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第36話 最終試練―選ぶ者

セラフィア神殿ーー最奥。


最後の扉が――開いた。


ギィ……


その音は、ただの石の軋みではなかった。


まるで――


“運命そのもの”が動き出す音だった。


中に広がっていたのは、何もない真っ白な世界だった。


どこまでも続く、光の空間。


境界も、重さも、存在すら曖昧な場所。


「……ここが」


リナの声が、やけに小さく響いた。


エリオスが息を呑む。


「最終試練……」


フェルの声が低く落ちる。


『ここは“心”だ』


『偽れぬ場所』


その瞬間、空間がわずかに歪んだ。


そしてーー


“それ”は現れた。


もう一人の――リナ。


同じ顔。


同じ瞳。


同じ髪。


だが、その奥に宿るものは決定的に違う。


エリオスが息を止める。


「……なに、これ……」


フェルが静かに告げた。


『お前が選ばなかった未来』


『そして、選ばれていたお前だ』


もう一人のリナが、優しく穏やかに微笑む。


そして、どこまでも冷たい声で優しく語りかけてきた。


「やっと来たね」


その声は甘く、逃げ場を奪う。


「私はもう終わったよ」


「選ばれたから」


もう一人のリナが一歩、近づく。


「精霊に」


「力に」


「運命に」


リナの胸が揺れる。


ドクン。


「……選ばれた……?」


もう一人のリナは頷く。


「そう」


「だからもう、何もしなくていい」


「戦わなくていい」


「失わなくていい」


その言葉は――あまりにも優しかった。


「全部、与えられた」


「痛みも、悲しみも、後悔も」


「全部いらない」


そっと手を差し出す。


「来て」


その一言で心が、崩れそうになる。


(選ばれたら)


(楽になれる)


(もう苦しまなくていい)


(もう失わなくていい)


もう一人のリナの足が、止まる。


その時ーー


「リナ!!」


エリオスの声が、空間を裂いた。


「それはあなたじゃない!」


震える声で、必死に叫ぶ。


アルが低く笑う。


「ずいぶん都合のいい未来だな」


レオンが静かに言った。


「それで守れるのか」


その言葉が、心に突き刺さる。


ドクン。


ドクン。


父の手の温もりを、思い出す。


「強くて優しい子になれーー」


「ーー誇りだ」


父の声が聞こえてくる。


「癒やしたいという気持ちがーー」


「一番の薬ーー」


母の声が聞こえてくる。


そして――今まで守ってきたもの。


救ってきた命。


伸ばされた手。


泣きながら笑った顔。


リナは――顔を上げた。


「……違う」


リナが一歩、踏み出す。


光が揺れる。


「私は」


もう一人の自分を、真っ直ぐ見る。


「選ばれるためにここにいるんじゃない」


空間が震えた。


「私は――」


胸に手を当てる。


鼓動が、はっきりと聞こえる。


「私が選ぶために、ここにいる」


その言葉は――世界の“答え”だった。


もう一人のリナの表情が歪む。


「また苦しい思いをするよ」


「また失うよ」


「また泣くよ」


リナは――笑った。


「それでもーー」


涙を浮かべる顔に、迷いはなかった。


「それでも私はーー」


「私が選ぶ」


その瞬間――世界が、砕けた。


ドォォォォン!!!


光が暴れ狂う。


刃のように降り注ぐ。


すべてを切り裂く閃光。


だがリナは――動かない。


目を閉じる。


胸に手を当てる。


(怖い)


(でも)


(それでも)


(私は)


その時ーー。


胸の奥で――“何か”が砕けた。


パキン。


確かな音を立て、胸から光が溢れる。


優しい光。


あたたかい光。


それでいて――世界を塗り替えるほどの力。


エリオスが震える声で呟く。


「……リナ……」


フェルの瞳が細くなる。


『……目覚めたか』


『……だが完全ではない』


『それでも』


低く、確かにフェルは言い切った。


『“本物”だ』


リナが目を開く。


その瞳は――淡く、深い銀色に染まっていた。


「精霊たち」


静かに呼ぶ。


「力を貸して」


応えは――即座だった。


風が集まる。


水が揺れる。


炎が燃える。


大地が震える。


すべてが――リナを選ぶ。


「これは」


リナは小さく呟く。


「私が選んだ力」


次の瞬間――すべてが解き放たれた。


ドォォォォォン!!!


どこまでも眩い閃光の、その先に静寂が落ちる。


光が消えた時ーー


そこに――


もう一人のリナはいなかった。


ただ、静かな空間だけが残っていた。


そしてーー声が響く。


『よく選んだ』


深く、やさしい世界そのもののような声。


『お前はもう、“選ばれる者”ではない』


『選ぶ者だ』


リナの胸の光が、ゆっくりと落ち着いていく。


まだ不完全。


それでも――確かにそこにある。


エリオスが駆け寄る。


「リナ……!」


リナは、小さく笑った。


「まだ……全部じゃない」


「でも」


前を向く。


「もう、迷わない」


レオンが短く頷く。


アルが口元を上げる。


エリオスが静かに笑う。


フェルは静かに目を閉じた。


『……運命も変えていくか』


その意味をーーまだ誰も知らない。


だが確かにーー


“世界の流れ”が――変わった。


そしてーー神殿の奥。


誰も触れていないはずの石碑が――


カチリ。


わずかに、音を立てた。


光とも闇ともつかない“何か”が、静かに目を覚ます。


物語は――


次の“選択”へと進み始めていた。


第36話 終わり

ここまで読んでいただきありがとうございます!


少しでも続きが気になったら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。


次回もぜひ読んでいただけたら嬉しいです!

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