触れられる回数
翌日から、
ベルンハルトは、よく触れるようになった。
それは、急激な変化というより、
気づけば「そうなっていた」という感覚に近い。
朝、学園の門をくぐる前。
人目があるのに、指先が自然に絡め取られる。
「……行こう」
そう言って、私の手を引く。
強くはない。
けれど、離す気もない力。
(……あれ?)
昨日まで、こんなふうだっただろうか。
そう思う間もなく、
掌から伝わる体温が、胸を落ち着かせてくる。
授業の合間。
廊下で立ち止まると、
背中にそっと手が添えられる。
通り過ぎる生徒から、
私を庇うみたいに。
「人、多いから」
低い声でそう言われると、
理由としては、十分すぎた。
(守ってくれてるんだよね)
嫌じゃない。
むしろ、少し嬉しい。
だって、
触れられるたびに思う。
(ああ、好きだな)
ベルンハルトの手は、
迷いがない。
髪を整えるみたいに触れて、
頬を確かめるみたいになぞって、
額に、軽く触れる。
短い接触なのに、
一つひとつが丁寧で、
私をちゃんと見ていると分かる。
昼休み、木陰のベンチに座るときもそうだった。
隣に腰を下ろした瞬間、
距離が、近い。
肩が触れて、
太ももがわずかに重なって。
逃げ場は、ある。
でも、離れようとは思わなかった。
「……疲れてないか」
そう言いながら、
背中に腕を回される。
抱き寄せられるほどじゃない。
でも、支えられている感覚。
(……これ、前から?)
記憶を辿ろうとして、
やめた。
考えるより、
安心の方が先に来る。
ベルンハルトの匂いが、近い。
落ち着く香り。
胸の奥が、ふわっと緩む。
「……ベルンハルト」
名前を呼ぶと、
彼はすぐに視線を向けてくる。
逃がさない目。
でも、優しい。
「どうした」
「……なんでもない」
本当は、少しだけ不思議だった。
触れられる回数が増えているのに、
拒否する気持ちが、湧いてこない。
むしろ――
触れられない時間の方が、
そわそわする。
(……あれ?)
その感覚に、
小さく戸惑う。
私、
こんなに、触れられるのが好きだったっけ。
でも、ベルンハルトの指が、
手首に触れた瞬間、
そんな疑問は、霧散した。
包むみたいに、両手で。
「行こう」
それだけ。
理由も、説明もない。
でも、拒む理由も見つからない。
歩きながら、
影が重なる。
彼の歩幅に合わせて、
私の足も動く。
(……当たり前、みたい)
気づけば、
触れることが、
「特別」じゃなくなっている。
それが、少しだけ、
怖いような。
でも同時に、
手放したくない安心でもあった。
ベルンハルトの手は、
今日も、離れない。




