観劇デート
観劇当日の街は、いつもより華やいで見えた。
石畳に反射する光、劇場前に集う人々の声。
私はベルンハルトの隣で、少しだけ背伸びをする。
(……今日は、ちゃんと言う)
舞台は評判通りだった。
すれ違い、焦がれる視線、抱き寄せる腕。
「離さない」と告げる低い声。
胸の奥が、きゅっと締めつけられる。
横を見ると、ベルンハルトは舞台を見ていない。
私を見ている。
逃げ場を与えない、静かな集中。
(今だ)
私は彼の瞳を、まっすぐ見た。
「……私も」
喉が震える。
それでも、言葉を落とす。
「私も、ベルンハルトに溺愛されたいな」
言えた。
ちゃんと、言えた。
ベルンハルトが息を飲むのが、分かった。
一拍。
それから、彼は私の手を包み込む。
「……そうか」
短い。
けれど、逃げない声。
指に力が入る。
ぎゅっと。
離さない、という意思が、体温で伝わってくる。
「……覚えておく」
低く、確かな声だった。
観劇が終わり、余韻のまま街を歩く。
通りの角に、小さな書店があった。
「少し、寄ってもいいか」
「うん」
私は恋愛棚の背表紙を眺め、
くすっと笑う。
『彼氏に溺愛される7つの方法』
(……勉強しよ)
レジへ向かう途中、視界の端では
ベルンハルトが別の棚に手を伸ばし
彼は視線を落とし、何食わぬ顔で一冊を抜いていた。
「今日は、楽しかったか」
「うん!すごく!」
私は笑う。
彼は、ほんの一瞬だけ口角を上げる。
「……なら、次は俺の番だ」
「え?」
答えは、ない。
ただ、指が絡め直される。
観劇をしたデートは甘く終わった。




