ただいまの余韻
「ただいま!」
玄関に響いた声に、家の中の空気がふっと緩んだ。
両親が顔を出し、無事の帰宅にほっとしたように微笑む。
「おかえり。楽しかった?」
「うん。すごく」
短い答えなのに、胸の奥があたたかい。
包みを差し出すと、母が目を細めた。
「お土産?まあ、ありがとう」
「ベルンハルトと一緒に選んだの」
その名前を口にしただけで、頬が少し熱くなる。
視線を逸らしたのを、たぶん誰にも気づかれていない……はず。
荷物はメイドが手際よく運んでいき、
私はそのまま自室へ向かった。
まずは、お風呂。
湯気に包まれながら、肩まで浸かる。
はあ、と息を吐いた瞬間、緊張が一気にほどけた。
(楽しかったな……)
夜景。
レストラン。
湖畔の風。
並んで歩いた距離。
そして――
(……キス)
思い出した途端、湯船の中で思わず足をばしゃっと動かしてしまう。
「~~~~っ!」
誰もいないのをいいことに、湯気の中で一人悶える。
息遣い。
触れた温度。
あの一瞬の近さ。
(だめだ、思い出すと止まらない……)
のぼせそうになりながら、慌てて立ち上がった。
髪を乾かして、部屋着に着替える。
そして――机の引き出しから、例のノートを取り出した。
攻略ノート。
ぱらり、とページをめくり、今日の日付の欄にペンを走らせる。
・避暑地
・夜景の見えるレストラン
・湖畔
・初めての――
そこで、ペンが止まる。
「……キス」
書いた瞬間。
「っ!!」
自分で書いた文字に耐えきれず、ノートをぱたんと閉じる。
顔が、熱い。
耳まで熱い。
(なに書いてるの私……!)
ベッドにごろりと倒れ込み、枕を抱きしめる。
にやける。
恥ずかしい。
(でも……)
天井を見上げて、深呼吸。
楽しかった。
嬉しかった。
ちゃんと、大切にされているって感じた。
(次のデート……いつかな)
考えただけで、胸が弾む。
ベルンハルトの声。
視線。
手の温度。
また会える。
また、一緒に笑える。
「……楽しみ」
ぽつりと呟いて、目を閉じた。




