最強のヤンキー聖獣、降臨。今日から私が「姐さん」ですか!?
最強のヤンキー聖獣、降臨。今日から私が「姐さん」ですか!?
「あの……そこのヤンキーのお兄さん。お肌、すっごく乾燥してますよ? ほうれい線の原因になりますよ?」
私がズンズンと歩み寄っていくと、黄金のリーゼントをビシッと決めたヤンキー男は、ポカンと口を開けた。
「バカッ、やめろセシリア! 近づくな!」
背後からキッドくんの悲痛な叫び声が響く。
「そいつは第6の聖獣、次元超越者『麒麟』だぞ! 本気で殴られたら、山が一つ消し飛ぶんだ! 一般人が声かけていい相手じゃねぇ!」
「えっ、聖獣様なの?」
私はピタリと足を止めた。
マジか。昭和のヤンキー漫画から飛び出してきたような見た目だけど、神様クラスの存在だったのか。便所サンダル履いてるのに。
私が絶句していると、男――次元超越者であるリキ兄貴は、フッと鼻で笑い、周囲の空気を震わせるほどの圧倒的なプレッシャー(神気)を放った。
「カカッ! キッドの言う通りやで、嬢ちゃん。ワシに気安く声かけたら、火傷じゃ済まされ――」
「聖獣様なら、なおさらスキンケアは大事です!!」
「……あぁん?」
凄まじい神気。並の人間なら白目を剥いて気絶するレベルの威圧感らしいが、限界社畜として『絶対に終わらない納期の徹夜明けに、役員から呼び出されて理不尽なダメ出しをされるプレッシャー』を経験してきた私にとって、ヤンキーの威圧などそよ風に等しかった。
神気? 納期に比べれば屁でもない。
私は持っていた麻袋の中から、ポポロ村名物の『太陽芋』をゴソゴソと取り出した。
「スキル発動! 【至高のコスメ錬金】!!」
両手から光が溢れ、芋が瞬時に形を変えていく。
太陽芋の持つ強烈な保水成分と、陽薬草の回復成分を融合。さらにオヤジ臭……いや、大人の男性特有の皮脂バランスを整える爽やかなミントの香りをブレンドする。
一瞬にして、無骨な黒いボトルの『太陽芋エキス配合・男の極潤オールインワンジェル』が完成した。
「ほら、これ使ってください! 洗顔後、適量を手に取って顔全体に馴染ませるだけです! アフターシェーブローションとしても使えますから!」
「……は?」
私は強引に、リキ兄貴の大きな手のひらにジェルをプッシュした。
リキ兄貴は戸惑ったように手元の透明なジェルを見つめ、それからゆっくりと自分の頬に塗り広げた。
「……ッ!?」
その瞬間、リキ兄貴の鋭い目が大きく見開かれた。
「な、なんやこれ……! 肌が、肌がゴクゴクと水分を飲んどるみたいや……! ポマードでガチガチに固めた生え際の突っ張りも消えて、信じられんくらいモッチモチになっとるやないけ!!」
ヤンキー聖獣の頬が、ぷるんと赤ちゃんのように弾んだ。
驚愕するリキ兄貴に、私はドヤ顔で頷く。
「でしょう? お兄さんのようにバイクで風を切り裂くお仕事(?)をしていると、排気ガスや紫外線で肌のバリア機能がボロボロになっちゃうんです。強い男ほど、スキンケアには気を使わないと!」
「……カカッ! カカカカカッ!」
リキ兄貴は突然、腹を抱えて豪快に笑い出した。
その声だけでビリビリと空気が震え、周囲の草木が揺れる。キッドくんは「マズい、キレたか!?」と剣を構え直したが、リキ兄貴の顔に怒りは微塵もなかった。
「ええ女やないけ! 気に入ったわ!」
リキ兄貴はニカッと白い歯を見せ、私に向かって親指を立てた。
「ワシは陸奥騎麟。『リキ』でええ。こいつ――キッドの喧嘩の師匠みたいなもんや。お嬢ちゃん、ワシの可愛い弟分を助けてくれてありがとよ」
「あ、いえ! 限界オタクとして、推しを愛でるのは当然の義務ですので!」
「オタク……? まぁええわ。今日からワシのことは『兄貴』と呼べ! 遠慮はいらんで!」
「本当ですか!? ありがとうございます、リキ兄貴!」
まさかの、第6の聖獣とマブダチになってしまった。
コミュ力(とコスメの力)の勝利である。
リキ兄貴はタバコの煙をふぅと吐き出しながら、ポカンとしているキッドくんの背中をバァン! と勢いよく叩いた。
「痛ぇっ!? 何すんだよ!」
「キッド、お前には勿体ねぇぐらいの極上の『姐さん』やぞ。こんないい女、しっかり捕まえとけや!」
