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溺愛ハッピーエンドが欲しくて頑張ったのに、なぜか彼氏はヤンデレ化した  作者: ChaCha


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何気ない一言

合流したあとの空気は、穏やかだった。


ベルンハルトは何事もなかったようにカレンの隣を歩き、

彼女もまた、いつも通りの距離で並んでいる。


ほんの数分前、

誰かとすれ違ったことなど、

彼女の中ではもう過去になっていた。


廊下を抜け、

二人で馬車に乗り込む。


いつもの席。

いつもの距離。


窓の外を流れていく学園の景色を、

カレンはぼんやりと眺めていた。


そのときだった。


「あ」


小さく、声が漏れる。


ベルンハルトが視線だけを向ける。


「どうした」


カレンは窓の外を指差すこともせず、

ただ、その光景を目で追っていた。


中庭へ続く道。

そこを歩いている二人組。


騎士科の制服。

長身の青年と、

その隣で少し照れたように歩く少女。


手と手が、

自然に繋がれている。


(……あっ)


カレンの胸が、ふわりと温かくなった。


(仲良く進んでる)


それだけの感想だった。


ベルンハルトも同じ方向を見る。


すぐに誰かを理解し、

ほんのわずか、眉を動かした。


「……気になるのか?」


静かな声。


問い詰める響きはない。

ただ、確かめるような一言。


カレンは、少し考えてから首を振った。


「ううん」


そして、

何気なく、言葉を続ける。


「……懐かしくて」


その瞬間。


ベルンハルトの思考が、一拍遅れる。


(懐かしい?)


彼は何も言わない。

ただ、その言葉を胸の奥で転がす。


カレン自身は、

自分が何を口にしたか、

深く考えていなかった。


エルンストと、

彼の隣にいる少女。


そこにあるのは、

もう“終わった関係”であり、

同時に“進んでいる未来”。


それを見て、

前世の記憶がうっすらと揺れただけ。


(エルンスト……よかったね)


心の中で、そう呟いて。


それで終わり。


カレンは窓から視線を離し、

隣に座るベルンハルトを見る。


その顔が、

ほんの少しだけ真面目に見えた気がした。


「……?」


首を傾げる。


次の瞬間。


「ぎゅってして!」


唐突な要求だった。


ベルンハルトは一瞬、目を瞬かせる。


「……こうか?」


腕を回し、

彼女を引き寄せる。


包み込むような、

けれど抑えた抱擁。


カレンは、すぐに不満そうな顔をした。


「もっと!!!」


声が大きい。


「愛を感じるくらい!!」


無邪気で、

遠慮のない言葉。


ベルンハルトは、

一瞬だけ息を詰めたあと――


「……ふはっ」


堪えきれず、

笑った。


腕に込める力が強くなる。


体温が、近づく。

影が、重なる。


「……加減を知らないな、君は」


「だって、恋人でしょ?」


悪びれない声。


ベルンハルトは答えない。

ただ、抱きしめたまま、

彼女の髪に顔を埋める。


(……懐かしい、か)


胸の奥で、

その言葉が、まだ残っている。


けれど今は、

腕の中の温もりの方が確かだった。


だから彼は、

何も言わなかった。


この瞬間だけは、

確かに、彼女は自分のものなのだから。



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