夕暮れの帰り道
ピクニックの帰り道は、行きよりも静かだった。
夕暮れの空気はやわらかく、風が草の匂いを連れてくる。
カレンは歩きながら、何度も思い返しては照れていた。
(……膝枕……)
思い出すたび、顔が熱くなる。
思わず両手で頬を覆い、すぐに我に返ってベルンハルトをちらりと見る。
彼は前を向いたまま、歩幅を自然に合わせてくれている。
(……見られてないよね)
そう思った瞬間、また思い出す。
耳元に近づいたときの自分の声。
言葉にした「大好き」。
顳かみに触れた、あの一瞬の温度。
「~~~っ……」
小さく声が漏れ、慌てて口を押さえる。
今度は肩まで熱くなってきた。
そんな様子を、ベルンハルトは見ていた。
横目で、しかし露骨にならないように。
(……忙しいな)
くす、と笑いそうになるのを堪える。
彼女は感情が表に出やすい。
隠しているつもりでも、仕草も、歩調も、すべてが語ってしまう。
歩く距離が、いつの間にか近くなっていた。
肩と肩が、ほんの少し触れるか触れないか。
避ける理由はない。
だから、そのままにする。
カレンはまた思い出して、今度は首元まで赤くなる。
視線を泳がせてから、意を決したようにベルンハルトを見上げた。
「……さっきの、変じゃなかった?」
不安と期待が混じった声。
ベルンハルトは足を止めないまま、穏やかに答える。
「変じゃない」
即答だった。
「……可愛かった」
たったそれだけ。
けれど、カレンの思考は一瞬で停止する。
「――――っ!!」
完全に言葉を失い、また顔を覆う。
歩きながら、もはや忙しすぎる。
ベルンハルトはそんな彼女を見て、優しく目を細めた。
支配でも、誇示でもない。
ただ、彼女が隣にいることが、当たり前になっていく感覚。
(……近いな)
そう思うのに、離れたいとは思わない。
むしろ、この距離が自然だと感じている自分に気づいて、胸の奥が静かに満たされる。
「……帰ったら、ゆっくり休め」
「う、うん……ベルンも……」
愛称で呼ばれるたび、胸が軽く鳴る。
それを顔に出さないようにしながら、歩調をほんの少しだけ落とした。
夕暮れの道に、ふたりの影が並んで伸びる。
触れなくても、近い。
言葉がなくても、伝わる。
余韻は、まだ消えそうになかった。




