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YNMTは両親が子供達の誕生を喜んでつけた名前だった。
Yは長男の優真
Nは長女の寧々(ねね)
Mは次男の湊
Tは三男の桃李
それぞれ子供たちのイニシャルだ。
母はジュエリーデザイナー、父は宝石鑑定士だった。
二人で作った会社を母方の祖父の宇月グループがスポンサーになっていた。
小さい頃からよく遊びに行っていた。
私たち兄弟は祖父母が大好きだった。
女の子1人の私は特に可愛がって貰っていた。
体調も戻り、宇月グループへ出来上がった宝石の確認へやってきた。
受付に来て言う。
「春川本部長に寧々が来たと伝えて下さい。」
「ただ今外出中のため、春川は不在でございます。」
LINEを送る。
【みなちゃん、外出中なの?いつ戻ってくるの?】
【社長室で兄さんといるよ】
なるほどここで足止めを食らうとは……
「佐川グループの加藤です。春川本部長にアポイントを取りたいのですが」
「ご案内します。」
佐川グループはあっさり通された。
ここで佐川グループの代表取締役の妻と名乗るのは簡単だか……どうしようかな?
コツコツコツと革靴の音が聞こえてきた。
「社長お疲れ様です。」
振り向くと兄がこちらに近づいてきた。
「いつまで待たせる気だ」
「通して貰えなかったんです。」
「来い。」
兄の後をついて行く。先程私を足止めしていた受付嬢は社長の登場で青白い顔をしている。
トイレに行っていたベテランの受付嬢の香川さんが戻ってきた。
「寧々ちゃん来たのね。」
「香川さんあの人って……?」
「社長の義理の妹さんよ」
受付嬢は俯くしかなかった
「湊の姉と言えば良かっただろ?」
「でも…私は」
「卑屈になるな。お前は今でも俺の大事な妹だ。」
「ありがとう。にいに」
「座れ」
目の前に私がデザインしたネックレス、イヤリング、ブレスレットが並んでいた。
「コレを夏のシリーズで売り出す。」
「いい出来だと思うわ」
「そうか……。それより佐川の坊ちゃんは優しくしてくれるのか?」
「ええ!とても優しいよ。安心してにいに。」
「ならいい。」
「そうだ。桃李から明日香ちゃんにプレゼントするブレスレットを頼まれたの。このデザインで桃李が払える範囲内で作ってほしいの。」
「分かった、おじいちゃんとあばあちゃんが会いたがってるから帰りにでも顔を出しなさい。」
「承知しました。」
宇月の本邸に到着した。私が18歳まで住んでいた邸だった。
門を空ける管理が行き届いた庭園が広がっていく。
使用人達がお出迎えしてくれた。
「どちら様でしょうか?」
「ご当主さまに寧々が来たと伝えてください」
「かしこまりました」
新人の使用人だったのかコソコソ喋っている。
「あの人誰だろう?綺麗な方ね」
「坊っちゃま方の知り合いの方かしら?」
「でも、ご当主様にお目通りをさせてたわよ」
だいぶ待っているがなかなか通されなかった。
ここでも足止めか……。
よく風が通る所だったのか凄いふいていた。
後、10分待っても呼ばれなかったらもう帰ろうかな……。
後ろから声を掛けられた。
「寧々ちゃん?」
振り返るとおばあちゃんだった。
なぜか涙がこぼれてきた。
待たされたからじゃない。
おばあちゃんの優しい顔を見ていたら昔の事を思い出したから。
ママはおばあちゃんによく似ていた。
おばあちゃんにあったママの面影を思い出して涙が止まらなかった。
「どうしたの?もしかして佐川の孫にいじめられてるの?それとも息子夫婦に?正吉さんとしのさんにおばあちゃん頼んでたのにごめんね……。」
抱きしめられながら背中を優しくさすってくれる。
「違うの……。おばあちゃん。勝手な事したのにありがとう」
「寧々ちゃんはいつまでもおばあちゃんの可愛いお姫さまよ。」
「うん。」
おばあちゃんと一緒におじいちゃんの部屋へ行く。
部屋に入ると執事長と喋っていた。
険しい顔をしていたが、私の顔を見た瞬間、笑顔に変わった。
あぁ。おじいちゃんも私を大切にしてくれている……。
