第7話 王都へ向かう旅
森の朝は静かだった。
夜の冷たい空気がまだ残り、木々の葉の先には小さな露が光っている。
リナは森の小道を歩いていた。
背中には薬草を詰めた小さな鞄。
腕の中には、いつもの白猫――フェル。
フェルは丸くなり、気持ちよさそうに眠っている。
昨日、あれほどの力を見せた存在とは思えないほど、穏やかな寝顔だった。
「……本当に不思議な猫だよね」
小さく呟く。
その瞬間、フェルの耳がぴくりと動いた。
『猫ではある』
目を閉じたまま、低い声が返る。
『ただし、ただの猫ではない』
リナは思わず苦笑した。
前を歩くレオンが振り向く。
陽の光を受けて、金色の髪がきらりと揺れた。
森の中でも、その姿はどこか騎士らしい凛とした空気をまとっている。
「疲れてない?」
穏やかな声だった。
リナは慌てて首を振る。
「ううん、大丈夫」
「森の外って、あまり行ったことがないから……ちょっと緊張してるだけ」
レオンは優しく笑った。
「王都は賑やかな場所だ」
「店も多いし、人も多い」
少しだけ空を見上げてから、言葉を続ける。
「でも最近は、少し空気が変わってきてる」
リナは首を傾げる。
「空気?」
レオンはゆっくりうなずいた。
「魔物の数が増えてる」
「魔王軍の動きが活発になってるって話もある」
リナの胸が少しだけざわついた。
魔王。
遠い物語の中の存在だと思っていた。
フェルが小さくあくびをする。
『人間はすぐ騒ぐ』
『魔王だの戦争だの』
『静かに昼寝できればそれでよい』
レオンが思わず笑う。
「猫らしいな」
そのときだった。
森の奥から、風を切る音がした。
ザッ――
木の上から、人影が飛び降りる。
軽やかな着地。
落ち葉がふわりと舞った。
リナは驚いて足を止める。
現れたのは、一人の青年だった。
黒の髪色。
鋭い目。
軽装の鎧に、腰には長剣が一本。
森の中でも動きやすそうな装備だった。
レオンが目を見開く。
「……アル?」
青年はにやりと笑った。
「やっと見つけたぜ、団長」
どこか軽い口調だった。
けれど、隙のない動きからは只者ではない雰囲気が漂っている。
リナは驚きと戸惑いの表情でレオンを見る。
「だ、団長?知り合い?」
レオンは小さくうなずいた。
「俺は王都白銀守護騎士団の団長で、アルは同期であり副団長だ」
アルは興味深そうにリナを見る。
そして、にやりと笑った。
「へぇ」
「この子は?」
リナは少し慌てて頭を下げた。
「リナです」
アルは軽く手を振る。
「アルだ」
「まあ、気楽に呼んでくれ」
その時、
フェルがゆっくり目を開けた。
金色の瞳が、じっとアルを見つめる。
アルの表情が一瞬だけ変わる。
「……猫?」
フェルは静かに言った。
『猫ではある』
『だが、それだけではない』
アルは少し黙る。
そしてレオンに小声で言った。
「なんか……この猫、変な気配するぞ」
レオンは苦笑した。
「ああ」
「説明は……長くなる」
フェルが尻尾を揺らす。
『人間は説明が多すぎる』
アルは声を上げて笑った。
「ははっ、面白い猫だな」
リナは少し安心した。
アルはどこか自由で、少し危なっかしい雰囲気もあるけれど、
どこか憎めない人のようだった。
レオンが尋ねる。
「どうしてここに?」
アルは肩をすくめた。
「任務だ」
「王都に呼ばれてる」
リナは驚いた。
「王都?」
アルはにやりと笑う。
「ちょうどいい」
「一緒に行こうぜ」
森の風が静かに吹く。
木々の葉が揺れ、光がきらめいた。
リナはふと感じていた。
この旅はきっと――
ただの旅では終わらない。
白猫フェル。
騎士レオン。
そして、謎めいた青年アル。
三人と一匹の旅が、静かに動き始めていた。
第7話 終わり
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