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溺愛ハッピーエンドが欲しくて頑張ったのに、なぜか彼氏はヤンデレ化した  作者: ChaCha


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夏季休暇の予定

夏季休暇を告げる鐘は、思っていたよりも軽やかだった。


教室の空気が一段ゆるみ、誰かが予定の話を始めるたびに、胸の奥がちくりとする。

楽しみなはずなのに、どこか落ち着かない。


(……あれ?)


気づいてしまった瞬間、逃げ場はなかった。


――私、いつも誘ってる。


街の散策も、観劇も、ピクニックも。

思い返せば、きっかけは全部、私の言葉だった。


もちろん、ベルンハルトはいつも応じてくれた。

嫌な顔なんて一度もせず、むしろ丁寧に、真剣に、私との時間を受け取ってくれる。


それでも。


(……ちょっと、寂しいかも)


自分で思って、苦笑する。

贅沢だって分かってる。

溺愛だって、ちゃんと感じてる。


でも――

“ベルンハルトから”の言葉が、欲しかった。


馬車に並んで座りながら、私は何度も迷った。

言っていいのか。

重くならないか。


でも、夏の光は眩しくて、隠し事ができるほど優しくなかった。


「……ねえ、ベルン」


呼ぶと、すぐに視線が向く。

その反応だけで、胸が少しあたたかくなるのが悔しい。


「夏季休暇、予定あるの?」


「いや。特には」


即答だった。


(……やっぱり)


期待と不安が、同時に膨らむ。


私は、指先を膝の上で組み直してから、息を吸った。


「……あのね」


声が、ほんの少しだけ小さくなる。


「私……ベルンから、デートに誘われたこと、ないなって」


言った瞬間、心臓が跳ねる。


「いつも私ばっかり提案してて……それが嫌なわけじゃないんだけど」


視線を逸らす。


「でも……ちょっとだけ、寂しい」


沈黙。


短いはずなのに、長く感じた。


(言っちゃった……)


後悔しかけた、その時。


「……そうか」


ベルンハルトの声は、静かだった。

でも、冷たくはない。


私は恐る恐る顔を上げる。


彼は、私を見ていた。

いつもより、少し深い目で。


「気づかなかった」


正直な声音。


「君が楽しそうだったから」


胸が、きゅっとする。


「次は俺から誘う。嫌なら、断っていい」


その瞬間。


私は、思わず笑ってしまった。


「断らないよ!」


ぱっと、彼の手を握り返す。

自分でも驚くほど、迷いがなかった。


「だって……ベルンが誘ってくれたんだもん」


言い切ると、胸の奥がすっと軽くなる。


ベルンハルトは、一瞬だけ目を見開き――

それから、ゆっくりと細めた。


「……そうか」


喉が、かすかに鳴る。


(ああ)


その音だけで、何かが変わったと分かる。


彼の指先が、私の手の甲をなぞる。

確かめるように。

逃がさないように。


「じゃあ」


低く、穏やかな声。


「楽しみにしていてくれ」


距離が、自然に近づく。


「君が、逃げたくならないくらいには」


悪戯っぽい響き。


それなのに、胸の奥が、ぞくりとした。


「……なにそれ」


「秘密だ」


そう言って、彼は微笑む。


優しくて、甘くて――

でも、その奥に、確かな“次”が滲んでいる。


でも、不思議と怖くなかった。


むしろ。


握られた手の温度が、心地よくて。


「……楽しみに、してるね」


そう言うと、彼はほんの一瞬、満足そうに息を吐いた。



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