湖畔デート
湖畔に立つと、空気がひとつ深呼吸したように澄んだ。
朝の光はやわらかく、木々の葉先で砕けて、水面へ落ちる。小さな波がきらきらと跳ね、遠くで水鳥が羽を整える音がした。
「わー! 鴨の親子が可愛い!」
カレンは思わず声を弾ませ、桟橋の先まで小走りになる。
澄んだ湖には魚の影がすっと走り、指先を浸すと、ひんやりとした感触が夏の熱をさらっていった。
「落ちないように」
ベルンハルトは自然に距離を詰め、彼女の背に影を重ねる。
カレンが振り返ると、視線が合う。
互いに微笑み、言葉がなくても通じる安心がそこにあった。
「あっ! 湖の真ん中に小島がある」
「行くか?」
「いいの?」
短いやり取りのあと、二人はボートに乗り込む。
水を切る音が一定のリズムを刻み、岸がゆっくり遠ざかる。
カレンは湖面に映る空を眺め、ベルンハルトは彼女の横顔を盗み見る。
風が髪を揺らし、光が頬に遊ぶ。
小島の船着場に着くと、木陰は涼しく、足元の草が柔らかく鳴った。
散策の途中、ベルンハルトは後ろからそっと抱き寄せる。
体温が伝わり、首筋に静かなぬくもりが落ちる。
「……溺愛されてるって感じます」
照れた声に、彼は小さく笑った。
「それなら、よかった」
カレンは身を預けたまま、深く息を吸う。
森の匂い、湖の冷たさ、彼の存在。
全部が重なって、胸が満たされていく。
くるりと向き直り、今度は彼女から抱きついた。
「本当に嬉しい!」
腕の中で、彼女の鼓動が伝わる。
ベルンハルトは受け止めるように背に手を回し、視線を下げた。
「綺麗ですね。来年も、また一緒に来たいな」
そう言って、カレンはちらりと彼を見上げ、指先で小さく手招きする。
唇を重ねたいのかな、とベルンハルトが思ったその瞬間、
カレンは彼の耳元へ身を寄せ、甘く、軽く
――いたずらのように触れた。
小さな驚きが、胸の奥で弾ける。
「今、私がしたので……
次はベルンの番ということで!
楽しみにしてます」
彼女は一歩下がり、悪戯っぽく笑う。
ベルンハルトは一瞬言葉を失い、それから静かに息を整えた。
視線が絡み、時間がほどける。
「……覚えておく」
低く、確かな声で答える。
湖面に風が走り、光の輪が広がった。
二人は並んで立ち、同じ景色を見つめる。
触れ合う距離は近く、約束は胸の奥で温度を持つ。
この場所は、来年も、きっと――。




