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溺愛ハッピーエンドが欲しくて頑張ったのに、なぜか彼氏はヤンデレ化した  作者: ChaCha


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俺を見ろ

イライラしている、と自覚した瞬間にはもう遅かった。


胸の奥で、じわりと熱が滲む。

不快ではない。

ただ、思い通りにならないという一点だけが、やけに引っかかる。


(……俺を、見ろ)


それは命令でも、願いでもなく。

ただの衝動に近い感情だった。


ベルンハルトの隣で、彼女が笑う。

何気ない仕草で、何の疑いもなく。

あれほど柔らかい表情を、俺に向けたことは一度もない。


――当たり前だ。

そう思っていたはずだった。


今まで、俺を無視した女などいない。

肩書きも、立場も、言葉も。

どれか一つを差し出せば、皆こちらを見る。


だから最初は、気にも留めていなかった。

街ですれ違った時も、カフェで見かけた時も。

「ベルンハルトの連れ」

その程度の認識だった。


変わったのは、避暑地だ。


夏の光を受けた肌。

薄布越しでも分かる輪郭。

風に揺れる髪と、無防備な横顔。


(……ああ)


美しい、と思った。

それだけなら、今までと変わらない。


だが。


彼女は俺を見なかった。

正確には――

“見て、通り過ぎた”。


興味も警戒もなく、ただ視界に入っただけの存在として。

その視線が、妙に胸に残った。


街で、再び瞳が合った時。

ほんの一瞬。

確かに、彼女は俺を見た。


それだけで、何かが鳴った。


カチリ、と。

歯車が噛み合うような音が鳴った。


(……なら)


なら、俺をもっと知るべきだろう。

俺という存在を、正しく認識するべきだ。


それは奪いたい、という欲ではない。

今はまだ。


ただ、確かめたい。

彼女がどこまで無自覚なのか。

どこまで、ベルンハルトだけを見ているのか。


観劇の席で、腕を回した時。

逃げようとした、その微細な反応。


恐怖。

困惑。

それでも、嫌悪ではなかった。


(……面白い)


拒絶されることに、腹が立つのではない。

拒絶の理由が、俺ではないことが、気に食わない。


ベルンハルト。

あの男の名が、何度も頭をよぎる。


――奪う?

違う。


俺はただ、

彼女が俺を見る世界を、作りたいだけだ。


彼女が選ぶかどうかは、その後でいい。


だから今は。


「俺を見ろ」


それだけで、十分だった。



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