ルナキンのドリンクバーと、狂犬が見つけた『たった一人の主』
ルナキンのドリンクバーと、狂犬が見つけた『たった一人の主』
タローマンでの熱狂的な『リアル着せ替えゲー(推し活)』を終えた私たちは、ポポロ村の中央通りにある伝説の24時間営業ファミレス『ルナミスキング』――通称『ルナキン』へとやってきていた。
カランコロン、と前世で死ぬほど聞いた入店音が鳴り響く。
内装は完全に日本のファミリーレストランだ。ソファー席に、メニュー表、そして奥には燦然と輝くドリンクバーの機械が設置されている。
異世界情緒ゼロだが、限界社畜だった私にとってはこの上なく落ち着く実家のような空間である。
「うわぁ……懐かしい。このドリンクバーのメロンソーダとカルピスを混ぜて飲む背徳感、前世ぶりだわ」
「……セシリア、さっきから本当に意味がわからねぇぞ。前世? メロンソーダ? なんだそれ」
新しく買った『漆黒の魔導タクティカルジャケット』をバッチリ着こなしたキッドくんが、訝しげに私を見ている。
ああ、顔がいい。ルナキンの暖色系の照明に照らされた推し(顔)の横顔が、まるで映画のワンシーンのようだ。尊さで視力が上がりそうである。
私たちは向かい合って席に座り、私は山盛りのフライドポテトとハンバーグを注文した。キッドくんには食べ盛りだからと、特大のロックバイソン・ステーキを頼んである。
「あわわわっ! ち、違います! 私が出したかったのはお水で、こんなに大量の山盛りみたらし団子じゃなくて……っ!」
ふと隣のボックス席から、半ベソをかいているような可愛らしい女の子の声が聞こえた。
見れば、ピンク色のジャージ(初心者マークの刺繍入り)に健康サンダルという、神々しさとは無縁の出で立ちをした美少女が、自前の『エンジェルすまーとふぉん』を両手でタップしながら慌てふためいている。
テーブルの上には、彼女の操作ミスで召喚されたらしき『みたらし団子』が、山のように積み上がっていた。
「あ、あの……大丈夫ですか?」
オタクたるもの、困っている美少女を見過ごすわけにはいかない。
私が声をかけると、彼女は涙目でこちらを振り返った。
「うぅ……見習い女神のリリスですぅ……。スマートフォンの操作を間違えちゃって……予算が、私のお給料が……っ」
「め、女神様!? 見習いとはいえ、神様なんですか!?」
「はいぃ……。でも、お団子こんなに食べきれません。どうしましょう……」
ポロポロと泣き出す見習い女神・リリスちゃん。
なんだこの小動物系の可愛さは。保護欲をそそられすぎる。ポポロ村、本当にどうなってるんだ。神様がその辺のファミレスに普通にいるぞ。
「泣かないでリリスちゃん! みたらし団子なら、私が一緒に食べてあげるから! ちょうど甘いものが欲しかったところなのよ」
「えっ! ほ、本当ですか……!?」
「もちろん! 限界社畜……じゃなくて、しがない村人のセシリアよ。あっ、お団子食べるなら、お茶が必要よね」
私は手持ちの陽薬草をすり潰し、【至高のコスメ錬金】をサクッと発動させた。
「脂肪燃焼効果と血糖値の急上昇を抑える、特製・陽薬草ハーブティーよ! これならお団子をいくら食べてもカロリーゼロ(※気分的に)だから!」
「わぁぁっ! セシリアさん、天使ですか!? ありがとうございますぅぅっ!」
すっかり意気投合した私とリリスちゃんは、テーブルをくっつけて一緒にお茶会を始めた。
推し(顔)の美少年を眺めながら、美少女の女神様とお茶を飲む。
前世の過酷な労働環境が嘘のような、ストレスフリーの極致だ。
「それでね、セシリアさん。うちの上司のルチアナ様が、また私の予算を勝手に……」
「わかるわ! 上司の無茶振りって理不尽よね! 私なんて前世で……」
女子トーク(?)に花を咲かせる私とリリスちゃん。
その向かいの席で、キッドはもくもくとロックバイソンのステーキを切り分けながら、楽しそうに笑うセシリアの姿を静かに見つめていた。
◇◇◇
【キッド視点】
(……本当に、変な女だ)
キッドは、グラスの中で氷が溶ける音を聞きながら、目の前で女神と一緒にみたらし団子を頬張るセシリアを見つめていた。
キッド・ジーニアスのこれまでの16年間は、決して子供らしいものではなかった。
天使族の母親と、魔族の父親。両国から「世界を乱すイレギュラー」として処刑された両親の血を引く自分は、生まれながらにして大罪人だった。
物心ついた頃から、周囲に向けられるのは恐怖、嫌悪、あるいは殺意。
