乾いた鈴の音
湖畔に寄り添うように建つレストランは、白い壁と大きな窓が印象的だった。
水面のきらめきが反射して、室内まで柔らかな光が流れ込む。
席に着くと、カレンは窓の外を見て、ふうっと小さく息を吐いた。
「……帰りたくないな」
言葉は軽いのに、どこか名残惜しさがにじむ。
ベルンハルトはその横顔を見つめ、グラスを置いた。
「また来ればいい」
「うん。……でも、今日が終わっちゃうのが、ちょっとだけ」
料理が運ばれ、湯気の向こうでカレンが笑う。
その笑顔を見るたび、ベルンハルトの胸の奥が静かに温まった。
食後、湖畔の道を抜けて土産物屋へ向かう。
木の扉が開くと、乾いた鈴の音が鳴った。
棚には、湖を模したガラス細工や、木彫りの小さな動物たち。
カレンは目を輝かせて、あれこれ手に取る。
「これ、可愛い……あ、こっちも」
「迷うなら、両方にすればいい」
「え、だめだよ。そんな……」
言いつつも、嬉しそうに笑う。
ベルンハルトは会計に向かい、いくつかを包んでもらい、屋敷宛てに発送の指示を出した。
その背後で――
カラン、と鈴が鳴る。
「……あれ? 可愛子ちゃんだ」
聞き覚えのある、軽い声。
振り向くと、そこに立っていたのはレオンだった。
カレンは一瞬きょとんとし、それから丁寧に頭を下げる。
「こんにちは」
「レオン。可愛子ちゃんの名前は?」
「カレンです」
名乗ると、レオンは面白そうに目を細めた。
「へぇ。で、ベルンハルトも一緒?」
その瞬間、店の奥から足音がして、ベルンハルトが戻ってくる。
視線がレオンを捉え、空気がわずかに張り詰めた。
「……何か用か」
低く、静かな声。
レオンは肩をすくめ、にやりと笑った。
「いやいや、偶然。相変わらずだな」
ベルンハルトはそれ以上言葉を足さず、カレンの隣に立つ。
距離は近い。自然と、守る位置。
「おー、こわ。じゃあまた学園でな! カレン」
軽い調子で手を振り、レオンは店を出ていった。
鈴の音が遠ざかり、残ったのは湖の匂いと、静かな余韻。
「……びっくりしたね」
カレンがそう言うと、ベルンハルトは小さく頷いた。
「気にするな」
そう言って、そっと視線を落とす。
カレンが手にしていた土産袋を、彼が自然に受け取った。
「ありがとう」
「帰り道、落とすといけない」
短い言葉。でも、その仕草はいつもより少しだけ近い。
店を出ると、湖面に風が走り、光が揺れた。
カレンは袋を抱え直し、ベルンハルトを見上げる。
「……帰りたくない、って言ったけど」
「うん」
「でも、こうして一緒に帰れるなら……それも、悪くないね」
ベルンハルトは一瞬だけ目を細め、歩調を合わせた。




