第33話 第一試練―光の試練
始まりの聖域ーーセラフィア神殿。
石の扉が、ゆっくりと開く。
ギィ……――
重く、深く、世界の奥へと続く音。
その隙間から流れ出したのは――冷たい風と、淡い“光”。
リナは思わず息を止めた。
「……ここが」
エリオスが小さく頷く。
「試練の間です」
その声は、わずかに震えていた。
フェルが低く呟く。
『精霊の器を選ぶ場所』
ドクン――
リナの心臓が、大きく鳴る。
懐かしい。
怖いのに、離れたくない。
懐かしい場所へ帰ってきたーー
そんな感覚。
神殿の奥ーー
そこは、巨大な円形空間だった。
天井は見えないほど高く、無数の石柱が並び立つ。
そして中央――
刻まれていたのは、古代の紋章。
光を宿す、精霊の印。
リナが、一歩踏み出す。
その瞬間――
ゴォォォォォ……
空気が震えた。
風ではない。
“光”が揺れている。
「……魔力じゃない……」
エリオスが息を呑む。
「これは……もっと純粋な……」
次の瞬間ーー紋章が白く、眩く輝いた。
光が、ゆっくりと、神々しく形を持つ。
それは――
翼を持つ存在。
人の形をしていながら、人ではない。
全身が淡い白光で構成されている。
瞳は――黄金。
ただそこにいるだけで、空間そのものが“浄化”されていく。
エリオスが、かすれた声で呟いた。
「……光の……精霊……」
フェルが静かに告げる。
『違う』
『あれは――』
『セラフィア神殿の守護精霊』
『光の上位存在だ』
声が響く。
空間そのものから。
『訪れし者よ』
『汝――器か』
言葉だけで、膝を折りそうになる。
だがリナは、前へ出た。
言葉は出ない。
けれど――
逃げなかった。
守護精霊の瞳が、強く光る。
『ならば』
『示せ』
ドォォォォン!!
光が爆ぜた。
衝撃が、神殿全体を揺らす。
床が砕け、柱が軋む。
「来るぞ!!」
レオンが剣を抜く。
その瞬間――
アルの姿が消えた。
キィィン!!
光速の一閃。
だが――
ガキィィン!!
見えない“光壁”に弾かれる。
アルが着地し、低く呟く。
「……硬ぇな」
次の瞬間ーー
守護精霊が腕を振る。
放たれるのは――純白の光刃。
風ではない。
“浄化する光”そのもの。
ドォォン!!
アルが跳び、柱に着地する。
だが、次の光槍が――
エリオスへ。
「っ……!」
間に合わない。
その時、リナが動いた。
思考より先に、体がポーチを開く。
精霊水。
薬草。
光の粒子が自然と集まる。
エリオスが叫ぶ。
「それは――!」
「調合する!」
手の中で、光が混ざる。
震えるほどの純度で仕上げる。
「精霊薬――!」
リナは地面へ叩きつけた。
パリン!!
弾けたのは――光。
広がる結界。
光槍が触れた瞬間――
バチィィン!!
弾かれる。
エリオスが目を見開く。
「防御……いや、違う……」
「浄化で打ち消してる……!?」
レオンが叫ぶ。
「今だ!!」
踏み込む。
重い一撃。
キィィィン!!
守護精霊の体を斬り裂く。
だが――浅い。
むしろ、光が増して暴走していく。
神殿が軋む。
「まずい……!」
エリオスが魔法陣を展開する。
「風よ――!」
ドォォン!!
風刃が直撃。
一瞬、動きが止まる。
その隙に――
アルが動く。
上空から落ちる黒い影。
「――そこだ」
キィィィィン!!
翼を切り裂く。
だが、それでも、
守護精霊は――倒れない。
むしろーー
悲しむように、光が揺れていた。
フェルが低く言う。
『止めろ』
『これは戦う存在ではない』
リナの心臓が強く鳴る。
ドクン。
守護精霊の瞳と、目が合う。
――知っている。
この光を。
この温もりを。
(この人……)
(悲しんでる)
リナは、静かに瓶を取り出した。
手が震える。
けれど――迷いはない。
「お願い……」
精霊水。
薬草。
そして――
自分の中の“光”。
すべてを混ぜる。
生まれたのは――
銀ではない。
純白の光。
「浄化薬――精霊式」
そっと、投げる。
パリン……
静かな音。
光が、広がる。
優しく。
包み込むように。
守護精霊の体を満たしていく。
沈黙が落ちた。
光が、穏やかになる。
暴れていた力が、静まっていく。
守護精霊が、ゆっくりとリナを見る。
その瞳が――初めて“感情”を宿した。
『……この光……』
震える声。
『エーテル様……』
その瞬間ーー
リナの胸が輝いた。
淡い、白銀の光。
守護精霊が――
ゆっくりと、膝をついた。
神殿に、静寂が落ちる。
エリオスが呟く。
「……試練が……終わったのですか?」
守護精霊は、静かに首を振る。
『否』
『始まりだ』
その声は、もう優しかった。
『器よ』
『汝は未だ未完成』
光が、少しずつ消えていく。
最後に残った言葉。
『闇が来る』
空気が凍る。
アルの目が細くなる。
レオンの剣がわずかに軋む。
フェルの瞳が鋭く光る。
光は消えた。
守護精霊の光が、完全に消えた。
静寂の中ーー
誰も言葉を発せない。
その中で――
リナだけが、動かなかった。
「……」
胸の奥で何かが、まだ残っている。
温かい光。
懐かしい声。
――まだ、終わっていない
リナはそっと胸に手を当てた。
その奥で、
確かに“何か”が目を覚まし始めていた。
――試練は、まだ終わっていない。
第33話 終わり
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