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第49話 呪いの子

天空都市シルヴァリアーー。


空に浮かぶその都市は、あまりにも静かで美しかった。


幾重にも連なる浮遊島。


それらを繋ぐ白い橋。


風を受けて回る魔導機関。


すべてが、空と共に在るような街。


そしてーー。


蒼翼船アストレイアが港へ降り立った瞬間、その静けさにざわめきが混ざった。


「王都の船だ……」


「巡礼か……?」


リナたちへ、人々の視線が集まる。


だか、すぐにその視線が逸れた。


「……また、あの子か」


「また来たのか」


「呪いの子……」


リナの足が止まる。


その言葉の先の広場の端に、一人の少年が立っていた。


薄い水色の短い髪。


額に、小さな角。


痩せた体に、擦り切れた服。


背中には、身体に合わない大きな槍を背負っている。


俯いたまま、ただ立っている。


誰とも目を合わせず、人々は距離を取っていた。


まるで、そこに“触れてはいけない何か”があるかのように。


「近づくな」


「風が乱れる」


「また何か起きたらどうする」


リナの胸がざわつく。


「……どういうこと?」


誰も答えない。


代わりに――


パシッ。


乾いた音を立てて、石が飛んだ。


少年の肩に当たる。


「……っ」


体がわずかに揺れるが、逃げない。


「出ていけ!」


「人殺し!」


「ここはお前の居場所じゃない!」


次々と石が投げられる。


その中で、誰かが吐き捨てる。


「あの日……風が狂ったんだ」


「この子の家の周りだけ、空が歪んでた」


「親も、その中で……かわいそうに」


言葉が濁る。


だが、それで十分だった。


リナの胸が締めつけられる。


少年は、動かない。


ただ、血が滲むほどに、強く拳を握りしめている。


エリオスの声が震える。


「……ひどい」


アルは黙って見ている。


その目はどこか冷たい。


レオンの視線が、ゆっくりと細くなる。


そしてーー。


リナが、歩き出した。


「リナ」


レオンが呼び止めるが、リナは止まらない。


石が、また飛ぶ。


その瞬間、リナは少年の前に立っていた。


コツン。


石が、リナの肩に当たる。


広場が、静まり返る。


「やめてください」


はっきりとした静かな声が響く。


「この子……何もしてない」


人々のざわめきが広がる。


「知らないのか」


男が言う。


「一年前だ」


「この子の育ての親が死んだ」


女が続ける。


「家の中で、二人とも」


「変わり果てた姿で」


「この子だけが生きていた」


沈黙が落ちた。


「だから……」


「皆、思ってる」


「この子がやったって」


リナは振り返り少年を見つめるが、少年は俯いたまま。


そして、その肩がわずかに震えていた。


その時、エリオスが一歩前に出る。


「証拠はあるんですか」


広場が、静まり返る。


「ただ怖いからって……」


エリオスが声が震わせながら、止まることなく続ける。


「こんな小さな子に石を投げて」


「人として恥ずかしくないのですか」


誰も、答えない。


レオンが前に出る。


その瞬間、空気が変わる。


「……やめろ」


低い声で、王都白銀守護団長の圧が、場を制圧する。


「これ以上は見過ごせない」


広場にいた人々が、1人、そしてまた1人と、後ずさり黙ったまま散って行く。


その中で――。


リナは、ゆっくりと少年と同じ高さでしゃがんだ。


「……痛かったよね」


返事はない。


「怖かったよね」


「もう、大丈夫」


少年は黙ったまま、涙を堪えている。


そして、少年の唇がわずかに動く。


「……違う」


かすれた声。


「僕じゃない」


俯いたまま。


「父さんも……母さんも……」


涙が、ぽつりと落ちる。


「僕は、やってない」


拳が震える。


「信じてくれない」


「誰も」


その言葉の後、しばらく風の音だけが、通り抜ける。


そして――。


リナは、そっと手を差し出した。


「いいよ」


とても静かな声。


「理由なんて、いらない」


少年の肩が止まる。


「違うって言ったでしょ」


まっすぐに見つめる。


「それで、十分だよ」


その瞬間、ほんのわずかに空気が揺れた。


そして一瞬、風が止まる。


誰かが通り過ぎて行く足音も、リナは気づかない。


ただ、手を差し出したまま。


「私が、信じる」


迷いなく、まっすぐにその一言で言い切る。


少年の顔が、歪む。


「……っ」


声にならない音。


「……う……」


堪えていたものが、崩れる。


「うああああああ!!」


叫びと嗚咽が響き、その小さな体が震わせる。


リナはそっと抱きしめた。


その瞬間、風がやさしく流れた。


さっきまでとは違う、どこか安らいだ風だった。


エリオスは涙をこらえる。


アルは、目を細める。


レオンは、黙って立っている。


そして――。


フェルだけが、静かに呟いた。


『……なるほど』


金色の瞳が、細くなる。


『人ではないな』


小さく誰にも聞こえない声で呟く。


『……忘れてしまったか』


その視線は、少年を射抜いていた。


まだ、早いーー。


そう判断するように、今は何も言わない。


リナは、少年の背を撫でる。


「もう、大丈夫だよ」


やさしくーー。


「一人じゃない」


少年は、泣きながら頷いた。


その姿は、ただの子供。


けれど――。


その奥にあるものを、まだ、誰も知らない。


この少年が、どこから来たのか。


何を背負っているのか。


そして――。


何に“なる”のかを。


少年の名はーールシエル。


第49話 終わり

ここまで読んでいただきありがとうございます!


少しでも続きが気になったら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。


次回もぜひ読んでいただけたら嬉しいです!

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