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第4話 騎士の依頼

朝のエルダウッドの森は、静かだった。


昨夜の戦いが嘘のように、鳥の声が森に響いている。


小さな家の前で、リナは腕を組んでいた。


「……どうしよう」


困った顔で、地面を見ている。


そこには――


三匹の魔獣が倒れていた。


巨大な黒い体。

鋭い牙。


どう見ても危険な魔獣だ。


「これ、どうすればいいの?」


リナが振り向く。


レオンは腕を組んだまま言った。


「討伐証明が必要だ」


「とうばつしょうめい?」


「魔獣を倒した証拠だ」


騎士は慣れた様子で剣を抜く。


魔獣の角を切り取る。


「これをギルドへ持っていく」


「なるほど……」


リナは少し感心した。


だが、すぐに疑問が浮かぶ。


「いやいや、でもレオン」


「なんだ?」


「三匹も魔獣が森に来るなんて変じゃない?」


レオンは少しだけ黙った。


そして静かに言う。


「……ああ」


灰色の瞳が森を見た。


「普通ではない」


魔獣は、普通は人里に近づかない。


まして三匹同時など、滅多にない。


「しかもただの魔獣ではない。凶暴化している」


レオンは続けた。


「王都でも警戒している。」


リナは目を丸くした。


「王都って、そんなに大変なの?」


「かなり」


短い答え。


だが、その声には重さがあった。


「この森も安全とは言えない」


レオンはリナを見る。


「君は一人で住んでいるのか?」


「ううん」


リナは首を振る。


「森の隠れ里があるよ」


「隠れ里?」


「うん。薬師とか、森で暮らす人たち」


レオンは少し安心したようだった。


「そうか」


そのとき。


足元で声がする。


「ニャ」


白猫フェルだった。


のんびりと尻尾を揺らしている。


リナは猫を抱き上げた。


「昨日はびっくりしたよ」


「ニャ?」


「魔獣の前に飛び出すんだもん!」


レオンは、ちらりとフェルを見る。


金色の瞳。


小さな体。


どう見ても普通の猫だ。


だが――


昨夜の光景が頭から離れない。


魔獣が吹き飛んだ。


まるで、見えない力に弾かれたように。


「……偶然か?」


レオンは小さく呟く。


フェルは、ちらりとレオンを見た。


そして、ふいっと顔をそらす。


「……?」


騎士は首を傾げた。


その時、


リナが言った。


「そうだ」


「?」


「レオン、怪我は?」


レオンは肩を回した。


「問題ない」


「ほんと?」


リナは近づく。


真剣な顔。


薬師の顔だった。


「見せて」


レオンは少し困った顔をする。


だが、素直に外套を脱いだ。


包帯が巻かれている。


リナが昨夜巻いたものだ。


リナはゆっくりほどく。


傷を見る。


そして小さく頷いた。


「うん」


「どうだ?」


「治ってる」


「……早いな。普通なら数日はかかる傷だ」


だが、かなり回復している。


リナは笑った。


「薬がいいんだよ」


「薬だけではない気がするが」


レオンはそう言った。


リナは首を傾げる。


「そう?」


フェルは小さく欠伸をした。


『……薬だけじゃないがな』


その声は、誰にも聞こえない。


レオンはふと森を見た。


そして言った。


「リナ」


「なに?」


「頼みがある」


リナは首を傾げる。


「?」


レオンは少し迷った。


だが、はっきり言う。


「王都へ来ないか」


リナの目が丸くなる。


「え?」


「王都では薬師が不足している」


レオンは続ける。


「君の腕なら役に立つ」


リナは驚いたまま固まった。


王都。


行ったこともない場所。


森で育った薬師の自分が、そんな場所へ?


「わ、私が?」


「そうだ」


レオンは真剣だった。


「君の薬は、本物だ」


その言葉に。


リナは少し照れた。


だが同時に――


少しだけ胸がざわついた。


森の外。


王都。


知らない世界。


フェルがリナの腕の中で小さく目を細める。


金色の瞳が、静かに光った。


『……ついにか』


小さく呟く。


『世界が動き始める』


遠くの森の奥。


黒い影が蠢いていた。


それは、まだ誰にも見えていない。


だが確実に近づいている。


闇の気配が。


第4話 終わり

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