけにアンチエイジング効果もある。絶対に売れるわ!」
「……セシリア、お前、本当にタフだな。追放されて数日しか経ってねぇのに、もう商売始めるのかよ」
部屋の隅で、新しいタクティカルジャケットを着こなしたキッドくんが、呆れたようにため息をついた。
今日も顔がいい。息をしているだけでファンサだ。
「当然よ! 推し(あなた)に最高のご飯を食べさせて、最高の服を着せるためには、先立つものが必要でしょ? 私のオタ活資金は私が稼ぐの!」
「だから、そのオタカツってなんだよ……。俺は別に、今のままでも十分……」
「ダメ! 推しには常にSSRの環境を提供しなきゃ! ほら、キッドくん、荷物運ぶの手伝って!」
「……へいへい」
文句を言いながらも、キッドくんは私が用意した重い木箱を、片手でひょいっと持ち上げた。
さすがステータス『体術A』『闘気A』。細身に見えて、服の下にはしなやかで強靭な筋肉が詰まっているのだ。そのギャップだけで白米三杯はいける。
◇◇◇
私たちは、タローマンの前の広場に小さな露店を構えた。
ポポロ村は緩衝地帯ということもあり、各国の冒険者や商人、そして地下帝国ドンガンのドワーフたちも出入りする交通の要衝だ。人通りは申し分ない。
しかし、見慣れない露店に並ぶ謎の小瓶を、最初は誰も怪しんで買おうとしなかった。
「うーん……やっぱり、インフルエンサーによるマーケティングが必要ね」
私が腕を組んで悩んでいると、カパッ、カパッという蹄の音と共に、自警団長のマンミアさんが通りかかった。
「あっ、セシリアさん! それにキッド君も。露店なんて開いて、どうしたんですか?」
「マンミアさん! ちょうどよかった、これ試してみてください!」
私はマンミアさんの美しい馬の下半身――その艶やかな尻尾の毛に、昨日開発した『超浸透型ハイブリッド・ヘアオイル』をサッと塗り込んだ。
「えっ? わぁっ……!?」
マンミアさんが驚きの声を上げる。
パサつきがちだった尻尾の毛が、オイルを塗り込んだ瞬間に、まるでシルクのように滑らかで光沢のある毛並みへと変貌したのだ。風になびくたびに、陽の光を反射してキラキラと輝いている。
「すごい……! ブラッシングしても全然引っかからないし、すごくいい香りがします! セシリアさん、これ本当にすごいですよ!!」
25歳独身(絶賛婚活中)のマンミアさんは、女子力を劇的に上げるそのオイルに大興奮だ。
彼女の大きな声と、劇的に変化した毛並みを見た周囲の女性たちや冒険者たちが、一斉に私たちの露店に群がってきた。
「ちょっと! 今のオイル、私にも売ってちょうだい!」
「こっちの『日焼け止めポーション』ってなんだ!? 塗るだけで擦り傷が治って、肌も守れるのか!?」
「太陽芋のメンズ用ジェル!? 髭剃り負けに効くなら俺も買うぞ!」
「はいはい、順番に並んでくださいねー! 今日は初回限定、お試し価格の銀貨1枚でのご提供ですよー!」
完全なフィーバー状態である。
私の前世の知識と、ポポロ村の高品質な素材、そして【至高のコスメ錬金】の組み合わせは、この世界において完全にオーパーツ(チート)だった。
だが、客が増えれば、当然マナーの悪い輩も寄ってくる。
特に私は、自分で言うのもなんだが、王都で貴族の令嬢としてそれなりに容姿を磨いていた。(前世の限界社畜時代とは違い、今世のビジュアルはかなり良いのだ)。
「へへっ、姉ちゃん可愛いねぇ。こんな辺境の村で露店なんてやってないで、俺たちと王都でいい思いしない? なんなら、このポーション全部買ってやるからさぁ」
いかにも柄の悪い、傭兵風の男たち三人組が、ニヤニヤと笑いながら私の顔を覗き込んできた。
「あ、いえ。まとめ買いはありがたいですけど、お誘いはお断りしま――」
私が営業スマイルで躱そうとした、その時だった。
スッ、と私の前に、黒いタクティカルジャケットの背中が割り込んだ。
キッドくんだ。
彼は私を背中に庇うように立つと、傭兵の男たちを、氷のように冷たく、見下すような瞳で睨みつけた。
「……用事がないなら、さっさと失せろ」
「あぁん? なんだガキ。俺たちは客だぞ? 邪魔すんじゃねぇ――」
男がキッドくんの胸ぐらを掴もうと手を伸ばした瞬間。
『ゾッ……』
広場の空気が、一瞬にして凍りついた。
キッドくんは剣すら抜いていない。ただ、ほんの少しだけ。ネフィリムの血に流れる『魔気』と、圧倒的な殺意を、男たちに向けて放ったのだ。
彼の左目、漆黒の瞳孔がスッと細くなる。
「触るな。……その汚い手で、彼女に近づくな」
地を這うような、低く静かな声。
それは、獲物の喉元に牙を突き立てる直前の、極限まで飢えた猛獣の唸り声だった。
男たちは、まるで死神に魂を掴まれたかのように顔面を蒼白にさせ、ガチガチと歯の根を鳴らして震え上がった。
「ひっ……!? あ、悪魔……ッ!?」
「す、すんませんッ! 買います! 定価で買いますから、命だけはぁぁぁっ!」
男たちはポーションの代金として金貨を数枚(定価の何十倍だ)放り投げると、悲鳴を上げながら脱兎のごとく逃げ出していった。
その様子を背後から見ていた私は、呑気に感心していた。
「わぁ……! キッドくん、すごい! 今のガン見、めちゃくちゃ迫力あったわ! さすがリキ兄貴の弟分ね、最強の用心棒だわ!」
「……バウンサー?」
キッドくんが、ふうっと小さく息を吐いて振り返る。
その顔には、先ほどまでの冷酷な殺意は微塵もなく、少しだけバツの悪そうな、照れたような表情が浮かんでいた。
「別に……。あいつらが、あんたに馴れ馴れしくしたから……ムカついただけで」
「ふふっ、ありがとう。キッドくんがいてくれて本当に心強いわ。うちの商会の立派な『番犬』ね!」
私が頭を撫でようと背伸びをして手を伸ばすと、キッドくんは避けるでもなく、少しだけ頭を下げて私の手にすり寄ってきた。
サラサラの髪を撫でると、彼は心地よさそうに目を細める。
(ああもう、なんて可愛いの! 大型犬みたい! 尊い! 今日も推しが元気に生きてるだけで世界は平和だわ!)
