↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
溺愛ハッピーエンドが欲しくて頑張ったのに、なぜか彼氏はヤンデレ化した  作者: ChaCha


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

103/145

のばした手と、掴んだ手

教室の空気は、昼前の静けさに包まれていた。

窓から差し込む光が、机の上に細い影を落としている。


カレンは、震える指先を必死に抑えながら、前を見た。

——違う。

見ているのに、何も見えていない。


胸の奥が、ぎゅっと縮む。

息を吸うたび、何かが壊れそうだった。


(……だめ。もう、限界)


気づいたときには、体が動いていた。


カレンは、ベルンハルトの方へと手を伸ばした。


ほんの一歩分の距離。

けれど、その一歩が、ひどく遠く感じられる。


伸ばした手は、宙で止まりそうになった。


——一拍。


ベルンハルトは、すぐには掴まなかった。

ほんのわずかな、けれど確かに存在する間。


その一瞬が、カレンの心をえぐる。


(……やっぱり、だめ?)


そう思った、その直後。


ベルンハルトの指が、そっと、カレンの手に触れた。


強くはない。

けれど、逃がさない温度。


指先から、手のひらへ。

確かめるように、包み込む。


「……っ」


喉が鳴り、言葉にならない音が漏れた。


張りつめていたものが、一気に崩れる。


カレンの瞳から、ぽろり、と。

宝石のように澄んだ涙が、頬を伝って落ちた。


教室だということも、周囲の視線も、もう考えられなかった。


ベルンハルトは、すぐに動いた。


ローブを広げ、自然な仕草でカレンの顔を隠す。

泣き顔が、誰の目にも映らないように。


そのまま、低く、落ち着いた声で囁いた。


「大丈夫だ」


短く、けれどはっきりと。


「俺が、いる」


カレンは、何度も瞬きをした。

涙が止まらないまま、それでも、こくりと頷く。


「……そばにいる」


もう一度、ベルンハルトは言った。


その言葉は、誓いのように、静かに胸へ落ちる。


カレンは、また頷いた。

今度は、少しだけ、力を込めて。


ベルンハルトは、彼女の手を離さないまま、視線を落とす。


「今日は……一緒に、早退するか?」


周囲への配慮を滲ませた、低い声。


カレンは、一瞬だけ迷い、そして——


「……ベルンハルトと、帰りたい……」


縋るような言葉だった。

それでも、はっきりとした本心。


ベルンハルトは、静かに息を吐き、


「そうか」


と、短く答えた。


その声音に、迷いはない。


カレンの肩から、力が抜ける。


「……ありがとう」


小さな声。

けれど、それ以上の言葉は、もう必要なかった。


ベルンハルトは、彼女の手を包んだまま、ほんのわずかに距離を詰める。


——逃がさない。

——今度こそ。


そう言葉にせずとも、確かに伝わる温度だった。


二人の手は、しっかりと重なったまま、

静かに、教室を後にする準備を始めていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。