週末の計画
屋敷に帰り着いたのは、日がすっかり傾いた頃だった。
部屋に入るなり、私は制服を脱ぎ、
机の引き出しから一冊のノートを取り出す。
――攻略ノート。
前世の癖、というやつだと思う。
混乱していた頃は、開くたびに胸がざわついたけれど、
最近は違う。
今はもう、
“整理するためのもの”になっていた。
ペンを走らせる。
まずは、騎士枠。
エルンスト。
名前の横に、
小さく「アイナ」と書き足す。
そして、丸をつけた。
「……よし」
自然と、息が緩む。
エルンストは、もう大丈夫。
アイナと並んで歩く姿を見たとき、
不思議なくらい、胸は痛まなかった。
(ちゃんと進んでるんだよね)
それでいい。
それがいい。
私は、ページをめくる。
魔術科首席――
ベルンハルト。
名前を、指でなぞる。
最近、
この名前を見るだけで、頬が熱くなる。
「……ふふ」
思わず、声が漏れた。
せっかく、
こんなに素敵な恋人がいるんだから。
ちゃんと、
デートしなきゃ。
学園内は、なるべく避けたい。
好感度がどう、という話じゃなくて――
あちこちで顔を合わせすぎるのは、
今は、少し落ち着かない。
なら。
(お家デート……は、まだ早いかな)
頬に手を当てて、考える。
(外デート……)
そこで、思い出した。
この世界で、
今、話題になっている舞台。
恋人同士が、
数々のすれ違いを乗り越えて、
最後に“溺愛ハッピーエンド”を迎える物語。
(……それだ!)
私は、勢いよくペンを走らせた。
――次の週末:観劇。
そして、心の中で、
こっそり台詞を練習する。
(言うのよ……)
(「私もベルンハルトに溺愛されたいな」って)
想像しただけで、
胸がきゅっとする。
「……完璧な計画」
小さく、拳を握った。
翌朝。
いつもの馬車。
いつもの隣の席。
ベルンハルトは、
静かに窓の外を見ていた。
私は、少しだけ身を乗り出す。
「ねえねえ、ベルンハルト」
彼が視線を向ける。
「……?」
短い返事。
でも、ちゃんと聞く姿勢。
「次の週末デートは、観劇しに行こう」
一瞬、
彼の目がわずかに細くなる。
(……今やっている舞台といえば)
何かを考えているのが、分かる。
「……わかった」
即答だった。
拍子抜けするくらい、あっさり。
「えへへ、楽しみにしてるね」
私が笑うと、
ベルンハルトも、わずかに口元を緩めた。
そして。
何も言わずに、
私の手を取る。
指と指が絡まり、
ぎゅっと、力がこもる。
体温が、伝わってくる。
(……あったかい)
安心する。
私は、彼の手を握り返した。
溺愛ハッピーエンドへ、
一歩ずつ。
そう、信じて。




