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溺愛ハッピーエンドが欲しくて頑張ったのに、なぜか彼氏はヤンデレ化した  作者: ChaCha


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手の甲に沿われる指先

午前の光が、教室の高い窓から差し込んでいた。

白いカーテンがわずかに揺れ、魔術理論の式が書かれた黒板に淡い影を落とす。


静かな授業。

教師の声は一定で、理論の流れを淡々と追っている。


――なのに。


カレンは、隣に座るベルンハルトをちらりと見て、すぐに視線を前へ戻した。


(……近い)


ローブ越しでもわかる体温。

肩と肩が触れそうな距離。


昨日までと、何も変わらないはずなのに。

変わったのは――自分の意識だ。


カレンがノートにペンを走らせた、その瞬間。


そっと。


ベルンハルトの指が、彼女の指先に触れた。


「っ……」


声にならない息が、喉で詰まる。


ほんの一瞬。

偶然触れたような、ささやかな接触。


……なのに。


指先から、じわりと熱が広がる。


(え、なに……)


視線は前。

教師の説明は続いている。


ベルンハルトの顔も、何一つ変わらない。

涼しげで、真面目なまま。


――だからこそ。


次の動きが、余計に際立った。


指先が、ゆっくりと。

カレンの指に沿って、なぞる。


そのまま、手の甲へ。


なでるように、確かめるように。


(ま、待って……!)


カレンは必死でペンを握り直した。

指に力が入り、紙に跡が残る。


教室は静かだ。

魔術理論の話しか聞こえない。


それなのに。


自分の心臓の音だけが、やけに大きい。


(授業中……なのに……)


ベルンハルトは前を向いたまま。

姿勢も、表情も、完璧な生徒のそれ。


……手だけが、違う。


指先が、もう一度。

今度は短く、名残惜しそうに離れた。


カレンは、思わず小さく息を吸った。


(……やられた)


何も言えない。

何もできない。


ただ、耐えるしかない。


――そして。


休憩のチャイムが鳴り響いた。


「……っ」


カレンは、反射的に机に突っ伏した。


額を机に押し当て、深く息を吐く。


(むり……これは……むり……)


少しだけ顔を上げ、隣を見る。


ベルンハルトが、こちらを見ていた。


目が合う。


カレンは、小さく、けれどはっきりと呟いた。


「……それは……ダメ」


声は低く、抗議のつもりだった。


けれど。


ベルンハルトは、一瞬きょとんとしたあと――

にこり、と笑った。


何も言わない。

ただ、それだけ。


(反省してない……!)


カレンは顔を伏せる。


胸の奥が、くすぐったくて、落ち着かない。


「昼食は、カフェで食べるか?」


何事もなかったような声。


カレンは、少し間を置いてから答えた。


「……うん」


短い返事。


でも。


その声には、否定はなかった。


ベルンハルトは満足そうに視線を前へ戻す。


(……可愛い)


そんな思考が、静かに浮かんでいた。


教室の空気は、変わらない。

日常は、いつも通り。


――ただ。


甘さだけが、確実に、日常の中へ溶け込んでいっていた。

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