「ねっ、姐さん!? だ、だからそういうんじゃねぇって言ってんだろッ! 俺とこの人は今会ったばっかりで……っ!」
耳の先まで真っ赤にしてキレる美少年。
うわぁ……ツンデレが限界突破している。推し顔の美少年が、私のために照れて照れて照れまくっている。この光景だけで寿命が十年延びた気がする。尊い。ここは天国か? いや、ポポロ村だ。ポポロ村最高。
「まぁええわ。ちょうど腹も減っとったし、三人で飯にするで」
リキ兄貴はそう言うと、持っていたエンジェルすまーとふぉんを操作し、空間の裂け目から巨大な紙袋を取り出した。
袋には、見覚えのあるロゴがプリントされている。
「おっ、それは!」
「おう。ポポロ村のルナミスキング――通称『ルナキン』の特大テイクアウトセットや。ワシのおごりやで。キッドも腹減っとるやろ?」
「ルナキン! 私、一度食べてみたかったんです!」
私は歓声を上げた。限界社畜時代、深夜のファミレスには大変お世話になったものだが、異世界のファミレスはどんな味がするのだろうか。
私たちはあぜ道に座り込み、三人でハンバーガーを囲んだ。
リキ兄貴が手渡してくれた『ルナミスバーガー特大セット』は、顔の半分ほどもある巨大なバンズに、分厚い肉とシャキシャキのレタスが挟まっている。
「いただきます!」
一口かじると、肉汁がジュワッと溢れ出し、特製ソースの酸味と甘味が口いっぱいに広がった。美味しい! 前世のチェーン店とは比べ物にならないレベルだ。
ふと横を見ると、キッドくんもハンバーガーに勢いよくかぶりついていた。
さっきまで私に警戒心剥き出しでツンケンしていたのに、今は両手でハンバーガーを持ってモグモグと頬張っている。頬にソースがちょっと付いている。
(か、可愛い……ッ! 推しのモグモグタイム! 咀嚼音がBGMになる! 無限に見れる!!)
私の視線に気づいたキッドくんは、びくっと肩を揺らし、慌てて口元を拭った。
「な、なんだよ。人の顔ジロジロ見て……」
「ううん。キッドくん、美味しそうに食べるなぁと思って。いっぱい食べて、早く大きくなってね」
「俺はもう大人だ! 16歳だぞ!」
ふいっとそっぽを向くキッドくん。だが、その耳はまだ少しだけ赤い。
ネフィリムという禁忌の血を持ち、常に孤独と恐怖の中にいたはずの少年。
その彼が、ヤンキー聖獣と、見ず知らずの村人と一緒に、のどかな村であぜ道に座ってハンバーガーを食べている。
(……この人、本当に変な女だ)
キッドはハンバーガーを飲み込みながら、隣で嬉しそうに自分を見つめるセシリアの横顔を盗み見た。
自分を迫害するどころか、ボロボロの羽を美しく手入れし、さらには神格であるリキ兄貴にまで物怖じせず説教をする。
彼女の行動原理はまったく理解できないが、向けられる瞳には、底なしの優しさと熱があった。
『しっかり捕まえとけや』
リキ兄貴の言葉が、キッドの脳裏にチカチカと点滅する。
心臓が、柄にもなく早鐘を打っていた。
「……まぁ、美容液は、助かった。ありがとな」
「えっ!? 今なんて!?」
「二度も言わねぇよ! バーカ!!」
キッドくんは真っ赤な顔でハンバーガーに食らいついた。
追放された辺境の村。
まさかここが、推し(顔)のネフィリムと、最強のヤンキー聖獣に見守られる、ストレスフリーな楽園の入り口だったなんて。
私の限界オタクとしての第二の人生は、これ以上ないほど最高のスタートを切ったのだった。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
「納期に比べたら神の威圧などそよ風ww」
「リキ兄貴、めっちゃ良い人(神)やん!」
「キッドくん、完全に胃袋も心も掴まれてる!」
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次回、ついにタローマートで推しの着せ替え!? ポポロ村の自警団長マンミアさんも登場し、セシリアのオタ活はさらに加速します!
引き続き、極上の溺愛(予定)に向けて外堀を埋められていくセシリアの物語をお楽しみください!




