胸が満たされる
ローブに隠れていないカレンの私服姿は、
思っていた以上に――眩しかった。
分かる。
俺のために選んだ装いだ。
色味も、形も、派手ではない。
けれど、彼女の持つ柔らかな雰囲気を、驚くほど引き立てている。
馬車に乗り込んだ瞬間から、距離が近い。
ローブ一枚分がないだけで、こんなにも違うのかと、内心で息を飲んだ。
桃色の髪が、光を受けて淡く揺れる。
長い睫毛の影が、頬に落ちる。
陶磁器のような肌に、ほんのりと血色が差して――
唇が、やけに目に入る。
(……まずい)
首筋に視線が行きそうになって、意識的に逸らした。
触れてはいないのに、想像だけで熱が走る。
細い腰。
そこに手を添えたとき、
少しだけ力を込めると――
彼女は、迷いなく身を委ねてきた。
その反応に、胸の奥が強く締め付けられる。
彼女から漂う、柔らかな香り。
甘くて、落ち着く匂い。
(……好きだ)
くるくると変わる表情。
緊張した顔。
安心したときの、ふっと緩む口元。
街で迷子を見つけたときも、そうだった。
迷わず目線を合わせて、膝を折り、
小さな手を包むように声をかける。
周囲を見渡しながら、
俺はその背中を見ていた。
――優しい。
ああ、どうしようもなく。
「……もう将来の旦那様がいるの」
その言葉が、耳に残る。
「……もう将来の旦那様がいるの」
繰り返されるたび、胸が満たされていく。
「……もう将来の旦那様がいるの」
(……本当に、君って人は)
その無自覚な一言が、
どれほど強く、俺を縛っているかも知らずに。
幸せだ、と素直に思った。
だが。
視線を感じた。
……レオン。
いつから、そこにいた?
一瞬、空気が変わる。
彼は、こちらを見ている。
興味を持った目だ。
値踏みではない。もっと、厄介な――
(……いや)
カレンに動揺はない。
彼女は、何も気づいていない。
だからこそ、違和感が拭えなかった。
カフェに入ってからも、
彼女の視線が、何度もこちらに向く。
触れていないのに、
まるで俺の身体をなぞるような視線。
(……気づいてないな)
この服のデザインを選んでよかった、と心底思った。
「……気に入ってくれて、なにより」
あの一言で、
彼女が慌てて俯いたのが、可笑しくて、愛おしい。
反応が、可愛すぎる。
仕草一つ。
表情一つ。
俺の恋人は――
美しい。
ただ、それだけの事実が、
胸の奥で静かに膨らんでいく。
(……離したくない)
まだ、はっきり言葉にはならない。
だが確かに、その感情は芽を出していた。
視線が、自然と彼女を追ってしまう。
それに気づいた瞬間、
俺は、ほんの僅かに息を整えた。
――まだ、抑えられる。
だが。
この想いが、
いつまで「視線」だけで済むのか。
それだけが、分からなかった。
ベルンハルト視点




