第58話 本気開放
天空都市シルヴァリアーー。
空が、軋んだ。
ヴォルゼアの一言で、世界の密度が変わる。
「遊びは終わりだ」
その声は、静かだった。
だが次の瞬間、
ドンッ……!!
見えない“圧”が、空全体に叩きつけられる。
「……っ!」
アルの膝が、一瞬沈む。
レオンの足も、わずかに止まる。
重く、呼吸すら奪われる。
まるで、空そのものが敵になったような感覚。
ヴォルゼアの背後に、黒い魔力が、ゆっくりと形を成す。
それは“翼のような何か”。
風を否定する、歪んだ存在。
「……これが」
エリオスが、遠くから震える声を漏らす。
「風を……壊してる……」
フェルが低く唸る。
『……あれは風ではない』
『“支配”だ』
ヴォルゼアが、手をかざす。
たったそれだけで、空間が裂けた。
ズバァッ!!
見えない刃が走る。
レオンが受ける。
ギィィィンッ!!
剣が、軋む。
押される。
「……重いな」
低く呟く。
だが、その目はまっすぐだった。
アルが横から飛び込む。
「だったら、軽くしてやるよ!!」
斬撃。
だが、届かない。
触れる前に、弾かれる。
「チッ……!」
ヴォルゼアは、動かない。
ただ、失望した顔で見下ろしている。
「……弱くなったな」
それだけで空気がさらに沈む。
ドンッ!!
今度は、直接魔力の塊が叩きつけられる。
アルが吹き飛ぶ。
「がっ……!」
空を転がる。
建物の残骸に叩きつけられる寸前で、レオンが受け止める。
「立て」
短い言葉。
アルが、笑う。
「……言われなくても」
血を拭う。
立つ。
それでも、距離が埋まらない。
格が違いが、はっきりと分かる。
その下で――
「……まだ……いる」
リナが息を呑む。
崩れかけた建物の中。
取り残された人たち。
炎が、迫っている。
「ルシエル!」
竜が急降下する。
ゴォォッ!!
風が道を開く。
エリオスが、震える手を伸ばす。
「風よ……」
弱い。
それでも――
応える。
やさしく。
炎を押し返す。
「今です!」
リナが飛び込む。
子供を抱き上げる。
「大丈夫、もう大丈夫」
その声は、震えていない。
そのまま外へ出る。
次々と救い出す。
だが――
終わらない。
「数が……多すぎる……!」
エリオスの声。
リナは、顔を上げる。
空を見る。
その上で――
レオンとアルが、押されている。
「……」
唇を噛む。
助けたい。
でも、こっちも止められない。
その時――
ルシエルの声が、響く。
(...…行って)
低く、強い声。
「……え?」
(ここは……僕がやる)
その瞳は、もう揺れていない。
完全に覚悟が、決まっていた。
「でも……!」
(信じて)
短い言葉。
それだけで――十分だった。
リナは、頷く。
「……お願い」
ルシエルが、咆哮する。
空へ――駆け上がる。
上空ーー。
ヴォルゼアの魔力が、さらに膨れ上がる。
「見せてやろう」
ゆっくりと、腕を広げる。
黒い翼が、完全に展開される。
その瞬間――。
空が消え、“塗り潰された”。
光が、届かない。
風が、止まる。
すべてが――閉ざされ、
ヴォルゼアの支配下に置かれる。
「……これが」
アルが息を呑む。
レオンも、無言で見上げる。
「本気、か……」
ヴォルゼアが笑う。
「絶望しろ」
その一言で――
無数の黒い刃が、空に生まれる。
雨のように、
いや――
嵐のように、降り注ぐ。
ドドドドドドドッ!!!
破壊と崩壊が広がっていく。
回避不能の範囲攻撃。
都市ごと、消し飛ばす気だ。
「……っ!」
レオンが動く。
アルも同時に。
だが――
間に合わない。
その瞬間。
蒼い影が、割り込む。
ドォンッ!!
衝撃。
風が、爆ぜる。
「……来たか」
レオンが呟く。
その前に立っていたのは――
巨大な竜。
ルシエル。
翼を広げ、すべてを受け止めている。
「……っ……!」
身体が軋む。
それでも――退かない。
(……ここから先は)
低く、響く声。
(通さない)
ヴォルゼアの目が、細まる。
「……竜か」
わずかに興味を示す。
そして――
笑う。
「いいだろう」
魔力が、さらに深く沈む。
「全てまとめて――潰してやる」
空は、完全に支配された。
逃げ場はない。
だが――
誰も、退かない。
レオンが剣を構える。
アルが並ぶ。
ルシエルが、咆哮する。
そして――
その下で。
リナが、顔を上げる。
「……まだ終わってない」
小さく、だが、確かに光が、灯る。
絶望の中で。
それでも、抗う者たちがいる。
嵐は――終わらない。
第58話 終わり
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