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第6話 白猫フェル覚醒

巨大な魔獣が、大地を砕くように突進してきた。


「グォォォォォ!!」


咆哮が、森を揺らす。


空気が震え、木々の奥に潜んでいた鳥たちが一斉に飛び立った。


リナの身体が、びくりと強ばる。


(……違う)


昨日の魔獣とは、まるで別物だ。


黒く、巨大な体躯。

血のように赤く光る瞳。

剥き出しの牙。


それはまるで――森の闇そのものだった。


一歩、レオンが前へ出る。


長身の青年騎士。


肩まで伸びた金の髪を後ろで束ね、静かな瞳で魔獣を見据える。


剣が、音もなく抜かれた。


「下がって」


短く、低い声。


「リナ」


「……うん」


頷いた。


――けれど、足が動かない。


腕の中の白猫を、思わず強く抱きしめる。


フェル。


柔らかな白い毛並み。

金色の瞳。


どこか、人を見透かすような不思議な目。


そのフェルが――


ゆっくりと尻尾を揺らした。


『……やれやれ』


(え?)


リナは一瞬、息を呑む。


だが、その声は誰にも届いていない。


黒ローブの男が、楽しげに笑う。


「どうした?」


「騎士様だけで戦うつもりか?」


レオンは答えない。


ただ、剣を構える。


次の瞬間――


魔獣が跳んだ。


地面を砕き、一直線に迫る。


そのときだった。


ふっと、腕が軽くなる。


「え……?」


視線を上げたリナの目に映ったのは――


宙に浮かぶ、白い影。


フェルだった。


淡い光に包まれ、静かに浮かんでいる。


金色の瞳が、ゆっくりと輝き始めた。


黒ローブの男の声が、震える。


「……まさか」


風が止まった。


葉のざわめきも、虫の声も消える。


森が――息を潜めた。


その静寂の中で。


フェルが、口を開く。


『久しぶりだな』


低く、落ち着いた声。


――人の言葉。


「フェル……?」


リナの瞳が、大きく見開かれる。


空中の白猫は、ゆっくりと身体を伸ばした。


まるで、昼寝から目覚めたかのように。


『こうして力を使うのは』


『少し面倒だ』


レオンも、言葉を失っていた。


ただ、目の前の光景を見つめる。


フェルの周囲に、光が集まり始める。


小さな粒。


無数の光。


それはまるで――


森そのものが、呼応しているかのようだった。


「……精霊?」


レオンが、かすかに呟く。


フェルは答えない。


ただ、魔獣を見た。


その瞬間――


魔獣の動きが、止まる。


巨体が震えた。


一歩、また一歩。


後ずさる。


恐れている。


白猫を――化け物を見るように。


黒ローブの男が叫んだ。


「やはり!!」


「ただの猫なわけがない!」


フェルは、少しだけ呆れたように言う。


『猫ではある』


そして――静かに続けた。


『ただし』


空気が、震えた。


『精霊王の使いだ』


――瞬間。


風が、爆発した。


森を切り裂くような突風。


空に、光が走る。


フェルの周囲で、無数の精霊の光が舞い上がる。


森が、応えている。


彼に。


フェルは、ゆっくりと尻尾を揺らした。


『さて』


魔獣を見据える。


『森を荒らす者は――』


静かな声。


だが、その奥にあるのは圧倒的な力。


『帰ってもらおう』


次の瞬間。


光が、弾けた。


ドォォォォォン!!


魔獣の巨体が、吹き飛ぶ。


一瞬だった。


森の奥へ叩きつけられ、地面が揺れ、木々が軋む。


――一撃。


完全な、圧倒。


静寂が落ちた。


「……一撃で」


レオンが、呟く。


黒ローブの男の顔が歪む。


「精霊王の……使い」


その声には、歓喜と恐怖が混じっていた。


フェルは、何事もなかったかのように地面へ降りる。


そして、リナのもとへ歩いてくる。


『さて、帰るか』


まるで、散歩帰りのような声。


「フェル……」


震える声で、リナが呼ぶ。


白猫が振り向く。


『なんだ?』


「しゃべれるの……?」


一瞬、間。


そして、


『しゃべる猫はおかしいか?』


レオンが、思わず吹き出した。


張り詰めていた空気が、ふっと緩む。


――だが。


黒ローブの男だけは違った。


震える声で、呟く。


「やはり……」


「目覚めたか」


フェルの瞳が、わずかに細くなる。


男は、ゆっくりと後退した。


「面白い……実に面白い」


「あの方に報告せねばな」


黒いローブが、森の奥へ消える。


残されたのは、静かな風の音。


リナは、フェルを見つめる。


「フェル……」


白猫は、大きくあくびをした。


「ニャ」


――さっきまでの威厳は、どこにもない。


レオンが言う。


「リナ」


「一緒に王都へ行こう」


リナは、ゆっくりとうなずいた。


森の外へ。


まだ見ぬ世界へ。


そして――


白猫フェルの秘密とともに。


物語は、静かに動き始める。


第6話 終わり


ここまで読んでいただきありがとうございます!


少しでも続きが気になったら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。


次回もぜひ読んでいただけたら嬉しいです!

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