逃げ道が、予定で塞がれる
夕方の学園。
図書館の扉を出ると、昼の熱を残した空気がゆっくりと冷えていく。
石畳に伸びる影が、三人分、少しだけ歪んで重なっていた。
馬車乗り場は、もうすぐだ。
(……やっと、帰れる)
そう思った瞬間だった。
「明日は、カレンの家で過ごすから。逃げるなよ?」
軽い声。
冗談めいた調子。
けれど、内容は一切、軽くない。
カレンは思わず足を止めた。
「待って! その日は……ベルンとデートなんです!」
言い切る。
はっきりと。
逃げずに。
だが――
「じゃあ、一緒にデートしよう」
即答だった。
「ちがっ――」
言葉を遮るように、レオンは肩をすくめる。
「俺の家から、ベルガモット家へ手紙を送っておく。
“礼の続き”って書けば、失礼じゃないだろ?」
喉が、きゅっと鳴った。
(……話が、通じない)
理屈でも、拒否でもない。
最初から、こちらの選択肢を想定していない声音。
ベルンハルトが一歩前に出ようとした、その瞬間。
レオンが、ほんの一歩、カレンに近づいた。
近い。
息の距離。
指先で、カレンの髪をすくい上げる。
絹糸のように落ちる桃色を、確かめるように。
そして――
髪に、軽く、口付けを落とした。
一瞬。
時間が止まったように感じた。
「じゃあ、また明日な」
ひらり、と掌を振る。
まるで、何事もなかったかのように。
レオンはそのまま踵を返し、夕暮れの中へ歩いていった。




