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第57話 抗う者たち

天空都市シルヴァリアーー。


ーー空は、まだ壊れ続けていく。


崩れかけた浮遊島。


炎に包まれた街。


泣き叫ぶ声と、風を裂く咆哮。


そして、リナとルシエル。


そのすべてを見下ろして、ヴォルゼアは笑っていた。


「……実に、愉快だ」


黒い魔力が、空を歪める。


その中心に、レオンとアルが静かに立っている。


「……ヴォルゼア」


「……許さねぇ」


アルが低く呟く。


「リナ、エリオス」


「ルシエルを連れて、行け」


レオンが振り向かず、低い声で言う。


「でも……あいつは」


「僕の、父さんと母さんを……」


ルシエルが震えながら、振り絞る声を出す。


だか、その時ーー。


また、頭の中に懐かしい声が響く。


「逃げることは」


「弱さじゃない」


父さんの声。


「あなたは臆病だけど」


「勇敢な子」


母さんの声。


「父さん……母さん……」


寂しい。


悲しい。


会いたい。


でも、もう会えない。


だけどーー。


そして、次の瞬間、意識が戻る。


「……ルシエル、構えろ」


「お前はもう」


「騎士だ」


レオンが、低い声で言う。


アルも、振り向かないまま声を出す。


「……背中は」


「任せたからな」


その瞬間、ルシエルの小さな勇気が覚悟に変わった。


「……っ!」


堰き止めていた感情の水が、一気に流れていく。


レオンは振り向かず、わずかにルシエルを見た。


「この天空都市の崩壊を止める」


静かに言い切った。


そして、一歩前に出て静かに剣を構える。


「行くぞ」


レオンが、短く言う。


その動きには、一切の迷いがない。


アルが口元を歪める。


「ああ」


次の瞬間――。


二人は、同時に消えた。


ドンッ――!!


空が、弾ける。


レオンの一閃が、ヴォルゼアを裂く。


だが――。


「遅いな」


指一本で、止められる。


ギィン――!


金属が悲鳴を上げる。


その横から、アルが踏み込む。


「こっちはどうだ!」


斬撃が、重なる。


呼吸すら与えない、連撃。


だが――。


「……浅い」


ヴォルゼアは、動かない。


ただ、そこにいるだけで、すべてを“上から”押し潰している。


その圧。


その格。


それでも、レオンは止まらない。


「……関係ない」


低く、呟く。


「斬る」


踏み込む。


一歩、深く。


剣が、変わる。


空気が、張り詰める。


二人の動きが、完全に噛み合う。


前と後ろ。


上と下。


死角を潰しながら、同時に叩く。


連携じゃない。


これは――“共闘”。


ヴォルゼアの瞳が、わずかに細まる。


「……ほう」


初めてほんのわずかに、“興味”が混じった。


その下ではーー。


「リナ……行けますか」


エリオスの声もまだ弱い。


だが、その瞳は強い。


リナは頷く。


「……うん」


ルシエルは、リナの腕をそっとほどき、ゆっくりと立ち上がる。


「ルシエル……」


リナが小さく言う。


そして、次の瞬間ーー。


ルシエルの身体から光を放たれた。


そして、人の姿ではなく、先ほどの巨大な竜の姿へ。


その瞳にはもう理性がある。


「ルシエル……一緒に行こう」


リナが手を伸ばす。


ルシエルは、静かに頭を下げた。


(乗って……)


声が聞こえてくる。


「……ありがとう」


その背に、リナとエリオスが乗る。


次の瞬間、風が爆ぜた。


ドォンッ!!


竜が、空へと舞い上がる。


「……速い……!」


エリオスが息を呑む。


ルシエルの背には、蒼い水流が帯のように巻きついていた。


まるで意思を持つように、リナとエリオスの身体を優しく支えている。


激しく旋回しても、振り落とされる感覚はない。


水が、衝撃そのものを受け流しているのだ。


「すごい……」


リナが息を呑む。


エリオスも驚いたように周囲を見る。


「これ……水で守っているんですか……?」


ルシエルは短く答えた。


(落とさない)


その声は小さい。


けれど、絶対に守るという意志だけは、はっきりと伝わった。


そして、景色が流れる。


崩れる街。


燃える家屋。


逃げ惑う人々。


そして、魔獣化した空賊たち。


地上には、王都天空騎士団がいた。


カイルが率いる騎士たちも、小型空船で交戦している。


「……絶対、助けるから」


リナの声は、静かで揺るがない。


「全部」


ルシエルが、応えるように咆哮する。


ゴォォォォォ!!


その声が、空を震わせる。


一体の魔獣が、咆哮を上げた。


黒く濁った翼を広げ、鋭い牙を剥く。


その巨体が、一直線にルシエルへ襲いかかる。


だが、ルシエルは動かない。


蒼い竜眼だけが、静かに細められる。


その背には、リナとエリオス。


二人を乗せたまま、空中で静止していた。


そして、


(……来るよ)


ルシエルが、小さく呟く。


次の瞬間、消えた。


「え……!?」


リナの視界が、揺れる。


遅れて、水飛沫だけが空に散った。


ドォォォン!!


魔獣の巨体が、空中で何かに叩きつけられたように回転し吹き飛ぶ。


「なっ……!?」


エリオスが目を見開く。


「流れを……完全に掴んでる」


そして、リナは目を閉じる。


感じる。


歪められた“命の流れ”。


「……精霊よ」


手をかざし、光が広がる。


「還して……この人たちを」


精霊術式が展開される。


柔らかな光が、魔獣を包む。


苦しむように、暴れる。


やがて崩れ、黒が剥がれ落ち、中から人が現れる。


「……あ……」


かすれた声。


意識を取り戻した空賊。


「……戻った……」


エリオスが、息を吐く。


「やれる……!」


リナが頷く。


「まだ、間に合う」


ルシエルが、さらに加速する。


一つでも多く。


一人でも多く。


救うために。


ーーその上空。


激突は、続いていた。


レオンの剣が、ヴォルゼアの頬を掠める。


ピシッ――


血が、滲む。


ほんの、わずか。


だが――確かに、届いた。


アルが、笑う。


「……届いたな」


ヴォルゼアは、静かにその血を拭う。


そして、初めて明確な“敵意”を向けた。


「……いいだろう」


空気が、沈む。


魔力が、膨れ上がる。


「遊びは終わりだ」


その瞬間。


世界が、軋んだ。


下では、救済。


上では、決戦。


二つの戦いが、同時に加速する。


空はまだ、崩れている。


だが――。


抗う者たちは、止まらない。


嵐の中心で、運命がぶつかり合う。


第57話 終わり

ここまで読んでいただきありがとうございます!


少しでも続きが気になったら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。


次回もぜひ読んでいただけたら嬉しいです!

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