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第39話 聖域の終焉

始まりの聖域ーーセラフィア神殿の最奥。


今、その神殿が崩れようとしている。


柱が軋み、床が砕けていく。


暴走する闇が、空間そのものを侵していく。


黒い魔力が、息をするように広がっていた。


その中心に――それは、在った。


歪な巨躯。


幾重にも重なる影の翼。


無数の瞳。


そのすべてが、ゆっくりとリナを捉えている。


「……光……」


掠れた声。


言葉というより、飢えた声が響く。


「喰らう……」


ぞわりと、背筋が粟立つ。


だが――リナの胸の奥が、強く反応していた。


ドクン。


それは、拒絶ではなく、恐怖でもない。


もっと別の――


「……違う」


かすれる声。


それでも、確かに届く。


「この子は……」


一歩、前へ。


レオンの声が飛ぶ。


「リナ、下がれ!」


アルも踏み出す。


「触るな、あれは危険だ!」


だが、リナは止まらない。


その瞳にあるのは、恐れではなく――確信だった。


「苦しいんだよね」


その一言で、空間がわずかに揺れた。


魔物の動きが止まる。


ほんの一瞬だが、それだけで十分だった。


リナの中で、光がほどけていく。


静かに。


深く。


「精霊たち……」


手を伸ばす。


祈るように。


「力を、貸して」


応えが返る。


風が集まる。


光が集まる。


空間そのものが、息を合わせるように震える。


エリオスが息を呑む。


「……これが……」


フェルの瞳が、細くなる。


『……目覚めたか』


リナの足元に、紋様が浮かび上がる。


重なり合う光。


幾重にも編まれた術式。


それは、もはや“魔法”ではなかった。


祈りに近い。


「大丈夫」


誰に向けた言葉かも分からない。


それでも、やさしく、響く。


「終わりにしよう」


手を、かざす。


次の瞬間――光が解き放たれる。


激しさはなく、ただ、ただ静かに包み込みむように満ちていく。


そして、闇へと染み込んでいく。


「……ァ……」


歪んだ声が、震える。


拒絶でも、怒りでもない。


苦しみが、ほどけていく音。


バキ……


小さな亀裂。


やがて、闇が崩れ始める。


剥がれ落ち、砕けて、溶けるように消えていく。


そして――光があふれた。


そこに現れたのは、白銀の巨体。


流れるような光の毛並み。


神々しい角と透き通る翼。


神殿そのものに祝福された存在。


光のーー守護神獣。


静寂が落ちる。


誰も、言葉を持たない。


ただ、見ていた。


守護神獣は、ゆっくりと頭を垂れる。


その動作には、迷いがない。


当然のように、その視線が――


フェルへと向けられる。


空気が、変わる。


わずかに張り詰める。


そして守護神獣が、声を発した。


低く。


深く。


時の底から響くような声音で。


「……幾星霜を越え」


わずかな間。


「なお、その御姿を拝する日が訪れようとは」


誰も、息をできない。


その言葉の重みが、理解を拒む。


「神獣の王――」


さらに、深く頭を垂れる。


「フェンリル様」


沈黙が落ちた。


レオンの目が見開かれる。


「……な……?」


アルも、言葉を失う。


エリオスは、ただ息を呑む。


フェルは――小さく、ため息をついた。


『……やはり気づくか』


その声は、いつもと変わらない。


だが、ほんのわずかに懐かしさが混じる。


守護神獣は、頭を上げない。


ただ静かに、そこに在る。


王を前にした臣のように。


誰も、何も言えなかった。


守護神獣は、しばしそのまま静止していた。


やがて――ゆっくりと、顔を上げる。


その視線が、今度はリナへ静かにゆっくりと向けられた。


逃げ場のない、澄んだ光。


リナの呼吸が、わずかに止まる。


「……我が名は、ルミナエル」


「……あなたが」


低く、響く声。


先ほどまでの濁りは、もうない。


「我を……解き放った者」


その一言に、空気が揺れる。


リナは、小さく首を振った。


「……違うよ」


少し困ったように笑う。


「ただ……苦しそうだったから」


それだけ。


飾りも、誇りもない。


その言葉に、守護神獣の瞳がわずかに細められる。