思わず駆け寄って胸に飛び込んでいた。
「どうした?寧々。辛いことあったら帰ってきたらいい!!今どき離婚なんて気にしなくていいんだから」
頭を優しく撫ぜてくれる。
大きなゴツゴツした手。
私の大好きな手だった。
「大丈夫だよ……。おじいちゃんの顔みたら嬉しくて」
「なら良かった。今日はここで晩御飯たべて帰りなさい」
「はい。」
私は家に夕食がいらない件を連絡する。
紫苑くんは今日会食があると言っていて、要らないと言っていたが、一応連絡する。
【ゆっくりしておいで】
【ありがとう】
久しぶりに家族とのご飯だった。
桃李が帰ってきた。高校3年生になり部活も引退したので早いお帰りだった。
「ねえね!お帰り」
兄も湊も普段は遅いみたいだが、私が本邸にいると知って早く帰ってきた。
「皆そろったから食事にしよう」
おじいちゃんの号令で食事が始まった。
佐川家の食事も美味しいが、長年食べていた実家の味も変わらず美味しかった。
私の好きな物が並んでいるように感じた。
「ねぇねが帰ってきたからねぇねの好物ばっかだな」
「料理長がお嬢様の好物をご準備しろと言いまして、張り切っております。」
「三枝さんに美味しいとお礼言ってください」
「かしこまりました」
昔からいる使用人の人達が会いに来てくれた。
「お嬢様お元気そうで良かったです。」
「少し痩せやれましたか?」
「佐川家は良くしてくださいますか?」
「ほら見ろ。皆、お前の事が好きなんだ。もちろん俺達もだ。だから、家族じゃないなんて言うんじゃない。分かったな?」
にぃにが言った。
「そうだよ。ねぇね!これからも美人なお姉ちゃんって皆に自慢したいんだから」
桃李もニコッと笑っていた。
「分かった。結婚式に呼ばなくてごめんなさい。皆が私のせいで嫌な思いをするのが嫌だったの。」
涙がぽろぽろ出てくる。
「ほらほら!皆、寧々ちゃんは泣き虫なんだから泣かしたらだめじゃん!特に兄さんのことだよ」
湊が笑顔で兄の肩を叩いている。
「俺は心配してるだけだ」
兄は腕組みをして横を向いている。
「わかってるって!にぃにはねぇねのこと誰よりも大好きだもんな」
桃李も反対の肩をポンポン叩いていた。
久しぶりに家族の前で笑った気がする。
私も辛かったが、私以上に兄たち辛かったんだと思う。
「いつか、紫苑くんも家に連れてきてね。寧々の都合の良い日でいいから」
おばあちゃんが言っていた。
「分かった。」
「でも、おばあちゃん、寧々ちゃんと佐川取締役は契約結婚なんだよ。なぁ?」
「それでも結婚しているうちは孫婿にかわりない。」
「分かったよ。おじいちゃん。でも本当に紫苑くんは優しくしてくれてるんだよ。心配しないで」
「ねぇねの初恋の男の子なんだよね?」
「そうだよ!あの頃と変わらず優しいよ。」
「でも、嫌な事をされたり、言われたら我慢せず帰ってこい!」
「分かった。そういえば、香澄さんと子供は元気?」
香澄さんは兄の奥さんだ。
兄は2年前に結婚し、子供も女の子1人産まれて3人で仲良く暮らしている。
兄と香澄さんは高校から付き合っていて私の事も良くしてくれていた。
「元気にしてる。お前が結婚した事を話したらお祝いしたいと言っていた。」
お祝いなども私は断っていた。
「ありがとう。心の準備をして、本当に時期を見てお披露目するから、待ってて欲しい。」
「分かった」
デザートまで作ってくれていたのでお腹いっぱいになった。
「寧々ちゃん。送ってあげるよ」
「ありがとう。みなちゃん」
「実は、俺、結婚したい人がいてさ」
「本当に!おめでとう。」
「指輪のデザインしてくれないか?」
「了解!任せてよ」
「で!ここからが本題。お義兄さん(おにいさん)と結婚式に出席して欲しい。姉夫婦として……。家族席に座って欲しい。だめかな?」
「分かった。」
兄弟みんな仲良しだったが、湊とは年子だったので1番仲が良かった。
何でも話が出来る親友のようだった。
家の前についた。
ハグをする。
「頑張れよ!お姉ちゃん。負けるな、契約から本物にしてやれ。」
手を振って帰っていった。




