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溺愛ハッピーエンドが欲しくて頑張ったのに、なぜか彼氏はヤンデレ化した  作者: ChaCha


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乙女ゲーム

席に着いても、しばらくは誰も口を開かなかった。


カフェの個室は外の喧騒から切り離されたように静かで、

陶器のカップから立つ湯気だけが、ゆっくりと揺れている。


アイナは何度も深呼吸を繰り返していた。

指先が、かすかに震えている。


「……こんな話をすると」


ようやく、声が落ちた。


「頭がおかしいと思われるかもしれないんですけど……」


カレンは、何も言わずに頷いた。

否定も、促しもしない。ただ、聞く姿勢だけを示す。


アイナは唇を噛みしめ、一度目を伏せてから、顔を上げた。


「私には……前世の記憶があります」


胸の奥が、ひやりと冷えた。


それでも、驚きの声は出なかった。

出せなかった、という方が正しい。


「前世で……私は」


言葉を探すように、視線が宙を彷徨う。


「魔導書……みたいなものを、知っていました」


カレンの指先が、きゅっとカップを掴む。


「選択肢を選ぶように、人の行動や、関係が……進んでいく世界で」


アイナの声は、少しずつ確信を帯びていく。


「私たちが今いる、この世界のことが……そこに、書かれていたんです」


カレンの喉が、鳴った。


(……やっぱり)


逃げ場のない予感が、現実に変わっていく。


アイナは、覚悟を決めたように続けた。


「タイトルは……」


一瞬の、ためらい。


「花咲く……」


カレンは、思わず口を開いていた。


「花咲くマジカル学園」


言葉が、重なった。


アイナが、はっと顔を上げる。

目を見開き、カレンを見つめる。


「……カレンさん……?」


声が、震えた。


カレンは、もう隠すことができなかった。


唇が震え、視界が滲む。


「……知ってる」


小さく、でもはっきりと。


「私も……前世の記憶がある」


静寂が落ちた。


カフェの個室が、ひどく狭く感じられる。


アイナの目に、涙が浮かぶ。


「……じゃあ……」


「……うん」


短い肯定。


アイナは、息を吸い込み、吐き出した。


「……カレンさんは……ベルンハルト君を、選んだんだと……思ってました」


その言葉に、胸が痛んだ。


否定したいのに、否定できない。


「……選んだよ」


カレンは、正直に答えた。


「今も……好き」


声が、かすれる。


「でも……」


言葉が、続かない。


アイナは、ぎゅっと両手を握りしめた。


「……隠し、要素があるんです」


静かに、でも重く。


「ランダムで現れて、回数を重ねると……強制的に、流れが変わる存在」


カレンの背筋が、凍りついた。


「……レオン君、ですよね」


アイナは、目を伏せたまま頷いた。


「彼は……“普通の攻略対象”じゃありません」


カレンは、思い出していた。


拒否しても、通じなかった言葉。

近づくたびに、狭まる距離。

逃げようとすると、別の形で塞がれる道。


「……5回」


アイナの声が、震える。


「5回、出会ってしまうと……」


カレンの唇が、白くなる。


「……ルートに、入ります」


沈黙。


長く、重い沈黙。


カレンは、両手で顔を覆った。


「……知らなかった」


掠れた声。


「踏むつもりなんて……なかった」


アイナは、首を横に振った。


「カレンさんのせいじゃないです」


きっぱりと。


「彼は……踏ませに来るんです」


カレンの胸に、遅れて恐怖が広がった。


(……だから、あんなに……)


アイナは、真っ直ぐカレンを見た。


「だから……一人で抱えないでください」


小さな、必死な声。


「これは……ゲームの知識がないと、対処できない」


カレンの目から、涙がこぼれた。


「……ありがとう」


震える声で。


「話してくれて……助かった」


アイナは、ようやく少しだけ笑った。


「……私も」


そして、静かに付け加える。


「……ベルンハルト君のこと、まだ……間に合うかは……」


その先は、言わなかった。


言えなかった。


二人は、黙ってカップに手を伸ばす。


ぬるくなった紅茶が、現実の重さを教えてくれていた。



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