この笑顔が消えないように
夏の光は、残酷だ。
何もかもを照らしすぎる。
隠しておきたいものまで、簡単に晒してしまう。
白い道。
揺れる木陰。
その真ん中を歩く彼女。
カレンは、今日もよく笑っている。
些細なことに目を輝かせ、
見慣れた街並みにさえ新鮮な感動を見つけて、
振り返っては俺を見る。
「ね、ベルン。あそこ」
名前を呼ばれるたび、胸の奥が温かくなる。
それと同時に、
――逃げ場のない熱が、ゆっくりと広がる。
薄着だ。
夏だから仕方がない。
分かっている。
分かっているが――
陶磁器のような肌に、陽の赤みが差している。
首筋。
肩。
腕を振るたび、柔らかく動くライン。
視線を外したつもりでも、
すぐに引き戻される。
(……危険だな)
自覚は、ある。
だが今日は、
抑える理由が見つからない。
カレンが笑う。
それだけで、
手を伸ばす理由になる。
気づけば、
彼女の腰に手を回していた。
意図的ではない。
考えたわけでもない。
ただ、
そこに在るものを確かめたかった。
「……?」
驚いた声。
けれど、離れない。
むしろ、わずかに身を寄せてくる。
その反応に、喉が鳴る。
(ああ)
彼女が笑う理由を、
守りたい。
それだけだ。
歩く距離が、自然と縮まる。
影が重なる。
人の気配が遠のいた瞬間、
俺は彼女の耳元に顔を寄せた。
「……心待ちにしていた」
息が、触れる。
カレンの肩が小さく跳ねる。
「……返さない日がきて、嬉しいよ」
冗談めかした声にしたつもりだった。
だが、内側はそうじゃない。
彼女の反応を、
逃さず受け止める。
頬が赤くなる。
視線が揺れる。
「……気に入ったか?」
囁くと、
彼女は両手で顔を覆った。
「~~~~~っ」
声にならない声。
思わず、笑ってしまう。
「はは」
からかうつもりはない。
ただ――
可愛すぎる。
夏風が吹き抜ける。
木々が揺れる。
その中で、
俺は自然に彼女を引き寄せていた。
腕の中。
近い体温。
(……離す理由が、見当たらない)
首筋に、汗が滲んでいる。
細い線を辿るように、
視線が落ちる。
触れたい。
確かめたい。
彼女が笑っている。
カレンは、
少し恥ずかしそうに、
それでも嬉しそうにこちらを見る。
「……ベルン」
呼ばれるだけで、
胸が満たされる。
(ああ)
この笑顔が消えないように。
他の何にも奪われないように。
気づけば、
手はもう一度、
彼女の腰を引き寄せていた。




