夏の香りとピクニック
夏の気配が、はっきりと輪郭を持ち始めた朝だった。
木々の葉は瑞々しく、風はまだ柔らかい。
芝生の向こうに広がる空は、どこまでも高い。
カレンは両手でバスケットを抱え、少しだけ胸を張った。
中身は、ふたり分。
手作りのサンドイッチに、小さなお菓子。
飲み物と、カトラリー。
シートも、きちんと二人用。
(……完璧)
そう思った瞬間、胸の奥がふわっと浮く。
今日は、ちゃんと“デート”だ。
「準備、随分気合いが入ってるな」
隣でベルンハルトが、穏やかに笑った。
ローブのない私服姿。
陽の下では、その存在感がいつもより近い。
「だって……初めてだし」
言いながら、視線を逸らす。
自分でも分かるくらい、声が弾んでいた。
芝生にシートを広げ、並んで腰を下ろす。
距離は、自然と近くなる。
風が吹く。
草の匂いと、彼の気配が混ざる。
「……気持ちいいな」
ベルンハルトがそう呟いた。
その声は低く、静かで、どこか油断している。
(今だ)
カレンは、ほんの少しだけ勇気を出した。
「ね、ベルンハルト」
「ん?」
「……膝、貸してあげる」
一瞬、間があった。
それから、彼は小さく息を吸って、何も言わずに応じる。
ゆっくりと、彼の頭がカレンの膝に預けられる。
思ったより重くて、思ったより近い。
(……近い)
指先に伝わる体温。
呼吸のリズム。
髪が、風に揺れる。
カレンは、無意識に背筋を伸ばした。
緊張と、嬉しさが入り混じる。
「……落ち着くな」
低い声が、すぐ近くで響く。
それだけで、胸がぎゅっとなる。
カレンは、そっと身を屈めた。
彼の耳元へ、声を落とす。
「……大好きだよ」
それは、囁きに近い音だった。
けれど、確かに届く距離。
そして…
そっと顳かみに口付けを落とした。
ベルンハルトの呼吸が、わずかに乱れる。
「……ずるいな」
そう言って、彼は笑った。
でも、その笑みは隠しきれていない。
カレンは、耐えきれず、両手で顔を覆った。
「~~~~っ」
「はは……」
木陰に揺れる影が、重なって、ほどけていく。
夏の風が、二人の間を通り抜けた。
(……この時間が、続けばいい)
そう思った瞬間、
胸の奥が、じんわりと温かくなった。