そんなキッドを保護(という名の軟禁)したのが、大陸屈指の大企業・ゴルド商会のオロチ会長だった。
オロチはキッドに最高の武具と環境を与え、徹底的な英才教育を施した。だが、そこに『愛情』は微塵もなかった。
オロチにとってキッドは「珍しいネフィリムの実験体」であり、将来の護衛か暗殺者として使い潰すための「レアな駒」でしかなかったのだ。
『俺は誰にも期待しないし、誰も信じない。光の剣も、闇の剣も、俺が生き延びるためのただの道具だ』
そう思って生きてきた。
誰も自分のことなど、本当の意味で見てはくれないのだと。
だが、あのあぜ道で倒れていた日。
この『セシリア』と名乗る女は、泥だらけの自分を見つけるなり「推し!」と叫んで抱き起こし、自分の大切な回復薬(美容液らしいが)を惜しげもなく使い切った。
禁忌であるはずの白銀と漆黒の羽を、震えることもなく「美しい」「国宝だ」と撫で回し、ピカピカに手入れしてくれた。
タローマンで服を選ぶ時もそうだ。
オロチが買い与えていた服は『戦闘の機能性』だけを求めたものだったが、セシリアは違った。
『キッドくんが一番かっこよく見える服』『キッドくんが動きやすい服』。
ただそれだけのために、自分の稼いだ金(錬金術の売り上げ)を湯水のように使い、自分が世界で一番幸せそうな顔をして笑っていたのだ。
(……この人は、俺に見返りなんて求めていない)
オロチのように力も求めていないし、他の奴らのようにネフィリムの血も恐れない。
ただ、俺が元気になって、良い服を着て、美味しいものを食べているのを見るだけで、「尊い」と意味不明な言葉を口にして喜んでいる。
『キッドくん、いっぱい食べて、早く大きくなってね』
先ほど、自分に向けられたその言葉が、胸の奥でじんわりと熱を帯びて蘇る。
誰かに無条件で肯定されること。
自分の存在を、ただ「そこにいていい」と許容されること。
それがこれほどまでに心地よく、そして……ひどく恐ろしいことだとは知らなかった。
(俺は、この人の『推し』ってやつらしいが……)
キッドは、テーブルの下でギュッと拳を握りしめた。
彼女は俺を「月人くんそっくり」と言った。その『ツキト』というのが誰なのかは知らない。おそらく、彼女の故郷の人間か、昔の恋人なのだろう。
今はただの、身代わり(推し)なのかもしれない。
けれど。
それでもいいと、キッドの魂が、ネフィリムの血が、熱く脈打っていた。
光の神気も、闇の魔気も、すべてはこの瞬間のためにあったのだと、彼の中の何かがハッキリと告げている。
孤独な狂犬は、生涯でただ一人、首輪を預けてもいいと思える『主』を、このポポロ村で見つけてしまったのだ。
(俺の命も、この二振りの剣も……すべて、あんたに捧げる)
誰にも気づかれないよう、キッドは心の中で密かに誓いを立てた。
この笑顔を守るためなら、俺は勇者にでも、魔王にでもなってやる。
彼女に仇なす者がいるのなら、たとえ世界が相手でも、すべてを切り裂いてみせる。
「あっ、そうだ! キッドくん、ステーキのお味はどう? 足りなかったらハンバーグも食べる?」
不意にセシリアが振り返り、輝くような笑顔を向けてきた。
キッドは咄嗟に表情を引き締め、そっぽを向いた。
「別に……足りてる。あんたこそ、そんなに甘いもん食ってたら太るぞ」
「ぐはっ……! 推しからの手厳しい一言……! でもそれすらご褒美……ッ!」
「……本当に、意味がわからねぇ」
呆れたようにため息をつきながらも、キッドの口元には、彼自身すら気づいていない、ひどく甘く、熱を帯びた笑みが浮かんでいた。
それは忠犬の誓いであると同時に、やがて彼女のすべてを絡め取る、極大の『執着』の始まりだった。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
「リリスちゃんポンコツ可愛いww」
「キッドくん視点キターー!」
「身代わりでもいいから守りたいって……激重感情の芽生え最高!」
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皆様からの評価と 【ブックマーク】 が、セシリアのオタ活の資金源となり、作者の執筆モチベーションを限界突破させます!
次回、セシリアの口からこぼれた『ツキト』の名。
「俺は、身代わりなのか……?」
キッドの心に芽生えた誓いは、やがてドス黒い『嫉妬』と『独占欲』へと変わっていく――!?
胸キュン必至の第6話、引き続きお楽しみください!




