デートのお誘い
夕方の光が、石畳をやわらかく染めていた。
学園からの帰り道、馬車に揺られながら、カレンは何度も窓の外とベルンハルトを見比べていた。
言おう。
今日は言おう。
そう思っているのが、表情に出ているのだろう。
ベルンハルトは何も言わず、けれど隣に座る彼女の気配を、いつもより意識していた。
(落ち着かないな)
指先が、わずかに熱を持つ。
彼女の言葉を待つ時間は、どうしてこうも長く感じるのか。
やがて、カレンが小さく息を吸った。
「……あのね」
声は、少しだけ弾んでいる。
その響きだけで、胸の奥がきゅっと締め付けられる。
「ふふふ。次の週末デートは、ピクニックを予定してます!」
ぱっと笑う。
まるで内緒話を打ち明ける子どものような、無邪気な表情だった。
「……ピクニック?」
「うん! お外でね。
手作りのサンドイッチとか、お菓子とか……」
言葉を重ねるたび、楽しそうに指を組んでいく。
その仕草ひとつひとつが、愛おしい。
ベルンハルトは、一瞬だけ視線を落とした。
(……まただ)
胸の奥が、静かに、確実に満たされていく。
彼女が自分との時間を思い描いている、それだけで。
「デート……してくれるよね?」
最後は、少しだけ不安そうに。
上目遣いで、こちらを覗き込んでくる。
(断れるわけがないだろう)
むしろ――
断る理由など、最初から存在していない。
ベルンハルトは、ゆっくりとカレンの方へ身体を向けた。
「……ああ」
低く、穏やかな声。
「もちろんだ。
君が用意してくれるなら、なおさらな」
その言葉に、カレンの顔がぱっと明るくなる。
「ほんと!? やった!」
思わず身を乗り出しかけて、はっとして姿勢を正す。
その一連の動きすら、微笑ましい。
ベルンハルトは、自然な仕草で彼女の手に触れた。
指先が絡むほどではない、けれど逃がさない距離。
「楽しみにしている」
それだけで、十分だった。
カレンは、少し照れたように笑い、ぎゅっと指に力を込める。
「……うん。
ベルンが喜んでくれたら、嬉しいな」
(もう十分すぎるほどだ)
胸の奥で、理性が何か言おうとしていた。
けれど、その声はもう遠い。
馬車は、規則正しく進んでいく。
夕暮れの中、ふたりの影は並び、ゆっくりと伸びていた。