ほんの一瞬。


やわらかな気配。


「……そうか」


長い時を生きた存在の、静かな納得。


そして、守護神獣は、ゆっくりと前足を折る。


大地に膝をつくように。


その巨体が、リナの前で“頭を垂れた”。


空気が、凍る。


レオンが息を呑む。


エリオスの声が震える。


「まさか……」


アルも、言葉を失う。


守護神獣が、告げる。


「感謝を」


短い言葉。


だが、その重みは計り知れない。


「我は、再び“守る者”へと戻された」


「その恩――忘れぬ」


静まり返り、誰も、動けない。


そして、守護神獣の体から、淡い光があふれ出す。


やわらかく。


静かに。


その光の一部が、ゆっくりとリナの元へと流れてくる。


「……これを」


リナが目を瞬く。


「え……?」


光が、リナの手のひらへと触れる。


あたたかい。


どこか、懐かしい感触。


「我が名と、力の欠片」


低く、厳かな声。


「必要とあらば――呼べ」


空間が、わずかに震える。


「我らは応じる」


その“我ら”という言葉に、守護精霊たちが、ざわめいた。


見えないはずの存在が、確かに“応えた”。


フェルが、小さく笑う。


『……随分と気前がいいな』


守護神獣は、わずかに顔を上げる。


「王の御前にて、偽りは不要」


その言葉に、再び静寂が落ちる。


そして、リナへ。


「汝が歩む道に」


ほんのわずかに、やさしさが滲む。


「光が在るならば――我らもまた、その傍らに在ろう」


言い切らない。


だが、十分すぎる言葉。


リナの手の中の光が、すっと消える。


消えたはずなのに、胸の奥に確かに残っている。


「……ありがとう」


小さく、でもまっすぐに。


リナは頭を下げた。


守護神獣は、それを静かに見つめる。


そして――ゆっくりと、空を仰いだ。


まるで、長い眠りから覚めた存在のように。


そしてーー姿が消えていった。


気づくと、神殿の崩壊は止まり、静寂だけが残されていた。


その時ーー


神殿の奥から新たな気配した。


規則正しく、複数の足音が迷いのない歩みで近づいてくる。


振り向くと、現れたのは騎士団。


崩壊する神殿の中を、整然と進んでくる。


その中央で守られるように、一人の女性いた。


白いドレス。


金色の髪。


気品ある佇まい。


胸元に輝く、王族の紋章。


エリオスの声が、震える。


「……セレフィーナ王女様……」


王女は、静かに歩み寄る。


瓦礫も、闇も、意に介さない。


そして――リナの前で、止まる。


やわらかな微笑み。


だが、その奥にあるのは揺るがぬ意志。


「見違えましたね」


静かな声。


「リナ」


レオンが低く呟く。


「……なぜ王女がここに」


セレフィーナは振り向かない。


ただ、言葉を落とす。


「国王――」


「ラグディアス・ルクス・アルディア陛下のご命令です」


その名が落ちた瞬間、空気が変わる。


その名だけで、場の全員が、無意識に姿勢を正す。


王女は、リナをまっすぐ見つめる。


「勅命をお伝えします」


静寂が落ちる。


「世界を救うため」


風が、わずかに揺れる。


「あなたに――」


ほんのわずかな間。


それが、やけに長く感じる。


「四大精霊神殿の巡礼を命じます」


セレフィーナの声が静かに響く。


誰も、すぐには動けない。


その言葉だけが、重く残る。


アルが、ゆっくり顔を上げる。


レオンの目が細くなる。


エリオスは、リナを見る。


フェルが、小さく笑う。


『……来たな』


まるで待ち侘びていたかのように。


『本当の物語が』


リナは、まだ理解しきれていない。


だがーー


胸の奥の光が、静かに応えていた。


終わりではない。


ここから――続いていく。


選んだ先の、その先へ。


世界の運命を変える旅。


四大精霊神殿ーー巡礼。


その一歩が、今。


静かに、踏み出される。


第39話 終わり

ここまで読んでいただきありがとうございます!


もし「続きが気になる」と思っていただけたら、ブックマークや評価で応援していただけるととても嬉しいです!


このあとも物語が大きく動いていきますので、ぜひ引き続き読んでいただけたら嬉しいです!

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