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溺愛ハッピーエンドが欲しくて頑張ったのに、なぜか彼氏はヤンデレ化した  作者: ChaCha


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懐かしい

彼女は最近、

いくつかの場所と、時間帯を、意図して避けている。


それに気づいたのは、つい先日だ。

食堂の奥。

中庭の噴水側。

放課後の、特定の廊下。


偶然にしては、整いすぎている。


(……無意識、か)


そう結論づけるのが、一番穏当だった。


だが――

今日、窓の外を見たとき。


エルンストとアイナが手を繋いで歩く姿を目にした瞬間、

彼女の口からこぼれた一言。


「……懐かしくて」


その言葉が、

胸の奥に、引っかかった。


(懐かしい、とは)


彼女は過去を語らない。

語れない、というより、

語る必要を感じていないように見える。


なのに。


あの一言には、

“今ここではないどこか”を知っている響きがあった。


俺が問いかけたとき、

彼女はすぐに否定した。


気にしていない、と。

ただ、懐かしいだけだ、と。


――そして次の瞬間には、

俺に抱かれに来た。


「ぎゅってして!」


唐突で、遠慮がなくて。

まるで、確かめるように。


「もっと!!!愛を感じるくらい!!」


あの言葉。


俺の腕に収まりながら、

彼女は笑っていた。


(……確かめている)


何を、とは言わない。

だが、確かに。


彼女は、

“ここに戻る”ために、

俺の体温を使った。


腕の中で、次第に力が抜けていく。

安心したのだろう。


肩に額を預け、

呼吸がゆっくりになる。


「……眠い」


そう呟いた声は、

いつもより柔らかかった。


俺は何も言わず、

そっと引き寄せる。


擦り寄ってくる体温。

遠慮なく重ねられる距離。


(……知らない彼女だ)


そう思った。


だが同時に、

否定できない確信もあった。


彼女の変化は、

“誰かに向いたもの”ではない。


むしろ逆だ。


(……何かを、知った)


それだけだ。


知ったから、

避けている。


知ったから、

確かめるように、

俺に触れてくる。


エルンストが、以前。

唐突に声をかけてきたことがある。


――アイナと、カレンは知り合いだったのか。


あの問いも、

今思えば、違和感の一部だった。


だが俺は、

それを彼女に確かめなかった。


確かめる必要が、なかったからだ。


(今、彼女は俺の腕の中にいる)


それが、すべてだ。


彼女は逃げていない。

迷ってはいるが、戻ってきている。


それで、十分だった。


カレンは完全に眠りに落ち、

小さく身じろぎした。


その拍子に、

微かな寝言が零れる。


「……ベルン……好き……」


胸の奥が、

静かに熱を持つ。


俺は答えない。

ただ、彼女の髪に顔を近づける。


柔らかな香り。

体温。


そっと、

口付けを落とした。


(……大丈夫だ)


何があったとしても。

何を知ってしまったとしても。


彼女は、

こうして俺のもとに戻ってくる。


ならば俺は、

問いたださない。


彼女が安心して眠れる場所で、

あり続ける。


それが、

今の俺にできる、最善だった。


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