浮かれた計画
家の門をくぐり、自室の扉を閉めた瞬間、胸の奥に溜めていた空気がふわっと抜けた。
ほっとするのと同時に、口元が勝手に緩む。
「……ふふ」
誰もいないのをいいことに、声に出してしまう。
だって、今日は――今日も、楽しかった。
机に腰掛け、ノートを開く。
いつの間にか“攻略メモ”だったページは、今ではすっかり“デート案”で埋まっていた。
街の散策。
観劇。
昼のカフェ。
どれも、ちゃんと、ベルンハルトと一緒の思い出になっている。
(溺愛……進んでる、よね?)
指先でページの端をなぞりながら、今日のことを思い返す。
授業中の、あの指先。
昼のカフェでの、あの視線。
耳元に落とされた、低い声。
「~~……」
思い出しただけで、熱が上がる。
慌てて首を振って、次のページをめくった。
(次は……)
書き出したのは、大きな文字。
――ピクニック。
「うん、これだよね」
街の喧騒から少し離れた場所。
木陰。
風。
ふたりだけの時間。
手作りのサンドイッチ。
簡単なお菓子。
飲み物は……彼が用意してくれるかもしれないけど、私も何か持っていきたい。
(喜んでくれるかな)
ベルンハルトの顔が浮かぶ。
困ったように笑うところ。
真剣な目。
たまに、不意に距離が近くなる瞬間。
胸が、きゅっと鳴る。
「……浮かれすぎかな」
そう思いながらも、ペンは止まらない。
だって、楽しい。
だって、幸せだ。
窓の外に目を向けると、夕暮れの空はもう夏の色をしていた。
風に揺れる木々の葉が、きらきらと光っている。
「もう、夏か……」
初めは、どうなることかと思った。
不安もあったし、戸惑いもあった。
でも今は――
(ベルンハルトで、よかった)
その名前を心の中で呼ぶだけで、胸があたたかくなる。
ゆっくりとノートを閉じ、ベッドに倒れ込んだ。
次のデート。
次の時間。
次の、ふたり。
「……楽しみ」
小さく呟いて、天井を見上げる。
まだ何も起きていないのに、もう満たされている自分に気づいて、少しだけ笑った。
溺愛は、順調。
そう信じて疑わずに――
カレンは、静かな夜に身を委ねた。




