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第88話 崩壊の序曲

火の神殿アグニ・ゼルーー。


黒炎竜の瞳が――完全に“黒”へ染まった瞬間。


世界から理性という概念が消えた。


『――――――――ッ!!』


それは咆哮ではなかった。


破壊そのものだった。


ゴォォォォォォォォォォォッ!!


空間がひび割れる。


火の神殿アグニ・ゼルの前庭が、一瞬で“異界”へと変貌していく。


「っ……!!」


リナが膝をつきかける。


レオンが即座に支える。


「耐えろ!」


「これ……魔力圧じゃない!」


アルが目を見開く。


「“意思圧”だ」


その言葉に全員の背筋が凍る。


意志だけで世界を歪める存在。


それが今、目の前にいる。


黒炎竜は地面を踏み砕いた。


ドゴォン!!


その一歩で、大地が沈む。


セレフィーナが結界を重ねる。


「防御陣、三重展開!」


だが――。


バチィッ!!


結界が一瞬で焼き切れる。


「嘘……!」


その時だった。


ドンッ!!


黒炎の間を裂いて、巨大な斧が振り下ろされる。


衝撃波。


黒炎が左右に割れる。


「うるせぇな」


低い声。


バルグラドだった。


黒鉄の鎧が軋み、黒炎を浴びても一歩も退かない。


「暴れすぎだろ、竜王」


その言葉に、ルシエルが顔を上げる。


「父様を……!」


叫びと同時に走り出そうとする。


だが――


ドンッ。


セインが再び前に立つ。


「動くな」


その声は先ほどより重い。


いや、“警告”ではない。


“確信”だった。


ルシエルが睨む。


「邪魔しないで!」


セインは黒炎竜を見上げたまま言う。


「今のあれは“父親”じゃない」


「ただの災害だ」


その言葉にルシエルの拳が震える。


「違う……!」


「まだ中にいる!」


セインは一瞬だけ目を細めた。


「……だから厄介なんだよ」


その瞬間、黒炎竜が動いた。


ゴォォォォォォォッ!!


空間が裂け、黒炎の津波が一行へと押し寄せる。


「来るぞ!!」


レオンが剣を抜く。


アルが前に出る。


エリオスが風を最大展開する。


セレフィーナが詠唱を重ねる。


だが――バルグラドが笑った。


「遅ぇ」


ドンッ!!


戦斧を地面へ叩きつける。


その瞬間、黒炎の“流れ”が止まった。


いや――“ねじ伏せられた”。


「なっ……!?」


エリオスが息を呑む。


「炎を……押さえ込んでる!?」


バルグラドは肩を回しながら笑う。


「火は火で殺す」


「基本だろ?」


その言葉に、セインが小さく舌打ちする。


「……相変わらず滅茶苦茶だな」


バルグラドは振り返る。


「お前も来るか?」


セインは即答しない。


一瞬、黒炎竜を見る。


その奥に、かすかに揺れる“理性の残滓”があった。


そして、ほんの一瞬だけ、視線がルシエルと重なる。


「……まだ早い」


そう呟いた。


その時だった。


黒炎竜の胸部が膨れ上がる。


『――――――ッ!!』


次の瞬間。


ゴォォォォォォォォォォォッ!!


“爆発”のような黒炎が放たれた。


世界が白く染まる。


「伏せろ!!」


セインが叫ぶ。


全員が地面に伏せる。


衝撃。


熱。


音が消える。


視界が消える。


ただ“破壊だけ”が残る。


そして――


静寂が訪れ、その数秒後。


ゆっくりと視界が戻る。


「……!?」


火の神殿前庭は、半分が消えていた。


地面は溶け、空間に亀裂が走っている。


リナが息を呑む。


「……これが」


「竜王の……?」


セインが低く答える。


「違う」


「侵食が完全に進んだ結果だ」


その言葉に空気が重くなる。


ルシエルが震える声で言う。


「父様は……」


「もう……戻れないの……?」


その問いに、誰も答えられない。


バルグラドだけが笑った。


「戻る?」


「そんな甘いもんじゃねぇよ」


彼は黒炎竜を見上げる。


「これは“完成”だ」


「壊れきった先の姿だ」


その言葉に、ルシエルの瞳が揺れる。


「違う……」


「違う……!!」


その瞬間。


黒炎竜がゆっくりと顔を上げた。


そして――


『ル……シエ……ル……』


声。


確かに。


まだそこに“何か”がいる。


リナが息を呑む。


「まだ……残ってる……!」


セインが静かに言う。


「残ってるからこそ、厄介なんだ」


その時、バルグラドが一歩前に出た。


「なら試すか?」


戦斧を肩に担ぐ。


「その“残りカス”がどこまで耐えられるか」


その瞬間――空気が変わる。


レオンが剣を構え直す。


アルが前に出る。


エリオスが詠唱を始める。


セレフィーナが結界を再構築する。


リナも立ち上がる。


そしてセインが――ゆっくりと魔導斧を握り直す。


「……戦闘領域に入ったな」


誰も引かなかった。


火の神殿アグニ・ゼル前。


黒炎竜と堕精四騎。


そして、そこへ踏み込もうとする“光の一行”。


全てが交わる瞬間。


セインが低く呟く。


「ここから先は」


「生き残り戦だ」


黒炎が吠える。


バルグラドが笑う。


そして――


竜王の瞳が再び揺れた。


戦いはまだ“序章”。


だが誰もが理解していた。


これはもう“戦闘”ではない。


世界そのものの崩壊だった。


第88話 終わり

ここまで読んでいただきありがとうございます!


もし「続きが気になる」と思っていただけたら、ブックマークや評価で応援していただけるととても嬉しいです!


このあとも物語が大きく動いていきますので、ぜひ引き続き読んでいただけたら嬉しいです!

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