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第62話 新たな航路

天空都市ジルヴァリア――。


空は、穏やかだった。


崩れかけていた街も、少しずつ息を取り戻している。


遠くで、誰かの笑い声がした。


――生き残った者たちの、かすかな日常。


その静けさの中で。


救護室の窓辺に、リナは立っていた。


「……静かだね」


小さく呟く。


まだ完全ではないが、身体は動くようになっていた。


それでも――あの時の光は、まだ体の奥に残っている気がする。


隣には、ルシエル。


変わらず、少しも離れずに座っている。


「……無理、しないでね」


少しだけぎこちない声。


リナは、ふっと笑う。


「大丈夫だよ」


その一言に、ルシエルの肩がわずかに緩む。


アルが壁にもたれながら、口を開く。


「ほんと張り付きすぎだろ、お前」


「え……?」


「護衛かよ」


軽く笑う。


ルシエルが慌てる。


「ち、違うよ!」


その様子に、エリオスがくすりと笑う。


レオンは、窓の外を見ていた。


そして――


「……来る」


短く、呟く。


風が、変わる。


空気が整うように流れ始める。


リナも、はっと顔を上げた。


「……風が……」


窓の外に、白い影が空に現れる。


それはーー白銀の船体。


整然と進むその姿は、ただの空船ではない。


風すら従わせるような存在。


帆に刻まれているのは――


王都アルディアの紋章。


「……王都……」


エリオスが小さく呟く。


ゆっくりと降下し、広場へと着陸する。


風が巻き上がり、空気が一瞬で引き締まる。


「……行こう」


リナが言う。


誰も、異論はない。


リナたちは、天空都市の広場へ向かった。


ーーそして広場。


王都の騎士たちが整然と並んでいる。


そこには、カイルたちも並んでいた。


無駄のない動き。


研ぎ澄まされた空気。


その中央。


ゆっくりと、一人の少女が姿を現した。


白と金の衣。


そして王家の威厳と、騎士の実用性を併せ持つ装い。


長い金髪が風に揺れる。


その瞳が――リナを捉える。


そして、やわらかく微笑んだ。


「……お久しぶりですね、リナ」


その声に、リナの表情がふっとほどける。


「セレフィーナ様……」


少しだけ、安心したように、思わず名前を呼ぶ。


王女セレフィーナ・アルディア。


王都の象徴でありながら、今はーー


騎士団の頂点に立つ存在。


確かに“知っている人”だった。


セレフィーナは、ゆっくりと歩み寄る。


「無事でよかったです」


静かに言う。


その一言に、重みがある。


リナは、小さく頷いた。


「……はい」


レオンが軽く頭を下げる。


「殿下」


「レオンも、無事で何よりです」


落ち着いた声音。


アルが肩をすくめる。


「来るとは思ってたけど、早いな」


「急ぎましたから」


微笑みながら答える。


その奥には、確かな緊張感がある。


エリオスも一歩前に出る。


「お久しぶりです、セレフィーナ様」


「ええ。あなたも無事で安心しました」


優しく言う。


そして――


再び、リナへと視線を戻す。


「……あなたのことは、すべて報告を受けています」


少しだけ、空気が張り詰める。


「精霊と繋がり――世界に干渉した力」


「そして……大精霊の巫女としての覚醒」


リナの胸が、少しだけざわつく。


だが――


セレフィーナは、やわらかく微笑んだ。


「安心してください」


「あなたを試しに来たわけではありません」


「……え?」


「一緒に行くために来ました」


その言葉に、全員がわずかに息を呑む。


レオンが低く問う。


「同行する気ですか」


「はい」


はっきりと答える。


「次の目的地――水の神殿」


「今回のような事態を考えると、見過ごすわけにはいきません」


アルが苦笑する。


「王女直々に参戦ってか」


「これは遊びではありません」


静かに言う。


その一言で、空気が締まる。


そして――


セレフィーナの視線が、ルシエルへ向く。


「……あなたが、ルシエルですね」


ルシエルは、思わず背筋を伸ばす。


「……は、はい……!」


セレフィーナは、ゆっくりと近づく。


その瞳は、やさしい。


「よく戻ってきましたね」


その言葉に、ルシエルの胸が強く揺れる。


「……っ……」


声が詰まる。


セレフィーナは、静かに続ける。


「あなたのことも聞いています」


「そして――あなたが選んだ道も」


少しだけ、目を細める。


「守る側に立ったのですね」


ルシエルは、強く頷いた。


「……はい!」


「それなら――覚悟を決めてください」


その瞳が、まっすぐ向けられる。


「王都騎士団は、甘くありません」


「ですが」


わずかに、やわらぐ。


「あなたには、その資格があります」


胸の奥が、熱くなる。


「……僕も、行きます」


迷いなく、答えた。


アルがニヤリとする。


「逃げんなよ?」


「逃げないよ!」


空気が、少しだけ軽くなる。


その時――


セレフィーナが空を見上げた。


「……それでは、出発します」


騎士たちが一斉に動く。


空船が、唸りを上げる。


新たな航路が開かれる。


リナは、空を見上げる。


風の次は――水。


きっと、また違う試練。


それでもーー。


「……行こう」


小さく呟く。


その言葉に、風がやさしく応えた。


空船が、ゆっくりと浮かび上がる。


天空都市ジルヴァリアを後にして。


物語は、次へ進む。


だがその先ーー深く、静かな領域で。


何かが、待っている。


水は――


風よりも深く、そして、冷たい。


第62話 終わり

ここまで読んでいただきありがとうございます!


もし「続きが気になる」と思っていただけたら、ブックマークや評価で応援していただけるととても嬉しいです!


このあとも物語が大きく動いていきますので、ぜひ引き続き読んでいただけたら嬉しいです!

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