限界オタクの分厚いフィルターを通している私には、彼が放った殺意も、私に近づく男たちを排除した『異常な独占欲』も、まったく見えていなかった。
『番犬』などという可愛いものではない。
ネフィリムの少年の心の中では、「俺のセシリアに馴れ馴れしく口を利いた奴は、次に近づいたら確実に首を刎ねる」という、物騒極まりない決意が固まっていたのだが。
「おぉい! そこの嬢ちゃん!」
そんな私たちのやり取りを遮るように、今度は背の低い、がっしりとした体格の男が声をかけてきた。
長い髭に、ゴーグル。地下帝国ドンガンのドワーフの商人だ。
「この『オールインワン・ヒールポーション』、嬢ちゃんが作ったのか!? こいつぁたまげた! ドワーフの肌荒れや火傷にも一瞬で効きやがる! うちの帝国で、大口の独占契約を結ばせてくれねぇか!?」
「えっ!? 大口の契約ですか!?」
私は目を輝かせた。ドワーフの地下帝国ドンガンといえば、大陸有数の財力を持つ国だ。そこからの大口契約となれば、莫大な利益が見込める。
「はい! もちろんです! 喜んでお取引させていただきます!」
私はドワーフの商人と固い握手を交わした。
これで、当面の活動資金……いや、キッドくんに最高級のロックバイソン肉を毎日食べさせ、タローマンの新作服を貢ぎ続けるための『オタ活無限資金』の確保に成功したのだ。
「やったわ、キッドくん! これであなたに、もっともっと美味しいものを食べさせてあげられるわ!」
「……別に、飯なんてどうでもいい。俺は、あんたのそばにいられれば、それで」
「え? なんて言ったの?」
「なんでもねぇよ!! ほら、客が並んでるぞ、早く売れ!」
顔を真っ赤にしてそっぽを向くキッドくん。
今日も推しが可愛い。ポポロ村での商会立ち上げは、こうして大成功(と、キッドくんの暗躍)によって順調な滑り出しを見せたのだった。
◇◇◇
同じ頃。
ルナミス帝国にほど近い、王都の貴族邸。
「なんだと!? あのセシリアが、追放先のポポロ村で商会を立ち上げ、莫大な富を築きつつあるだと!?」
私に無実の罪を着せ、婚約破棄を突きつけた元婚約者の男が、報告にきた部下を怒鳴りつけていた。
「は、はい……。なんでも、奇跡の美容液を売り出し、ドワーフの地下帝国とも取引を始めたとか……。おまけに、非常に腕の立つ『最強の護衛』がついているらしく……」
「ええい、忌々しい! 私に捨てられた女が、辺境でのうのうと幸せに暮らすなど許されん! 貴族の面子に関わる!」
男の顔が、醜悪な嫉妬と悪意に歪む。
「……裏稼業のゴロツキどもを集めろ。ポポロ村の畑を焼き払い、あの女を力ずくで拉致してこい。泣いて私にすがるまで、徹底的に絶望させてやる!」
平穏で楽しいポポロ村のオタ活ライフに、どす黒い悪意の影が静かに、だが確実に忍び寄ろうとしていた。
だがこの時の愚かな元婚約者は、まだ知る由もなかった。
セシリアの隣に控えている『護衛』が、光と闇の二刀を操る最強のネフィリムであり、セシリアを傷つける者には世界を敵に回してでも報復を行う『極重の狂犬』に育ち上がっているということを――。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
「キッドくん、完全にセシリアの所有物の顔してる!」
「ヒロインのオタクフィルターが分厚すぎて、独占欲に気づかないの最高ww」
「元婚約者、死に急ぎすぎ(合掌)」
と少しでも楽しんでいただけましたら、
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皆様からの評価と 【ブックマーク】 が、セシリアの商会の売り上げとなり、作者の執筆モチベーションを爆上げする最大のエネルギーになります!
次回、ついに元婚約者の魔の手がポポロ村に!
しかし、限界オタクのセシリアはただ守られるだけのヒロインじゃない!?
そして、キッドの『逆鱗』に触れた愚か者たちの運命は――!
胸熱&ざまぁへのカウントダウン、引き続きお楽しみください!




