カレンが買った本
部屋に戻ると、まず鞄を置いて、ベッドに座った。
そして――そっと、紙袋から一冊の本を取り出す。
『彼氏に溺愛される7つの方法』
……うん。
タイトル、強い。
でも、これは必要な知識だと思うの。
だって。
(ベルンハルトに溺愛されたい…!)
今日のデートを思い出して、思わず頬が緩む。
観劇の余韻。
そして、帰り際のあの距離。
ページを開く。
「なるほど……」
「自分から求めすぎず、でも“受け取る姿勢”を見せる……?」
「言葉で伝えることを恐れない……」
うんうん。
今日、私、頑張ったよね?
だって――言えたんだもん。
「私もベルンハルトに溺愛されたいな」って。
胸の奥が、じん、と温かくなる。
その瞬間。
――ふっと、耳元で。
『……本当は、君を今夜……返したくない』
……。
…………。
(……え?)
心臓が、跳ねた。
本を落としそうになる。
「っ、きゃーーー!!!!!」
ベッドに倒れ込む。
ゴロゴロゴロゴロゴロ!!
枕を抱きしめて、転がる。
「む、無理……」
「ベルンハルト、優秀すぎる……」
舞台の台詞だった。
わかってる。
わかってるのに。
(あれを…あの声で…あの距離で……)
顔が、熱い。
耳まで、熱い。
ゴロゴロゴロゴロゴロ!!
「こんなの……反則でしょ……!」
ページをめくる手が止まる。
……でも。
本の中の言葉よりも。
書かれている“方法”よりも。
今日の彼の一言の方が、
ずっと、ずっと、効いていた。
(……溺愛って)
守られることじゃなくて。
見つめられることでもなくて。
――欲しい。
と、求められることなのかもしれない。
(…は…はやまったかな私…?)
胸に、ぎゅっと抱いた本が、少し潰れる。
「……ベルンハルト」
名前を呼ぶと、
また心臓が跳ねた。
ゴロゴロゴロゴロゴロ!!
「もう……!!」
結局その夜。
本は半分も読めないまま。
カレンは、
頬が熱いまま、布団に潜り込み――
彼の声を、
何度も何度も思い出して、
なかなか眠れなかった。




