表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
44/105

第44話 受け継がれた風

王都アルディアーー。


巡礼出発までーーあと2日。


空は、どこまでも高かった。


雲が、ゆっくり流れていく。


そして、風がやさしく、絶えず世界を撫でている。


その下で、葬列が進んでいた。


白と蒼の装束。


整然と並ぶ騎士たち。


王都魔道院の紋章。


その中心に――


一つの棺。


グランディ・シルフィード。


王都魔道院 魔道隊長ーー


そしてーー風の賢者。


王都を守り続けた男の、最後の帰路。


誰も、声を発しない。


ただ、足音と風の音だけが重なる。


エリオスは、その先頭にいた。


黒の礼装。


背筋は伸びている。


涙はもう、流れていない。


だか胸の奥で、何かが確かに燃えていた。


リナたちは、少し後ろを歩く。


近すぎず、遠すぎず、その距離を誰も崩さない。


やがて――


王都の外れーー風の丘。


最も風が通る場所。


そこは、生前にグランディが望んだ、還る場所だった。


棺が、静かに下ろされる。


土の匂い、風が音を立てる。


そして、魔道院の長が前にでた。


「グランディ・シルフィード」


低く、静かな声。


「その風は、多くの命を守った」


「その意志は――今もここに在る」


言葉は短いが、深く重みがある。


やがて、視線がエリオスへ向く。


「……娘として、最後に」


沈黙が流れる。


風が、髪を揺らす。


エリオスは、一歩前に出た。


棺の前。そこにはもう動かない父がいる。


それでも、エリオスは口を開いた。


「……お父様」


驚くほど静かで、揺れない声。


「まだ……何も返せていません」


風が、頬を撫でる。


「強くなれって言われてたのに」


「……まだ、全然で」


ほんのわずかに、息が震える。


それでも、止まらない。


「でも」


顔を上げ、どこまでも広い空を見る。


あの日と、同じ空だった。


「私は」


大きく息を吸い、そしてーー


「グランディ・シルフィードの娘であることを」


「誇れる風になります」


そして、風が応えるように吹き抜けた。


棺が、ゆっくりと土へと還されていく。


音はない。


ただ、風が見守っていた。


やがて――墓標が立った。


刻まれる名ーーグランディ・シルフィード


集まっていた人々が、少しずつ離れていく。


誰も、邪魔をしない。


墓標の前、エリオスは一人そこに残った。


手には、風の精霊石が埋め込まれている父の杖。


風が吹き、淡い緑色の短い髪が揺れる。


しばらく何も言わず、ただ立っている。


その時――ふっと。


風の流れが、変わった。


一瞬、空気が静止する。


そして風が、巻き上がる。


エリオスの足元から、ゆっくりと。


やわらかく。


けれど、確かに意思を持つように。


風が、渦を描く。


リナが、息を呑む。


レオンが、目を細める。


アルが、わずかに驚く。


フェルだけが、静かに目を細めた。


『……来たのか』


風が、エリオスを包む。


冷たくない。


やさしい。


懐かしい。


まるで、抱きしめられているような感覚だった。


エリオスの目が、見開かれる。


「……っ」


その瞬間、声が重なる。


『風は止まらない』


父の声が確かに、そこにあった。


『どこへでも自由に行ける』


胸が、強く鳴る。


ドクン。


『だから――お前が、選べ』


風が、強くなる。


すべての風と音が、エリオスを中心に調和している。


精霊石が静かに輝き、呼応するように杖がわずかに震える。


エリオスは、ゆっくりと目を閉じた。


深く、息を吸う。


風を、感じる。


そして、吐く。


目を開ける。


もう、迷いはない。


「……分かりました」


小さな声だが、確かに響く。


「ちゃんと、行ってきます」


杖を握るその手は、もう震えていない。


「この風で――」


「守ります」


風が、ふわりと弾け、空へと解けていく。


まるで、役目を終えたかのように。


静寂が戻る。


そこには、確かに“残ったもの”があった。


背後に、そっとリナたちの気配があった。


だが、エリオスは振り向かない。


なぜなら、まだ一人じゃない。


フェルが、短く小さく呟く。


『……継いだな』


そして、エリオスは墓標に背を向ける。


もう、振り返らない。


風が、強くまっすぐ背中を押してくれた。


それは、別れではなくーー継承。


風は、ここで終わらない。


ここから、ずっと吹き続ける。


空へ。


巡礼へ。


未来へ。


その一歩が、今、踏み出された。


第44話 終わり

ここまで読んでいただきありがとうございます!


少しでも続きが気になったら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。


次回もぜひ読んでいただけたら嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