断れない来客
午後の光が、応接室の床に長く差し込んでいた。
扉は、閉められていない。
半開きではなく、開いたまま。
その判断をしたのは、ベルガモット家だった。
相手は隣国の公爵家。
断るという選択肢が、最初から存在しない。
カレンは、背筋を伸ばしてソファに座っていた。
少し離れた位置に、メイドが控えている。
(……どうして)
胸の奥で、違和感が膨らむ。
ベルンハルトでさえ、
まだ一度も家に招いたことがない。
それなのに。
「良い家だな」
軽い調子で、レオンが言った。
視線は部屋を一周して、
最後に、カレンへ戻る。
「お礼を考えてみたんだ」
「……お礼?」
カレンは、言葉を選びながら答えた。
「無理難題には、応えられません」
はっきりと言ったつもりだった。
けれど。
「じゃあ、ベルガモット家に求めるかな」
さらりと、そう返される。
「待ってください!」
思わず、声が大きくなった。
レオンが、動きを止める。
ゆっくりと、
じっと――カレンを見た。
視線が、絡む。
「……俺を見たな?」
「え?」
意味が、わからない。
「いえ、見たというか……今、話して――」
「見た」
言い切られる。
カレンの喉が、ひくりと鳴った。
(……なに、この人)
「じゃあ、まずは観劇でも見に行くか」
「どうして!?」
反射的に問い返す。
「誠意が足りないからだ」
淡々とした声。
「お礼は、ひとつでは済まないな」
話が、噛み合わない。
いや、最初から――噛み合わせる気がない。
空気が、じわじわと圧迫してくる。
(止めないと)
「……そんな勝手な――」
「じゃあ、行こうか」
言葉を遮られた。
「今から!?」
「ここで待ってる」
そう言って、レオンはソファに腰を下ろす。
「急げよ?」
笑っているのに、
目が、笑っていない。
カレンは、立ち上がるしかなかった。
背中に、視線を感じながら。
(……早く)
胸の奥で、
ベルンハルトの顔が浮かぶ。
(早く、戻らなきゃ)
理由のわからないまま、
カレンは廊下へと向かった。
扉は、
最後まで――閉められないまま。




